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利休になった日  作者: shoundo
第11節 茶事
109/150

第11・5節 宗湛日記 ~抛頭巾肩衝について~

10月20日、二畳敷の茶室で一人、床の間にある大茶壺で(から)結びの練習をしていると、玄関に誰か客が来た。

宗恩:「利休様、神屋宗湛(かみやそうたん)様がお見えです。」

私:「どうぞおあがりください。」

宗湛:「お邪魔いたします。これは口切(くちきり)茶事(ちゃじ)をなさっていたのですかな。」

私:「というより、この茶壺に唐結びをしていた所です。手が不自由になったので、中々うまく結べません。」

宗湛:「それは御気の毒に。利休殿が手足を負傷なさったことは聞きました。かなり悪いのですか。」

私:「昔のような点前はできませんが、茶の湯を楽しむことは出来ます。それで十分です。」

宗湛:「では私の方で結びましょう。網はここにある紺色のものを使えば良いのですね。」

私:「ありがとうございます。助かります。」


神屋宗湛(かみやそうたん)は、あっさり壺に唐結びをして、網をつけて床の間に壺を飾った。

宗湛:「しかし立派な大壺ですね。何という壺ですか。」

私:「橋立(はしだて)という壺だそうです。今年は滝本坊実乗(たきもとぼうじつじょう)殿に茶壺を預けられなかったので、中身は空ですがね。」

宗湛:「では、茶はどうされるのですか?」

私:「実は細川殿に頼んで、茶を譲ってもらいました。今年はこれで大丈夫だと思います。」

宗湛:「もし足りなくなりそうでしたら、少しでしたらお譲り出来ますので、言ってください。」

私:「ありがとうございます。助かります。」


神屋宗湛は、書院(しょいん)にあった文台について質問してきた。

宗湛:「机の上に唐金(からかね)の人形がありましたが、あれは何ですか?」

私:「ああ、人が片膝立てて座ったようになっているものですね。面白いので置いてあるのですが、何でしょうね。」

宗湛:「唐金の牛の人形も面白いから置いたのですか?」

私:「たぶん。」

宗湛:「それに、硯にすりかけのままの墨と、筆が放置されていましたね。あの筆は高麗(こうらい)筆かと思いましたが。」

私:「そうでした。今朝、書の練習をしようとして、そのままでした。」

宗湛:「利休殿、人形は良いとしても、硯は放置しない方が良いと思いますよ。」

私:「はい。すぐ片づけます。」


茶会が始まったが何となく空気が重い。

そこで、以前、細川に聞いた抛頭巾(なげづきん)肩衝(かたつき)の話をすることにした。

私:「肩衝茶入(かたつきちゃいれ)に茶杓を置くのは、ご存知ですよね。この作為、実は村田珠光(むらたしゅこう)が考えた事なのですよ。」

宗湛:「そうなのですか。それは知りませんでした。」

私:「抛頭巾(なげづきん)肩衝を用いて始めたそうです。仕覆(しふく)(ひも)長緒(ながお)から、今の短いものにしたのも、抛頭巾(なげづきん)肩衝の仕覆からだそうです。」

宗湛:「さすが利休殿、博識ですな。抛頭巾(なげづきん)肩衝というと利休殿の娘婿・万代屋宗安(もずやそうあん)殿が持っていましたな。関白様が喉から手が出る程、欲しがっているとか。」


そうなんだ、知らなかったとは言えないので、適当に誤魔化(ごまか)してみた。

私:「よく、ご存知ですね。そういえば、万代屋宗安殿とは、先日、有馬温泉(ありまおんせん)の茶会で一緒だったんですよ。」

宗湛:「有馬温泉ですか。良い所ですよね。」


その後、壺の話になった。

宗湛:「今、そちらの橋立の大壺は、(から)なのですよね。よろしければ、よく見せていただいても良いですか?」

私:「もちろんです。今、お持ちしますね。」


私は網を外して、壺を宗湛に渡そうとしたが、手が滑って壺が床に落ちてしまった。

幸い、壺は割れなかった。

私:「あ、ごめんなさい。」

宗湛:「いいえ、気にしないでください。ですが、利休殿は、かなり手足が悪いのですね。」

私:「なんとも情けない限りです。」

宗湛:「そんなことはありません。ぎこちなさはありますが、点前もしっかりされていますし、何より一生懸命さが伝わってきます。」

私:「そう言っていただけると、助かります。」


その後の茶会は、(なご)やかな雰囲気に変わり、最後に宗湛が面白い事を言い出した。

宗湛:「利休殿、今、私が書いている茶会記に、書院にある硯と唐金人形(からかねにんぎょう)の絵を載せて良いですか。」

私:「良いですよ。いくらでも載せてください。なんなら、私が描いても良いですよ。」

宗湛:「それはありがたい。では、こちらの紙に描いてください。」

私:「これは、茶会記(ちゃかいき)ですね。既に今日の茶会の内容が書いてありますね。これはすごい。」

宗湛:「この後ろの部分に、書いてください。」

私:「良いのですか?」

宗湛:「もちろんです。」


私は、まず硯の絵を描いてみた。

宗湛:「いいですね。次にその横に、人形を描いてください。」

私:「やってみます。」


私は、なんとなく不格好な人形と、牛の人形を描いてみた。

宗湛:「素晴らしい。利休殿、この絵は一生大切にしますね。」

私:「そんなに喜んで頂いて、光栄です。」


その後、私の描いた絵は『宗湛日記(そうたんにっき)』として後世(こうせい)に伝わる事となる。


挿絵(By みてみん)

この作品は「YouTube(

https://www.youtube.com/watch?v=Os5CIqW83i0&list=PLH33wsaeFCZWtchkfIIltAH2CqFwbjcH8&index=19

)」にも掲載しています。

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