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ゴリラが農業っておかしいか?

 なんか、やばい気がする。


 漠然とした不安を感じた。

 目の前ではルーシー達が、この木何の木に実った甘い匂いを発する色とりどりの果実や、色の照り具合といい実に旨そうな葉っぱをちぎって貪っている。

 尋常ではない量が今まさに消費されているのだ。


 うん、漠然とした不安じゃねーな。

 近い将来、この木何の木が丸裸にされてしまうだろう。

 緑の回復量がどれだけあるのかは謎だが、ルーシー達が増えれば追い付く筈が無い。

 増えすぎたヤギが島の緑を食べ尽くす展開のヤツだ。

 捕食者がいれば生態系は安定するが、この木何の木にジャガーを放つ訳にもいかない。

 こうやって関わった以上、誰が食われたとしても可哀想だしな。

 特にフータに懐いているルーシーが襲われでもしたらやりきれない。

 

 となると、このままこの木何の木が枯れてしまうのを黙って見ているしかないのだろうか?

 目の前にある食料を思う存分食いまくり、天敵がいない環境で増えるがままに個体を増やし、結果として環境を破壊して種族の生存そのものを危うくする。

 この様な事は動物だけと思いがちだが、案外に植物界もそうである。

 アレロパシーで他の種を寄せ付けずに繁茂するセイタカアワダチソウは、アレロパシー故に自滅するという。

 しかし、荒野に進出するパイオニア・プランツがいなければ、生態系はいつまで経っても豊かにならない。

 荒れた大地に根を下ろし、土地を肥やして環境を整える存在がいなければ、繊細な種が生きる事は叶わない。

 草も生えていない不毛の大地が極相に至る過程は、膨大な種の交代劇に他ならないのだ。


 その場その場に適した種が最大限に増える事こそ、自然の自然な姿なのかもしれない。

 恐竜が地上の覇者となったのも自然な事なのだろうし、隕石が原因にせよ、環境が変わって哺乳類が取って代わったのも当然なのだろう。

 

 それを思えば、ドードーやリョコウバト、ステラーカイギュウを取りつくして絶滅させた人類の所業も、種としては当たり前の行為なのかもしれないな。

 と言うか、オーストラロ・ピテクスの時代にも他に猿人類はいたと言うし、ネアンデルタール人もホモ・サピエンスに吸収されて消えてしまったという。

 ホモ・サピエンスの繁栄を下には、どれだけの種族の絶滅が隠されているのだろうか……。

 

 うーむ、難しい。

 と言うか、ゴリラが考える事では無いよな。

 何でこんな事まで心配しているのだろう? 

 好きにやらせればいいんじゃなかろうか。

 いや、しかし、分かりきっている事を放置するのは、ナショジオ大好き人間の俺としては、どうにも看過出来ない。 

 けれども俺だけで考えているのも面倒なので、二人に意見を求めた。


 「せやけど、タカ、どないするんか?」


 俺の懸念した所を聞き、テルが尋ねた。


 「どうするって言ってもな……」

 「め、目の前にあるのに、わ、わざわざ下にまで、行かない、よね?」

 「ま、そうだろうな」

 「味も匂いも段違いやしな」

 「お、美味しいよね!」

 「せやな。日本でも食べた事がないわー」


 テルとフータがこの木何の木になる果物について互いの感想を述べた。

 ま、実際に、この木何の木に実る果実は実に美味い。

 様々な種類の果実が実っているが、地上で食べるよりはどれも比べ物にならないのだ。

 これもあの神の悪巧みかもしれねーが、美味いものは美味い。

 ルーシー達に味の違いが分かるのかなと思っていたが、予想に反し、大好評であった。

 しっかりグルメであったというわけだ。

 だからこその俺の心配なのだが……。


 因みに、フータのお腹には今もルーシーが引っ付いている。

 フータの姿を見つけた途端、ルーシーは大喜びで駆けつけ、そのままフータから離れようとしない。 

 フータが甲斐甲斐しく世話を焼いているから、尚更なのかもしれない。

 母親を無くして幼児返りを起こしているのかもしれないな。


 それは兎も角として、木を丸裸にしないためにも何か対策を考えないとな。

 と言って、考え付くのは農業くらいしかない。

 農業自体が環境破壊その物なのだが、そんな事まで気にしていたら何も出来ないままだ。


 木の上では流石に無理なので、地上に下りる。

 ま、農業といっても種を蒔くとかそういった本格的なものではない。

 バナナを増やそうと思っているのだ。

 

 地球では最近、バナナの病気が蔓延しつつあり、バナナがヤバイらしい。

 既に他界してしまった俺たちには関係のない話ではあるが、プランテーションの弊害かもしれねー。

 プランテーションでは同じ作物、同じ品種を大量に作付けする。

 効率を求めてであるが、広い面積に同じ品種のものが大量に作付けされていると、病害虫の発生でもあると、短時間であっという間に広がってしまうらしい。

 土壌の栄養バランスが偏り、微生物相の単純化などによって植物の抵抗性が失われるらしい。

 ま、俺達の場合は、プランテーションと呼べる程にバナナを植えるわけでもないから関係ないがな。


 それはそうと、バナナって種がないが、不思議に思ったことはないか?

 野生のバナナにはしっかり種があるんだぜ?

 ここらに生えているバナナは種有りさ。

 種が多すぎて正直食べる所が少ない。

 地球で売られているバナナは特別なバナナなんだよな。

 

 4倍体といって、染色体の数が普通の倍ある。

 人間が遺伝子を操作したとかではなく、自然界でも時々見られる現象さ。

 普通は、花粉と胚で半分ずつになってる染色体の数が、減数分裂せずにそのまま受精し、4倍体とか3倍体とかの個体ができるらしい。

 そうなった個体は種を作る事ができず、子孫を残す事ができない。

 だから自然界では4倍体の個体はほぼ見られない。

 そりゃそうさ、子孫を残す事が出来ないんだからな。

 その個体が枯れてしまえばお終いである。

 

 バナナの場合は、それを見つけた誰かがその株を意図的に増やしたからさ。

 桜のソメイヨシノと同じ、クローンというわけだ。

 ソメイヨシノは挿し木で増やし、バナナは株から芽が出るので増やせるわけだ。


 バナナの病気が世界中に蔓延しつつあるのは、増やしたバナナの品種が少ないという理由もある。

 世界中で同じ様な品種のバナナが植えられているから、ある病気が広がると世界中に広がってしまう。

 新しい品種を作るには野生のバナナというのか、種を付けるバナナを使って交配し、新しい品種を作り出し、それから4倍体にしないといけない。

 中々に大変なことさ。

 ま、世界中でいつでもバナナを食べようなんて思うのが間違いなのかもしれないな。

 それでバナナが壊滅してしまったら元も子もない。


 で、ルーシー達を使ってバナナを植えようと思ったわけだ。

 増やしたい品種は偶々見つけた種無しバナナだ。

 出来すぎてるって?

 そうだな。

 これも神の思し召しというやつだ。

 ゴリラなんかに農業なんて出来ないだろうと思ったのかもしれねー。

 必ず成功させて奴の鼻をあかしてやるぜ!


 「それでよ、フータ。ルーシーにバナナの移植を教えたいんだが、できるか?」

 「大人にやらすんと違うんか?」

 「もちろんそうだが、ルーシーには今後の為の刷り込みにならねーかと思ってよ」

 「で、でも、ルーシーは子供、だよ?」

 「遊びついでなら、覚えるんじゃねーかな?」

 「や、やってみる」

 「さすがフータやな」


 特定の植物が増える後押しができるだけでも随分と違うはずだ。 

 生えてるものをただ食べるだけから進歩できる事を願うぜ。

 因みに、日本では縄文時代に既に栗を集落の周辺に増やしていたらしい。


 「と、ところで、移植ってどうやるの?」

 「そこかい!」

 「て、テルは知ってるの?」

 「……わいも知らんわ……」


 そうだろうとは思ってたけどよ。


 「はーい、注目! これからバナナの移植を始めまーす」

 「「パチパチパチ」」


 ルーシーもフータを真似て不恰好ながら手を叩いている。

 うむ。

 なかなか筋が良くてよろしい。

 その調子で色々覚えて欲しいものだ。


 「用意するものはありません! 徒手空拳で対処します!」

 「ま、オーちゃんらは道具も使えへんしなー」

 「まず、増やしたいバナナの株を決めます」


 増やしたいのは偶然見つけた種無しバナナの株である。


 「実が成っていたらもったいないので熟すのを待ちます」

 「そりゃ、そうやな」

 「収穫したら、株を根元から切り倒します。実を採っただけだと株は生き続けますが、二度と実は成りません。株を切り倒したら芽の発生が促進されるので必ず切り倒します」

 

 俺は手本を見せた。


 「これが先日切り倒して数日経った株です。周りから芽が出てますよね?」

 「なるほど、小さいのがいっぱい出とるなー」

 「よ、用意がいいね……」

 「もし実がなってなかったら、実がなるまで待っても大丈夫ですよ。時間はありますからね。で、この芽では小さすぎるので、もう少し成長するまで待ちましょう。移植適期はこれ位の大きさの株ですね」


 俺の背丈まではいかない苗を示す。


 「芽は大きければ大きい方がええんと違うんか?」

 「いい質問ですねー。育ちすぎると根が張っているので掘り出すのが大変だし、根が切れてしまいます。根は出来るだけ切らずにおきたいので小さすぎず、大きすぎずのこれ位が適期ですよ」

 「了解や」

 「う、うん」

 「では、移植する株を掘り出してみましょうか。あ、言い忘れていましたが、移植は雨の後にしましょうね。本当は雨の前がいいですが、雨はいつ降るかはわかりませんからね。移植の後に水をあげられたらそれが一番ですが、如何せん方法がないので仕方ありませんね」


 シャベルもツルハシもないので、素手で対応するしかない。

 幸いな事に、バナナの茂っているこの辺りの土は硬くない。

 手でも掘れるレベルである。


 「では、移植する株の根をできるだけ切らない様にしつつある程度掘ります。はい、このくらいですね。そして、株を切り取ります。根元を持って一気にどうぞ!」


 ボキッと音を出して株が離れる。

 成功だ。


 「はい、皆さん上手くいきましたね。あー、割れちゃいましたかー。多分大丈夫ですよ。はい、では次に移植する穴を開けて埋めてしまいましょうか。近すぎない位置に開けましょうね。穴は事前に用意しておくべき、ですか? オーストラロピテクスにそれは無理でしょう? その時その時で十分ですよ。はい、では、皆さん埋めましたか? では土を踏み固めましょうか。根に土が密着しないと活着しませんからね。終わりましたか? はい、ではお疲れ様でしたー」


 雨の後ということで、水をかけなくても活着することを祈る。

 これで種無しバナナがいくらかは増えていくだろう。

 食べやすいし、サルと言えばバナナだろうし、この木何の木の果実を食べ尽くす速度が抑制されればいいがな。

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