真実を映さない鏡
*
「安樹ちゃんとデートしたのっ!!?」
給食の時間が終わり、もうすぐ昼休みが始まるという頃。
衝撃の事実を告げられた雪乃は、右手にコッペパン左手に牛乳を持ったまま、風太の前で声を上げた。
「うん。昨日な。それよりさぁ……」
風太は全く動じず、済ました顔でその話題を終わらせようとした。
「うぅっ、ゲホゲホッ! のどに、のどにパンが……!」
「うわあ、大丈夫か雪乃。慌てて食べるなって。それよりさぁ……」
「『それよりさぁ……』じゃなーいっ! デートって、あの、本当にデート!!? 風太くんが、安樹ちゃんとっ!?」
「ああ。その時、ついでに接骨院にも行って、右腕が治ったんだ。これで、今日からドッジやサッカーができるぞ」
「いや、そんなことはどうでもいいの! デートって、その、い、意味分かってるの!? 安樹ちゃんから、こ、告白されたってこと!?」
「あはは、勘違いするなよ。デートって言っても、そういうのじゃないから」
「えっ? じゃあ、どういうデートなの?」
「友達のデートだよ」
「……?」
風太が言ってることの意味が、雪乃には理解できなかった。
仲の良い男女が二人きりの時間を過ごしたならば、それはもう、そういうデートなのではないか、と雪乃の頭の中では思考が渦を巻いた。
「だからさ、付き合ってもらっただけだって」
「付き合ってもらった……!? 風太くんと安樹ちゃんって、そういう関係なのっ!?」
「いや、そうじゃなくてさ。つまり、恥ずかしくないデートなんだよ」
「分かんない……。風太くんの言ってること、全然分かんないよーっ!! あーっ、もう!!」
「わっ!? お、怒るなよ」
「モヤモヤする……! モヤモヤするーっ!! じゃあさ、わたしの質問に答えてよ! しょーじきにっ!」
「お、おう? 質問?」
「昨日、どこで何やったの!? 全部言って!」
「え? 接骨院行って、プチ子の店行って、アイス食って……そのあとゲーセンで遊んで、解散したけど」
「本当にそれだけ!?」
「あ、ああ! 本当にこれだけだ……!」
「……!」
雪乃は、風太の目をじーっとみつめた。
どうやら、風太はウソをついてはいないようだ。
「次の質問! 昨日はずっと、安樹ちゃんと二人きりだったの?」
「いや、ずっとじゃなかったな。途中でプチ子に会ったから、三人で遊んだぞ……」
「プチ子ちゃん? プチ子ちゃんも一緒だったの?」
「うん。接骨院のあとで合流して、そこから後は三人で……って、これも本当だからな! プチ子に聞けば分かる!」
「分かった、そうする。あとは……安樹ちゃんの行動で、何か変なところはなかった? 最後にこの質問に答えて」
「変なところ? あいつは常に変だろ。例えばどんな行動だよ」
「例えば、風太くんの身体をベタベタ触ったり……とか。身体を密着させたりとか!」
「はあ? 別にそんなことはしてないぞ。普通に遊んだだけだ」
「そ、そう……なんだ……。そっか……」
やはり、風太の発言にウソはなさそうだ。
雪乃はとりあえず一安心し、徐々に落ち着きを取り戻していった。食べかけの給食がしっかりと喉を通るくらいに、冷静に。
「もういいよ。なんか、ごめんね。風太くん」
「いや、おれも悪かった。せっかくだし、お前も誘えばよかったな。また今度、遊びに行こうな。雪乃」
「え? わたしと風太くんで……?」
「ああ! おれとお前と、もちろんみんなでさ。人数は多いほうが楽しいだろ?」
「う、うん。ありがと。楽しみにしてる」
雪乃は笑顔で風太に答えながら、本心を表に出さないようにした。
「“みんなで”、じゃなくて、“二人きりで”、がいい!」なんて、素直に言えたら、どんなに楽だっただろう。
(安樹ちゃんはもう、動き始めてるのに。わたしは、まだ何の準備もしてない……)
雪乃が心の奥底で深く悩んでいても、それが風太に伝わることはなかった。風太はただ本心から、みんなで一緒に遊べることを望んでいた。
「風太くん……!」
「うん? どうかしたか? 雪乃」
「えっと……あ、やっぱり、なんでもないっ!」
「んん? なんでもないのか?」
「うん。えへへ」
雪乃の焦り。
風太はそれにも気付かない。
「ま、いいや。それよりさぁ……」
「うん。風太くんの方は、何かあったの?」
「おれの名札、どこにあるか知らないか? なくしちゃったみたいでさ」
「名札? 学校の?」
「そう。青いやつ」
月野内小学校指定の名札。体操服と同様に、男子は群青色、女子は臙脂色を基調にしている。毎日名札をつけているのは、一部の真面目な生徒だけだが、学校行事がある時は、必ず全員つけるように先生から指示される。
「いつもは机の中にしまってあるんだ。それが、さっき見たらなくなってて」
「さあ。わたしは見てないけど……」
「うーん、どっかに落としたかな? 買い直した方がいいかなぁ」
「名前や学年が書いてあるものだし、落としたならそのうち誰かが拾って届けてくれるよ。もう少し待ってみたら?」
「それもそうだな。探しながら待っていようか……」
小学校では特に珍しくもない、小さな紛失事件。風太は少し困ったものの、あまり大事には感じていなかった。
しかしこの一件は、まだ序章にすぎなかったのである……。
*
翌日。
「あれ? ない! ないぞ!?」
「どうしたの、風太くん」
「雪乃、おれのコンパス知らないか!? 黒いやつ!」
「え? わたし知らないよ」
「ちゃんとケースに入れて、机の中にしまっといたのに……」
*
翌々日。
「ない!? なくなってる!」
「どうしたんだよ、風太」
「健也、おれの国語辞典知らないか!?」
「ああ、あれか。さっき食べちゃった」
「つまらない冗談言ってる場合じゃないぞっ! あれがないと、おれは……!」
「困るのか? お前、いつもロッカーに置きっぱなしにして、全く使ってないじゃん」
「そ、そうだけど……。いつかは困るだろ!」
*
さらにその翌日。
の、放課後。いつもの保健室。
「ウソだろ!? どこにもないなんて……!」
「どうしたの、風太。深刻そうな顔して」
「安樹……! お、おれの体操服……知らないか?」
「体操服ぅ? さぁね。知らないよ」
「昨日体育があって、今日持って帰ろうと思って、ロッカーに置いておいたんだ……」
「ふむ。昨日は確実にあったんだね?」
「やっぱり何かがおかしい……! 最近ずっと、こんなことばっかりだ……!!」
風太は、数日前から続く紛失事件を安樹に語った。雪乃と健也に、それぞれ尋ねたことも。
「名札、コンパス、国語辞典、体操服か……。他の3つはまだしも、体操服なんてかさばる物を、よく紛失したね」
「それも毎日続けてだ! 一日経つごとに、おれの物が一つずつ消えていってるんだ! 絶対何かおかしいぞ、これ!」
「おかしい?」
「か、怪奇現象……! もしかしたら、何かの呪いかもしれないっ! 最後にはおれ自身が消えてしまう、恐怖の呪い……!」
「あはは、それなら美晴に代わってもらえば? ほら、そのペンダントを引きちぎってさ」
「いくら美晴でも、この世界から消えていいわけがないだろ……。っていうか、おれがまた『美晴』になっちゃうだろうが!」
「フフッ、冗談だよ。……でも、まだ何とも言えないね。変な偶然が、4回重なっただけかもしれないし。何か、心当たりはないのかい?」
「心当たり? そんなこと言われても、何も思いつかないけど……。筆箱とか教科書とか、毎日家に持って帰ってる物は、なくなってないぐらいか」
「ふーん、そうか。そうなんだね……!」
風太の一言で、安樹はハッと何かに気が付いた。しかし、まだ風太本人は気付いていないようで、腕を組んでウーンと唸りながら、どこかに手がかりがないか探し出そうとしている。
そんな風太を見て、安樹はほんの少し嬉しくなった。
「いいかい、風太? よく聞いてね」
「どうしたんだ、安樹。何か分かったのか?」
「まずは、二人で体操服を探そう。キミは男子更衣室を探して。ボクはそこには入れないから、他の場所を見てくるよ」
「お、おう! そういえば、更衣室はまだ探してなかった! 体操服があるとすれば、そこだな……! よし、探してくる!」
「うん。また後で合流しよう」
風太は保健室を飛び出し、全力ダッシュで男子更衣室へと向かった。
安樹は「ふぅ……」と溜め息をつくと、保健室から静かに出て、小走りで3階へと向かった。安樹の目指す場所はただ一つ、3階の6年1組の教室である。
*
ただの独り言。3階の廊下をてくてくと歩きながら、安樹は呟いていた。
「推理……でもないか。普通、物をなくしたら、誰でもその考えにはたどり着く」
一歩、また一歩と、風太のクラスである6年1組の教室へと近づいていく。
「偉いね、風太。『誰かに盗まれたかもしれない』なんて、全く口にしないで……。まぁそれは、友達を疑うってことだもんね。風太は押し殺したんだ、そういう良くない感情を」
教室の前までやってきた。
安樹は教室の扉に手をかけ、ぐっと力を入れた。
「『おれの知ってる人間に、泥棒なんているわけない』……と、彼なら言うのかな。風太のそういうところ、ボクは大好きなんだ」
ガラガラガラ……。
扉を開けると、そこはまさしく犯行現場。正真正銘の“現行犯”が、そこにいた。
「もしかしたら、風太はキミのことだって信じてたかもしれないのに。どうして、その気持ちを踏みにじっちゃうのかな」
「ひぃっ……!?」
“現行犯”は、突然現れた安樹にひどく驚き、腰を抜かした。そして、慌てて体勢を立て直し、自分の後ろに赤いランドセルをサッと隠した。
「今日は何を手に入れたの? 戸木田美晴ちゃん」
*
犯人は美晴だった。
風太のロッカーの前で、ぺたんと床に座り込んでいる。安樹には見られない位置に、自分のランドセルを置いて。
「あ、あのっ……! あの人……は……!?」
第一声。
「風太ならいないよ。ここには来ない」
「そ、そう……なん……だ……。良かったぁ……」
「ああ、本当に良かった。彼がここにいなくて」
「ふふ、ふ……」
美晴は不気味に笑った。ただでさえ不気味な顔なのに、さらに不気味になった。
「笑える状況かな? まぁ、いいけどさ。今日は何を盗ったの?」
「盗った……? わたしが……? 何を……?」
「あれ? シラを切るつもり? 現行犯なのに、それは無理があるんじゃないかな」
「盗ったん……じゃ……ない……。返って……来たの……」
「うん?」
「わたしは……返して……もらってるの……!! あれも……これも……全部……わたしのもの……なんだからっ……!!!」
「……!」
美晴は語気を強めた。
その勢いに、安樹は少しひるんだ。
「な、なんだ……? キミは、頭がおかしくなったのか?」
「わたしが……本物の……二瀬風太……なんだもんっ……!! だから……自分の物を……返してもらってる……だけ……!! 何も……おかしい……ことなんて……ないっ……!!」
「キミは風太じゃない。鏡を見てみろ」
「鏡……? ふふ、ふふふ……! 鏡を……見ながら……『おれは風太だ』って……言い続けてると……ね……、本当に……風太くんに……なれた気がして……、身体の……痛みも……なくなるの……! わたし……もう……男の子……だから……! ふふ、ふふっ……!!」
「痛み? そうか、生理のことか……」
風太が生理前の女の身体を突き返したので、美晴は生理中の女の身体を受け取ったのである。美晴はその時の痛みを、強烈な自己暗示によって攻略したと言っている。もちろん、まともな方法ではない。
「自分に催眠をかけるなんて……充分イカれてるよ。キミは」
「わ、わたしは……おかしくなんて……ないっ……!! そもそも……全部……あなたの……せい……なんだから……!! 菊水……安樹……!!」
「ボクのせい?」
「あなたが……現れてから……全てが……狂った……!! こんなはず……じゃ……なかった……のにぃっ……!! あなたのせいでっ……! あなたの、せいでっ……! うゔっ……うう゛あ゛あああぁんっ……!!」
「うわっ、いきなり泣かないでよっ!」
「もう゛いいっ……! ぐすっ……! 消えてっ……! どこかに……行ってよ……!! あなたと……話すこと……なんて……何もない……からっ……!!」
「い、いやだ。ボクは消えない。ずっと風太のそばにいる。キミが消えたらどうなんだ」
「……!」
「なんだよ。今度は急に黙っちゃってさ」
「分かった……。わたしは……消える……。さよなら……!」
美晴はサッと立ち上がり、ランドセルを背負って教室を出て行こうとした。
しかし、安樹はここに来た要件をハッと思い出し、自分の真横を通り過ぎようとする美晴の肩を、ガシッと捕まえた。
「うわっ、待てっ!! 忘れてたっ!!」
「きゃっ……! 何……!? やめてっ……!! 手を放してっ……!」
「うるさい! キミ、今逃げようとしただろ。盗んだもの、ここに全部置いてかなきゃダメだ」
「だから……、盗ってない……って……言ってるでしょ……!? いい加減に……してっ……!」
「いい加減にするのはキミだよ! 風太が困ってることぐらい分かるだろ!?」
「風太は……わたしっ……! わたしは……何も……困ってないっ……! それで……いいのっ……!!」
「だから、そんなワケの分からないことを言うなよっ!」
振り払おうとする美晴。絶対に放すまいと力を込める安樹。身体能力で言うと、ほぼ同じくらいの二人なので、実力は拮抗していた。
しかし、それもそう長くは続かなかった。
「も、もうっ……! 放してっ……てばっ……!!」
「えっ!?」
安樹は、美晴のブラウスの襟元を掴んで、グイッと引っ張ると、そこで見た“何か”に驚き、すぐに両手をパッと放してしまった。
いきなり力を抜かれたので、美晴は大きくよろけ、転びそうになった。
「きゃっ……! 痛たた……!」
安樹は瞳を大きく見開き、口を覆っていた。まるで、何か背筋が凍るようなものを見てしまった時のように。
「み、美晴……?」
「はぁ、はぁ……。何……?」
「それはもう、一線を超えてやしないかい? キミ、自分が何をしているのか、分かってるのか?」
「何の……こと……?」
「そ、そのブラウス、脱いでみてよ……!」
「……!」
見られてしまった。という風な顔をして、美晴は固まった。
「……」
「……」
思わず、二人とも黙ってしまった。次の言葉が、なかなか見つからない。
考えに考えた挙げ句、先に美晴の方が気持ちに整理をつけ、次に言うべき言葉を発見した。
「ふぅん……。見たんですね……。わたしが着てる……ブラウスの……下……。じゃあ、もう……隠さなくて……いいよね……。好きなだけ……見れば……?」
美晴の態度は、開き直りだった。そして美晴は、ブラウスのボタンを上から三つほど外し、安樹に中を見せた。
「これが……何……? 何か……おかしい……?」
「ああ、そうか。やっぱり着てるのか。風太の体操服を」
襟元や袖口が、群青色。それはまさしく、男子の体操服である証だった。
さらには、「6年1組 二瀬風太」と書かれた青い名札まで胸に付けている。しかし、服装が男子のものであっても、美晴の身体は女子なので、胸のふくらみに乗った名札は、少し上を向いていた。
「わたしの……スカートの中も……見たい……? 男子の……青い……短パン……はいてる……だけ……だけど……」
「いや、もうたくさんだ。風太の体操服の上からブラウスとスカートを着て、今日一日を過ごしたのかい?」
「コンパスと……国語辞典も……使ってるよ……。だって……わたしのもの……だもん……。何も……おかしくない……。これが……普通なの……!」
「もう本当に、美晴に戻る気はないのかい?」
「バカなこと……言わないでっ……!! わたしの……ことなんて……何も知らないくせに……!! お母さんが……入院して……本当のひとりぼっちに……なっちゃった……わたしの気持ちなんか……分からないくせにっ……!!」
「キミのお母さんが……!?」
「この……学校に……来てるのは……ウソの……わたしなのっ……! 家で……ひとりで……風太に……なってる時……だけ……が……、本当の……わたしなの……!! その時間だけが……今のわたしには……大切なの……」
「……風太がそれを聞いたら、どう思うかな」
「き、嫌われても……いいもん……。気持ち悪いって……思われても……構わないっ……。どうせ……わたしは……もうすぐ消えるから……」
「え……? キミが、消える……?」
「100ノートに……ね……。わたしは……願いを書いたの……。『戸木田美晴をこの世界から消してください』……って……」
「ウソだろ……!? それが、キミの願いなのか……!? キミは悪魔に、自分を消してくれと頼んだのか!?」
「あはっ、あはははっ……。だって……わたしが消えたら……みんな幸せだから……。悪魔は……わたしになった……風太くんを……消したかった……らしいけど……、そうならなくて……よかったね……。予定通り……ちゃんと……消えてあげるから……、わたしのことは……もう……放っておいて……」
美晴は安樹に背を向け、立ち去ろうとした。
しかし、安樹はその背中に向かって、大きな声で叫んだ。
「待って!! 最後に1つだけっ!」
「……」
「もしも、万が一、風太の私物を返す気になったなら、明日の朝、保健室に来て! そこにはボクしかいないし、他の誰にも見られずに受け取ることができるからっ! それでっ……」
安樹が言い終わらないうちに、美晴は黙って去ってしまった。
今の言葉が、しっかり伝わったのかどうかは分からない。ただ、信じるのみである。
「おーい、安樹ー!」
「あ、風太」
美晴と入れ違いで、風太がやってきた。
安樹はなんだかホッとして、口元に笑みを浮かべた。
「更衣室にはなかった。そっちはどうだ?」
「うん? んーっと、まぁ……」
「えっ!? もしかして、あったのか!? おれの体操服っ!」
「いや、まぁ……。重要な手がかりは見つけた、かな。もう少しだけ、待ってくれる? 集めた情報を整理するから」
「お、そうか! 頼りにしてるぜ、安樹」
「う、うん。あはは……」
*
そして、次の日。今日の天気は晴れ。
今朝からにぎわいを見せる場所は、6年2組。月野内小学校の中で、一番イジメが盛んなクラスである。
その主犯とも言えるポニーテールの女子生徒、蘇夜花は、前の席に座る学級委員の女子生徒、五十鈴と、のんびり楽しく談笑していた。
「それでさー、五十鈴ちゃん」
「ふふ、なぁに? また変なロボットの話?」
「ううん、それは一旦置いといて。次はねぇ、美晴ちゃんの話ー!」
「えっ……!?」
五十鈴の表情が、一瞬にして変わった。
その一方で、相変わらず蘇夜花はニコニコと笑っている。
「『刑』の話だよ。そろそろ進めようと思って」
「そ、そうね……。でも、最近の美晴は大人しいわ。あなたに逆らうつもりはないんじゃないかしら」
「別に、逆らうとかそういうのじゃなくてさ。最近の美晴ちゃんを見てると、けっこう面白いんだよー? 給食の時、男子みたいにガツガツ食べてるの。それでも結局食べ切れなくて、残しちゃってさ」
「チッ……! 目立つ行動はやめろって言ったのに。美晴のバカ」
「うん? 今何か言った?」
「い、いえ。何も。それで、どうするの?」
「もちろん、『刑』やりまーす! 期待して待ってる人もいるだろうし、それに……」
「それに?」
「ちょっと、確かめたいことがあるんだよねー。泥棒疑惑が本当なら、重い罰を与えないとね!」
「うん……?」
五十鈴は首をかしげ、蘇夜花は怪しく微笑んだ。




