第11・6節 木守の茶碗と古田の失敗談
10月21日は古田家、10月22日は細川家、10月23日は千家、10月24日は古田家、10月25日は細川家というローテンションは変わらず、引き続き茶の湯の特訓が続いた。
10月26日朝、秀吉の使者が手紙を届けに来た。
使者:「関白様より、利休様に手紙を預かっております。」
私:「はい、受け取ります。」
秀吉の手紙:「先日より鍋島直茂と龍造寺長信が来ている。10月26日昼に宗易の家で茶会をせよ。」
私は手紙を届けてくれた使者にお礼を言った。
私:「手紙ありがとうございます。関白様に確かに承りましたとお伝えください。」
使者:「かしこまりました。」
私:「宗恩はいますか。」
宗恩:「どうされましたか、利休様。」
私:「関白様から命令書が届きました。今日の昼、関白様のお客様が来ます。おもてなしの用意をしてください。」
宗恩:「はい、すぐに用意いたします。」
昼になり、二人の武将がやってきた。
私:「鍋島直茂殿と龍造寺長信殿ですね。ようこそいらっしゃいました。千利休でございます。」
鍋島:「私は鍋島直茂と申します。お初にお目にかかります。関白様より豊前守を任されております。」
私は豊前守が何をする所か分からなかった。
だが、分からないとは言えないので、こう答えた。
私:「それは大任ですね。ご苦労様です。そうすると、後ろの方が龍造寺長信殿ですね。」
龍造寺:「はい、龍造寺長信でございます。周りからは六郎次郎と呼ばれておりますので、利休殿もそのようにお呼びください。」
私:「はい。六郎次郎殿。では茶会の用意をしておりますので、茶室まで案内させていただきます。」
私は四畳半敷の茶室を使い、濃茶点前で木守という楽茶碗を出し、細川に教わった木守の話をした。
私:「この茶碗は木守と言います。楽茶碗を楽長次郎に七つ作らせ、六人の門弟達に好きな物をそれぞれ取らせました。その時、私の手元に残った茶碗がこれです。晩秋の柿の木の話にちなんで木守と名付けました。」
鍋島:「それは興味深い。晩秋の柿の木の話と言うのは、どのようなお話しなのでしょう。」
私:「木守というのは、来年もよく実る様にという祈りをこめて、わざと木に1つだけ残しておく果実のことを指します。つまり、来年も良い年でありますようにという願いを込めて使わせていただきました。」
鍋島:「流石は利休殿、素晴らしいご配慮、感謝に堪えません。」
龍造寺:「その祈り、もう一度、肖ってもよろしいですか?」
私:「もちろんです。すぐ二碗目を点てますね。」
その後、鍋島豊前守の自慢話が始まった。
鍋島:「今年の正月に関白様から、肥前国の知行割が出されたのですが、私には44,500石と龍造寺一門の中で最大の石高を頂きました。ありがたい事です。」
私:「それは素晴らしい。」
龍造寺:「私は、10,070石でした。」
鍋島:「なに、私の息子・龍造寺いせ松など、9,000石だったのだ。一万石をもらったのだから大したものではないか。」
なんとなく龍造寺が面白くない顔をしていた。
そこで、私は別の話題を振ることにした。
私:「そういえば、古田殿がこんな話をしていました。織田有楽殿が古田殿を台子点前に招いたとき、龍頭という天下無双の水指を置いたそうです。普通は何を拝見すると思います。」
龍造寺:「水指でしょうね。」
私:「ところが、古田殿は、風炉の中を拝見したいと所望したそうです。」
鍋島:「それまた、変わったことをされましたな。」
私:「はい。それで不思議に思った織田有楽殿は、中を覗いたそうです。」
龍造寺:「どうなったのですか。」
私:「台子に頭を入れ、風炉の中をのぞき、炭の熱で頭を引いた時に台子の天板に頭をぶつけて、二つ置の道具が崩れてしまったのを直してから出ていったそうです。」
鍋島:「それはまた、面白いですな。」
龍造寺:「まったく。」
私:「古田殿は、その道一筋の師匠に教えを受けるべきだと、再確認したそうですよ。」
鍋島:「そうでしょうな。」
その後、和やかな雰囲気で茶会が終わった。
鍋島:「いやあ、本日は本当に良い茶会でした。特に木守の楽茶碗は良かった。機会があれば、また伺いたいものです。」
龍造寺:「全くその通りですね。利休殿、今日はありがとうございました。」
私:「いいえ、こちらこそ楽しませていただきました。」
二人が帰ってから、宗恩が話しかけて来た。
宗恩:「お疲れ様でした。途中で声が聞こえた時は、険悪な雰囲気でしたのに、うまく回避できたようですね。」
私:「苦労しました。では、夕飯にしましょうか。」
宗恩:「かしこまりました。今日も懐石の残りです。残さず食べてくださいね。」
私:「はい。わかりました。」
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