表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれはお前なんかになりたくなかった  作者: 倉入ミキサ
第三章:小箱蘇夜花
21/127

人魚の足


 「……!」


 『美晴フウタ』は蘇夜花をにらみつけた。

 すると、蘇夜花は少し間合まあいを作ってから、こう言った。

 

 「へぇ、まだその肩にはアザが残ってたんだね。もう治ってると思ってたよ。先週、カイくんが殴った時にできたんだよね? それ」

 

 やはり、この青アザもイジメによってできた物。内出血するほどの力で女子の肩を殴った「どこぞのバカ」のせいで、美晴はがた激痛げきつうに苦しめられていたのだ。

 しかし、風太は今そっちのバカではなく「この肩にぶつかった風太バカ」の方にいかりを感じていた。

 

 (やっぱり……おれとぶつかった時、美晴はガマンしてたのか……! こんなの、わめいてもおかしくない痛みなのにっ……!)

 

 心の中で、あの時のことをもう一度いちど美晴にあやまった。

 そして蘇夜花は、美晴の水色のパンツを指に引っかけてくるくると回しながら、『美晴フウタ』に言った。


 「安心して。わたしは、人を殴ったりするのがあまり得意じゃないから。刑だって暴力的なものばかりじゃないってことを、美晴ちゃんに教えてあげる」


 *


 月野内小学校の放課後。そろそろ夕方。

 体育館の入り口付近には、トイレがある。入り口の周辺は最近改装されたばかりなので、トイレにはまだ目立つような汚れがなく、新築しんちくのような状態だった。

 

 『美晴』は、その女子トイレの中に連れ込まれた。

 トイレ内にはすでに3人の女子が待機たいきしており、蘇夜花&五十鈴と合わせて敵は5人に増えた。


 「はーい。じゃあこれから、『わたしの胸ぐらを掴んで殴ろうとした美晴ちゃんが、二度とそんなことをしないようにするための刑』を始めまーす」

 「ちょっと蘇夜花。いつもなら、『デメ』とか『ハリけミミズ』とか、刑にも名前をつけてるじゃない。今回は名前、無いの?」

 

 五十鈴が蘇夜花に、素朴そぼく疑問ぎもんをぶつけた。

 

 「ふっふっふ、さっき考えたよ。今回の刑の名前は……『彷徨さまよ人魚にんぎょ』!」

 「『彷徨さまよ人魚にんぎょ』? 何よそれ。美晴が人魚ってこと?」

 「当たりー。じゃあ、早速さっそく始めるよ。下着は、終わったらちゃんと返してあげるから、落ち着いて受刑じゅけいしてね。美晴ちゃん」

 

 蘇夜花は一番手前の個室のドアを開け、そこにある洋式ようしき便器べんきのフタを上げた。

 

 「そこに座って? ショーツは降ろさなくていいよ」

 「……」


 抵抗することもできない『美晴』は、つばをゴクリと飲み込んだ後、指示しじされた通りに便座に座った。腰を降ろすと、白いフリルのスカートがふわりと広がった。

 次に、蘇夜花はポケットから銀色の手錠てじょうを取り出した。

 

 「もちろん本物じゃないよ。パーティーグッズのお店に売ってたの。……リイコちゃん、サヤナちゃん。美晴ちゃんの足を人魚にしてあげて」

 

 蘇夜花に名前を呼ばれ、リイコとサヤナという女子二人は迷うことなく『美晴』の足首に手錠をかけようとした。

 そんなことをされたら、便座から動けなくなってしまう。『美晴』はあしを少し動かして、ささやかな抵抗をした。

 しかし、それもむなしく……。


 カチャリ。


 両足首を繋がれてしまった。

 開脚かいきゃくしようとしても、カチャカチャと音がするばかりで、拘束は破壊はかいできそうにない。ただ、太ももだけが開閉かいへいできる状態だ。

 

 「さて、次は美晴ちゃんのお手々かな。図工の時間に使ったこのヒモで……真実香マミカちゃん、お願いね」

 

 そして、ヒモを手に持った真美香が個室の中までやってきて、『美晴』の両手も後ろでしばった。


 *


 体育館の入り口付近にある、女子トイレの個室。

 そこの洋式便器に、一人の女の子がパンツを降ろさずに座っている。両手はヒモで縛られ、両足は手錠で繋がれているので、四肢ししの自由はない。


 (くそっ、首の絞まりも強くなってきた……。しばらくは、大きな声を出せないな)


 悪い予感よかんしかしなかった。

 今の『美晴』にできるのは、身体をよじらせることと、潰れたのどから声をしぼり出すことぐらいしかない。まな板の上のこいの方が、まだ希望が見える状況だろう。


 「ふふっ……」


 『美晴』から見える位置に、蘇夜花をのぞく4人の女子たちが集まった。

 見下みくだしたようにクスクスと笑いながら、無防備むぼうびな『美晴』を見ている。

 

 (こいつら、おれをどうするつもりなんだよ……!)

 

 『美晴』がその連中をギリッとにらみ返していると、どこからか不思議な音が聞こえてきた。


 シュゴゴゴゴゴ……。


 蛇口じゃぐちから出る水の音。

 誰かが、水道の蛇口をひねったようだ。


 シュゴゴゴゴ……ビタビタビタビタビタ。


 そして次は、シャワーをびている時のような、多量たりょうの水が床をたたいている音。

 その音は、どんどん『美晴』に近づいてきた。

 

 「準備できたよ、美晴ちゃん。覚悟かくごはいいかな?」

 

 開いた扉から、蘇夜花がひょこっと顔を出す。

 音の正体は、そいつが手に持っているホースから出っぱなしの水だった。


 「まずは水難すいなん。ちょっとぐらいれても平気だよね。美晴ちゃんは人魚だから」


 蘇夜花はもう一度、ニッコリと笑った。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ