第25話 寿司にしよーよ!
「出前! なんという、いい響きなのでしょう!」
「急にオペラみたいになって、どうしたの二宮君?」
「ごめん。友達の家で出前取るって何か青春みたいで嬉しくなって」
「だよね! 私も友達と出前取るのやってみたかったんだ!」
何気ないところで意気投合する俺たち。
やっぱり俺と一ノ瀬さんは気が合うかもしれない。
実際、交友関係が狭い俺にとって、ここまで話しやすい人はなかなか居ない。
それが俺の推しなのだから驚きだ。
はっ、これが運命ってやつか……⁉
いや、期待するのはやめよう。勘違いしてショックを受けることだけはしたくない。
「それで、何を出前するの?」
「まだ決めてないよ。あーだこーだ言いながら、一緒に決めるのが楽しいんでしょ」
「確かにそうだ。忘れていたよ、出前の醍醐味」
「そう。頼む前から出前は始まっている!」
「名言と見せかけて迷うと書いて迷言のパターンのやつだ」
「よーし、二宮君、出前えらぼー!」
一ノ瀬さんはいつもゲーム動画を撮っている自慢のPCを起動し、出前サイトを開く。最新鋭のマルチモニター型のPCが、出前を取るためだけに使われるとは。
これこそ、宝の持ち腐れというやつだろう。
「寿司、中華、和食、ピザ……なんでもあると逆に迷うやつ」
「ね! どれでも好きなの選んで~」
「本当にどれでもいいの? 分からんけど、特上とかでもいいの?」
「別にいいけど?」
「俺、そういう社交辞令みたいなもの知らないから、ガチで頼んじゃうよ?」
「私もそういうの知らないから。実家が太い+登録者10万人の私の財力甘く見ないで」
「お、おう……」
これが、王者の余裕というやつか……。
なんという、言葉の説得力だろうか。
というか、一ノ瀬さんってそこら辺の社長より金持っていそうだな。
このまま一生裏方をやり続けて、一ノ瀬さんの脛を骨の髄までかじりつくすという人生もまた一興……なんて冗談はさておいて。
「おすし……」
思わず脳を介さず、脊髄から言葉を発してしまった。
家が貧乏な俺は、100円寿司を食べる機会すら滅多にない。『100円じゃない寿司』なんて一度も食べたことない。
だからこそ『100円じゃない寿司』である出前の寿司桶に目を奪われてしまった。
「寿司がいいの、二宮君」
「いや、寿司は流石にライン越えだよね。あはは。……ピザとかにしようかな」
寿司はいくらなんでもやりすぎだと考え、代替案を用意する。
だが、一ノ瀬さんの目はキラキラ輝きを放っている。
「えっ、寿司にしよーよ! 私も寿司食べたかったんだー」
「ほんとに? 一ノ瀬さんが良ければ、寿司にしたい」
「じゃあ、決定!」
「どれにしようか? 色々あるみたいだけど」
「うーん、確かに。出前寿司ってどの種類の桶頼むか迷うよね」
「そうなんだ。出前寿司頼んだことないから分からない」
「なんか、ごめん」
「いいよ、気にしなくて」
「私、この『煌』がいいな~」
「確かに、その『煌』いいかも!」
「出前寿司あるある、桶の名前、中二病っぽい。そう思わない?」
「だから、出前寿司は分からないんだってば」
「なんか、ごめん」
「もうわざとやっているでしょ、それ」
「サイドメニューとか頼む?」
「えっ、サイドメニューとかもあるの?」
「ほれ、見てよ。からあげにポテトにサラダ、なんでもござれ!」
「すげえ。至れり尽くせりだ。お寿司屋さんにポテトとかあるんか……」
「もしかして、回転寿司屋さんとかも行ったことないの?」
「正直、ほぼ行ったことない」
「100円だよ?」
「貧乏界隈にとって100円イコール安いという方程式は成り立たないんよ……」
「なんか、ごめん」
「三度目! 絶対わざとじゃん。いいよ、こんなところで天丼しなくても」
「えっ、天丼も頼むの? 食いしん坊だね、二宮君は」
「リアル天丼じゃないよ!」
あーだこーだ、面白おかしく二人で言い合いながら、結局サラダとポテト(大盛り)を追加で頼むことになった。
「えーと、時間は今すぐで、商品も間違いないかな」
「バッチリです」
「ここちゃんとしないとね。私、昔、今すぐ出前頼もうとしたら、間違えて三日後に設定しちゃったことあったから。忘れた頃にラーメンが届いた私の気持ちを考えよ」
「タイムカプセルみたいでエモい」
「エモくないよ! ただただ処理に困った!」
珍しくボケとツッコミを入れ替えながら、一ノ瀬さんは前回の失敗を踏まえ、入念に確認作業を行い、慎重に注文確定ボタンを押した。
「あとは待つだけだね」
「ね。配達の方、ちゃんと来られるかな。ほら、雨降ってるし」
「まあ、向こうはプロだし大丈夫でしょ」
「でも、大変だよね。宅配の人って、こんな雨の日でも配達しないといけないから」
「だね。しかも、こういう日に限って依頼が多いという負のスパイラル」
「なんか可哀そうだね」
「いや、こんな日に注文している俺たちは絶対に言っちゃだめだけど」
家でくつろぐこと二十分少々。
雨の中、ピンポーンとインターホンが鳴った。




