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9話 もう1人の転校生(その②)

「あ”あ”あ”っ!」


いつの間にか魔王の姿に戻ったほむらが、全身に青白い炎の玉をいくつも纏わせ仁王立ちしていた。


勇気の背に大量の汗が流れる。


(ほむらがヤバい!何でこうなった?)


「いやいや・・・、これは驚きだよ・・・」


さっきから薄っぺらい信用が出来ない笑みを浮かべていたイザナギだったが、ほむらの変化に驚きの表情で見つめていた。


「僕の『事象改変』を無理やり捻じ曲げるとはねぇ~、少し君の事を見くびっていたよ。」



「黙れ!」



魔王ホムラが右手をイザナギへ向けると、全身に纏っていた無数の炎が掌へと集まり始める。



「素直に降参するよ。ここで暴れられでもしたら収拾がつかなくなるからね。最低でもこの学園は跡形も無くなるかも?まさか、魔王の逆鱗は勇・・・」



「これ以上は喋るな!」



更にホムラの威圧感が上がる。


「分かった、分かったから、話を本題に戻すとするね。本来はその為に君達を呼んだのだからね。」


ペロッと悪びれる様子もなく、イザナギがいたずらっ子のように舌を出した。


「本題だと?」


次の瞬間、ホムラの掌に集まっていた炎の玉が霧散し消えてしまう。


ス・・・


ホムラの姿が先ほどまでの女子高校生ほむらの姿へと戻ってしまう。


「何だ!急に力が抜ける?貴様の仕業か!」


ジロリとほむらがイザナギを睨む。

そのイザナギは相変わらずのニタリ笑いを浮かべていた。


「ふ~~~、焦ったよ。僕の固有能力が破られるとはね。だけど、この世界だとずっと魔王の姿を維持出来ないみたいだね。どうやらほむら君も冷静になったみたいだし、それじゃ本題に戻るとしようかね。」


隣に座っている金髪の子の肩に手を置く。


「いやぁ~、やっと脱線状態から元の話に戻ったよ。」


そして再び勇気へとウインクへする。


「まだふざける気か?」


今度は勇気がジロリと睨んだ。

しかし、ホムラの時とは違い、イザナギは何か嬉しそうだ。

その態度に勇気は「はぁ・・・」っと深いため息が出てしまう。


「ふざけてなんかいないよ。僕はどうも他人から誤解されるみたいな性格なんだよ。」


そしてペロッと舌を出す。


(その態度が問題なんだよ。)


心の中で突っ込む勇気だった。



「それで、僕からのお願いなんだど、この子のお世話を頼みたいんだよ。今夜からこの子は1人暮らしになる予定なんだからね。アメリカ人の母親の仕事の都合で一時帰国する事になって父親も一緒に行く話でね。彼女は日本の授業しか受けていないしアメリカの高校に転校は無理だろう。との設定だよ。日本人の父親と君達の父親は友人の設定で、彼女が1人暮らしをするから安全の為に同じマンションのお隣さんに引っ越しと改変しておいたよ。君達の両親がこの子の両親が帰ってくるまでこの子のお世話をするってね。」



「「・・・」」



「「・・・」」



「「はぁああああああああああああああああああああああああああああ!」」



勇気とほむらは数十秒はお互いに黙って見つめ合っていた後、お互い大声で叫んでしまった。



「何でだよ!」

「理由を教えてくれる?」



2人から矢継ぎ早に説明を求められる。


「う~ん・・・、理由ね、それはね彼女だからだよ。彼女の名前は『鞍月 理沙』、どう?誰かの名前に似ていない?」


「いや!知らん!」


勇気は即答で返事をしたが、ほむらは何か思い出したような表情になった。


「まさか?この子は?それこそあり得ない・・・」


だが、イザナギはほむらの答えを予想していたのかニヤリと笑う。


「ほむら君はどうやら分かったようだね。」




「クラリス・・・」




ボソッとほむらが呟いた。



ガバッ!



「す!すみませぇえええええええええええええええええっっっん!」


いきなり金髪の少女がソファーから飛び上がり2人の前で土下座をした。


「「はい?」」


状況が理解出来ずに勇気もほむらも立ち尽くすのみだった。



「ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・・・・・・・・・・」



少女がずっと謝り続け頭を上げようとしない。


「なぁ、ほむら・・・、今の言葉ってあのクソ女神の名前だよな?まさか?」


信じられない表情で勇気が少女に視線を向ける。


「多分だけど間違いないと思うわ。制約を破った神はその存在自体が無くなるはずなんだけど・・・、どうして人間になっているの?この様子だと私達と戦った記憶があるみたいだしね。」


グルン!


2人が揃って首を曲げ一点へ視線を向けた。


「え!僕?あははは・・・、バレたちゃった?」


「それくらい分かるわ!」


盛大に突っ込む勇気であった。


「僕、これでも最高神の1柱なんだけどな・・・、もう少し敬う気持ちがあっても良いんじゃないのかな?」


「黙れ!」


間髪入れずほむらが突っ込む。


「何!何!この連携の良さ!ほむら君に勇気君を取られた感じがして、お姉さん、悲しいし寂しいよぉぉぉ~~~」


白々しく嘘泣きを始めたイザナギに対して、2人はすっごく疲れた顔をしている。


「話が進まないよ・・・」


ほむらが盛大な溜息を吐いた。


色々と突っ込む事を諦めた勇気だったけど、あえてイザナギへ近寄った。


「確かにあの時は『謝ったって許さない!』って言ったけど、ここまで怯えてもなぁ~~~、本当、アレに何かあったのか?それとも、あんたが何かしたのか?」


「へへへ・・・、勇気君が来てくれた。お姉ちゃん嬉しいな。」


とても嬉しそうにイザナギが微笑む。


しかし!


勇気の後ろに立っているほむらが鬼の形相でイザナギを睨んでいた。


「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


土下座中の少女がチラッと顔を上げ一瞬だけほむらと目が合ってしまったけど、あまりの恐怖からなのか、額を床に擦りつける勢いで再び土下座をした。




「君達を揶揄のは面白いけど、いい加減に止めておくね。」


勇気へとペロリと舌を出して笑っているが、その頭にはかなり大きなたんこぶが出来ていた。

さすがに勇気も『いい加減にせんかい!』とイザナギに拳骨を落としてしまった。

まぁ、イザナギは自業自得だろう。


「そうしてくれ・・・、キリがない・・・」


イザナギ達が座っているソファーの反対側に勇気とほむらが座っていたが、2人の顔はまるで徹夜明けのような半分死んでいる顔になっていた。

イザナギには『これ以上は振り回さないでくれ!』と切に願う2人だった。


「彼女、クラリス君がどうして人間となって君達の前に現われたか?だよね。ほむら君は分かっているだろうけど、制約を破った神は存在そのものを無くしてしまう。でもね、『破壊と再生』を司る僕の力で彼女の消失だけは免れたんだよ。」


「そこまでの力が・・・」


ギリッと歯を鳴らし神妙な表情のほむらに対し、相変わらずのニヤニヤ顔のイザナギと対照的な2人である。


「ふふふ・・・、これでも伊達に最強と名乗っていないからね。それにね、彼女は確かに性格に難があったけど、仕事に関しては僕達神の中でもかなりの優秀な方だったんだよ。かつては滅びかけた世界『エトランゼ』を見事に再生したしね。僕達神の力を極力使わずに、現地の生物のリソースだけで世界の維持をさせたから、リソースを無駄使いする他の世界の人々を嫌っていたのだろうね。」


「だからといって、その人達を滅ぼそうとしたり、俺達のような別世界の人間を誘拐みたいに召喚しても良いって理由にならないだろうが。」


ジロリと勇気が元クラリスだった少女を睨む。

その視線に少女がピクンと震え再びガタガタとしてしまう。


「いくら何でも俺達に怯え過ぎていないか?確かにあの時の戦いはお互いに殺し合いをした自覚はあるけど、そこまでなぁ・・・」


「まぁ、僕もここまでなるとは予想もしなかったんだよね。さっきも言ったけど、彼女の性格がちょっとアレだったから、お仕置きも兼ねて君達を助け出す1000年の間、彼女に罰を与えていたんだよ。少しは他人の痛みを分かってもらうようにね。」


「へぇ~、あなたの口からそんな言葉を聞くとは思わなかったわ。」


ほむらが胡散臭い視線でイザナギを見つめる。

さっきまでのイザナギの行動からすれば、彼女もそう思って当然だろう。


「死んですぐに転生し生まれ変わる事を延々に経験させただけなのにね。最初はミジンコから初めてすぐに死んで、また微生物に生まれ変わって、またすぐに死んで・・・、記憶はずっと残したまま・・・」


その言葉に少女が激しく反応する。


「やだ・・・、やだ・・・、もう死にたくない・・・」


ソファーからずり落ち頭を抱えながら震えている。

その様子をイザナギは勇気達と違いあまり興味がなさそうな目で見ていた。



「「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」」



2人が盛大にため息を吐いた。


スクッとほむらが立ち上がり少女の前に立った。


「クラリス・・・、今は鞍月理沙・・・」






「安心して、もう大丈だよ・・・、理沙・・・」



ほむらがしゃがみ込み少女を優しく抱いた。



「えっ・・・」



信じられない表情で少女がほむらの顔を喉き込む。


「苦しかったんだよね・・・、辛かったんだよね・・・」


「魔王・・・、何で私なんかに・・・、ずっとあなたを殺そうとしていたのに・・・」



「もう良いの・・・、あなたは十分に償ったわ。心が壊れてしまうまでにね・・・」



「う、う、う、うわぁあああああああああああああああああああああああああ!」



少女、今の名前は鞍月理沙がほむらの胸の中で思い切り泣いている。

その様子を勇気はジッと見つめていた。


「あれじゃ、もうあいつをクソ女神って呼べないな・・・」


そして視線をイザナギへと移した。


「どちらかというと、お前の方がクソな気がするわ。明らかにやり過ぎだ。」



「たった数千回の死の輪廻で?」



ニタリとイザナギが笑う。


「貴様の価値観は確かに神だよ。俺が召喚された時に感じたあの女神の価値観と同じだ。だからな、貴様との問答はどれだけやっても意味がないだろうな。」


明らかにイザナギのやり過ぎな仕打ちには勇気も怒りが湧いていた。

だけど、ここで暴れても何も意味がない事も分かっている。異世界とは違い、ここは勇気達が住んでいる世界なのだから、自分の過剰な力でどれだけ被害が出てくるか?

さすがに考え無しで暴れる訳にいかない。

それ以上にイザナギの力の底が知れない事が大きい。


再びため息を吐いた。


「今は貴様の言う事、この子の面倒は俺達が見てやる。この様子だと一人暮らしすら危ないからな。隣の部屋で事件が起きるのも嫌だし、なんちゅう設定をぶち込んでくれる・・・」



ぎゅっ!



「うがっ!や!止めぇぇぇ・・・」」


勇気の苦しそうな声が聞こえる。


「やっぱり勇気君は僕の味方だね。お姉ちゃん嬉しいよ!このまま僕と結婚しちゃおうか?」


勇気の顔がイザナギの豊満な胸に包まれていた。

とても嬉しそうに彼女が勇気へ飛びつき、彼の顔を自分の豊満な胸に押し当てている為である。



「あ”あ”あ”ぁあああああああああああああああああ!」



ほむらが勢いよく立ち上がりスッと右手の人差し指を天井へと向ける。


「あわわわわわぁぁぁぁぁぁ・・・」


その隣で理沙が腰を抜かし、恐怖の表情でほむらを見上げていた。




絶火ぜっか!」




巨大な炎が勇気とイザナギを包んだ。



チュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオッン!



「うわぁああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~!」

「あれぇええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~!」





・・・



・・・



・・・





腕を組み仁王立ち姿のほむらの前で勇気とイザナギが正座をしていた。


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やる気倍増になります。

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