第10・4節 有馬温泉での茶会と浪人停止令
翌10月5日、湯山阿弥陀堂で、再び秀吉を亭主として二畳敷の茶会が催された。
正客は施薬院全宗、詰は小早川隆景となっていた。
私は茶頭である。
秀吉:「施薬院全宗よ、そなたを呼んだのは、先の小田原攻めの際、佐竹義重との交渉役をしていたからじゃ。」
全宗:「佐竹義重殿は、伊達政宗殿へ上京を促した勧告使でございますね。」
秀吉:「うむ。政宗と佐竹義重は、先の小田原攻めで浪人が増え、未だに戦をしておる。そこで、小早川殿に頼みがあってのお。浪人に対し、厳しく処罰を行うこととしたい。何か良い案はあるか?」
小早川:「以前、行った刀狩令を、浪人向けに出されてはいかがでしょうか。」
秀吉:「具体的には?」
小早川:「まず、浪人という職を特定すべきでしょう。そうですね、特定の主人を持たない者や、田畑を作らない侍と言えば、良いかと思います。」
秀吉:「うむ。」
小早川:「何か職業を持ったものは、浪人ではないでしょうが、この御触れの後に、職業を自称する者は、浪人として処分されるのが良いと思います。」
秀吉:「良い案じゃな。」
小早川:「刀狩令ですので、武具類は取り上げるべきかと。」
秀吉:「当然じゃな。他にはあるか。」
全宗:「薬師の立場から言わせていただければ、毒の売買は禁じていただきたく、伏してお願い申し上げます。」
秀吉:「そうじゃな。それに、薬屋で毒薬を買いたいというものも処罰すべきであろう。では、それらをまとめるとどうなる、宗易。」
私:「えっ!」
秀吉:「えっ、ではない。いいからまとめてみよ。」
私:「はい。
一つ、主君も畑もない侍は浪人だ。
二つ、職人や商売人に転職していれば浪人ではない。
ただし、この御触れの後に転職しようとしたら浪人だ。
三つ、百姓は武具類を持つな。
四つ、毒の売買は禁止、薬屋で毒を買いたいと言うのも禁止。
ということでしょうか。」
秀吉:「それで良いかな、小早川殿。」
小早川:「はい。利休殿のまとめられた通りかと。」
秀吉:「では小早川殿、早々に聚楽第へ戻り、御触れを出すように。そうじゃな名は浪人停止令とでもしよう。」
小早川:「はっ、浪人停止令、確かに承りました。」
秀吉:「では、茶を点てるとしよう。宗易よ、わしの点前で何かあれば言うてくれ。何もないとは思うがのお。」
私:「かしこまりました。」
この日の茶会が終わり、何もない数日が過ぎた。
10月13日になり、秀吉が温泉で私に声をかけて来た。
秀吉:「明日、わしは大阪城へ行く事となった。どうも掃討戦の戦況が思わしくない。そなたは京都に戻って良いぞ。くれぐれも未来から来たことは隠すように、良いな。」
私:「はい。いろいろとお心遣いありがとうございました。お気をつけていってらっしゃいませ。」
秀吉:「それと、瀬田正忠には気をつけよ。やつはそなたの敵だろうからな。」
私:「そうなのですか!」
秀吉:「まあ、あまり近寄らぬ事じゃ。さて、風呂から上がるか。」
私:「はい。」
10月15日昼、京都の利休屋敷に戻ることができた。
宗恩:「おかえりなさいませ、利休様。お体の方は大丈夫ですか?」
私:「はい。温泉のおかげで、かなり回復しました。」
宗恩:「そうですか。それと何人もの方が、利休様を心配されて、家まで訪ねてこられました。毎回、お断りしていましたが、もう大丈夫そうですね。」
私:「はぁ、そうですか。やはり見舞客が殺到してますか。」
宗恩:「では、利休様、早速お食事をつくりますね。」
私:「いいえ、実は少し寄りたいところがあります。夕飯だけ作って下さい。」
宗恩:「わかりました。では、いってらっしゃいませ。」
私は、すぐ細川邸に向かい、細川三斎に事情を説明した。
細川:「つまり、問題は三つですね。一つ目は、関白様に素性が発覚し、今後、茶頭として指導ができなくなったこと。二つ目は、瀬田殿が山田一郎方で、今後の接触が難しいこと。そして・・・。」
私:「三つ目は、毛利輝元殿を弟子にする約束をどうするかということです。」
細川:「よくまあ、これだけ問題を作れるものですね。」
私:「すみません、トラブルメーカーで。」
そこに細川玉子が現れた。
玉子:「利休様、お腹が空いているのでしたら、まずはお食事でもされますか?」
私:「それは助かります。朝から何も食べていないので。」
細川:「それはいけません。玉、何か作ってあげなさい。」
玉子:「はい。」
私:「ありがとうございます。」
昼食を食べ、私、細川三斎、細川玉子、それにお吟の四人が話し合いを始めた。
お吟:「お父様、手足が不自由なら、毛利様に茶の湯を教えることができないのではないですか?」
私:「なるほど。それで三つ目の問題は解決ですね。さすがはお吟。優秀ですね。」
お吟:「ありがとうございます。」
細川:「二つ目の瀬田殿も、可能な限り、接触しないようにすれば良いでしょう。そもそも瀬田殿の方から避けてますから、それほど難しくはないでしょうね。」
私:「なるほど。それで二つ目の問題は解決ですね。さすがは細川殿。」
玉子:「関白様は、ある程度、味方になっているようですが、いささか心配です。淀の方様の話では、瀬田様と関白様が山田一郎の話をしていたのですよね。」
私:「つまり、関白様は完全に味方になっているわけではないと。」
細川:「関白様の件は、少し考えましょう。先日来、大阪城で掃討戦の指揮をされているので、数日は帰京されないでしょうから。」
私:「いろいろとご迷惑をおかけします。」
細川:「いいえ、私の正体を明かさなかっただけで、十分ですよ。さて、これからどうしたものか。」
玉子:「とにかく、利休様には茶の湯の稽古を続けていただきます。古田様にしっかり指導してもらってください。」
お吟:「頑張って、お父様。」
私:「はい。頑張ります。」
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