第38話 それって「怒りの剣」ってことだよね?
「答えろクリエスト。まさかお前の判断で、俺たちを追ってきた訳ではないだろう?」
ノイルたち5人が、地面に膝をつくクリエストを囲んだ。
ゴールドドラゴンが倒された以上、クリエストに逃げ場はない。
「それは…言えません。」
クリエストが俯いたまま呟いた。
「なぜだ?」
「そういう約束ですから。貴族として、勇者になる者として、約束を破るわけには…」
「呆れたものだな。」
クリエストの声を、ノイルが遮る。
「本来倒すべきである魔物を操っておいて、まだ勇者のつもりか?」
ノイルの言葉に、クリエストは何も言い返せない。
ノイルがクリエストの顔を強引に上に向かせ、低い声で言った。
「言え。誰の指示でやった?魔物を操るなど、お前の魔力では不可能だ。裏に黒幕がいるのだろう?」
それでも、クリエストは口を割らない。
「なぜ、そんなにもそいつを守る?」
「あなたには、関係のないことです。これは、貴族と貴族の問題ですから。」
「強情な奴だな。」
このままではクリエストは絶対に喋らないと判断したノイルは、少し揺さぶってみることにした。
「お前の依頼主が誰かは知らないが、おそらくは俺たちのことをよく知る人物のはずだ。」
クリエストの魔力が微妙に乱れる。
-当たっているな。
さらにノイルは続けた。
「学院の関係者であることは間違いないな。でなければ、お前たちが勝手にここに来られるはずがない。」
先程よりも大きく、クリエストの魔力が乱れる。
「学院の関係者で魔物を操れる。俺はそんな人間を、1人だけ知っている。学院長だ。」
クリエストの魔力が、明らかに不安定になる。
大きく波打ち、ノイルにはその動揺が見て取れた。
「やはり学院長か。」
「し、知りません。」
クリエストの震える声は、もはや自白に等しい。
しかしノイルは、1つ妙な点に気付いた。
ノイルの魔力に、1部乱れていない箇所があるのだ。
安堵しているのかのように、その部分だけ魔力が安定していた。
「まだ何か隠されているな。」
ノイルの言葉に、その魔力の1部分が少し乱れる。
「思えば、学院長は新たに若い男に変わったばかりだ。そんな奴を、お前たちがすぐに信用するとも考えにくい。もう1人、裏に立つ人間がいるな。それも、学院長の指示に従う動機となるほど力のある人物だ。」
「だから、何も知らないと…」
「いや、見事な推理だ。」
クリエストの否定する声に重ねるように、男の声が響いた。
ノイルたちが声のする方へ振り向く。
そこに立っていたのは、ゼリトリフだった。
「やはりお前か。」
ノイルが剣に手をかけ、警戒しながら言う。
「分かっていたのか?」
「大体はな。俺たちを殺したい理由があるとすれば、学院長かお前だけだ。他の貴族たちは俺たちを憎んでいるにしろ、殺したいとまでは思っていないはずだからな。」
ゼリトリフがにやりと笑って言った。
「殺意を向けられる心当たりがあるのだな?」
-小瓶の話はしない方がいいな。
「ただ単に、俺たちのことを煙たがってるだろうと思っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「そうか。てっきり、小瓶を盗み出したが心当たりかと思ったのだがな。」
-やはり、バレていたか。
リリアナは大丈夫だろうか?
ノイルの顔がやや曇る。
ゼリトリフは、それを見逃さなかった。
「リリアナの心配をしているのか?」
その言葉で、ノイルたちの顔に焦りが浮かぶ。
平然と、ノイルたちを殺しにかかったゼリトリフだ。
リリアナの協力がバレれば、彼女の命が危ないのは間違いない。
「奴ならもう死んだぞ?」
ゼリトリフが冷徹に言う。
ノイルたちは、ただただ呆然とした。
「お前が…殺したのか…?」
「出来損ないの使用人を始末するのも、主人の役目だ。主人を裏切るメイドなど、カミーラ家には必要ない。」
「追放じゃなく、殺したんだな?」
ノイルが、剣を抜いてゼリトリフを睨みつける。
それでもゼリトリフは、余裕の表情を保っていた。
「そうだ。この手で首を斬った。」
ノイルは剣を構え、その切っ先をゼリトリフに向けて言う。
「さすがに許しておけないな。」
ノイルの心は、怒りでいっぱいになっていた。
リリアナを死なせてしまった自分への怒り、リリアナを殺したゼリトリフへの怒り。
それが入り混じって、激しい怒りになっている。
「お前が私と戦う気か?1年前にねじ伏せられ、すごすごと家を出ていった無能が。」
「お前はいつまで、自分の方が強いと思い込んでいるんだ?」
ゼリトリフの魔力は6247。
だが、魔力がいくら高くてもノイルの剣術の前には意味をなさない。
「クリエスト。アレを。」
ゼリトリフがクリエストに向けて右手を差し出す。
しかし、クリエストは震えたまま首を横に振った。
「何をしている?早く渡せ。」
「使ってしまいました…。」
「何だと?」
ゼリトリフがクリエストの胸ぐらを掴んで怒鳴りつける。
「何を馬鹿げたことを言っている!いいから出せ!ゴールドドラゴンを呼び出す笛を!」
「そのゴールドドラゴンなら、もう倒したぞ。」
低く冷たい声で、ノイルが言った。
「お前だけは、許せない。ここで倒す。」
「ゴールドドラゴンを倒しただと?嘘を…」
「空滅剣。」
目の前に突然現れたノイルに、ゼリトリフが目を見開いた。
「何!?」
「この技だけは、使う気がなかったのだがな。」
ノイルが剣を振りかぶる。
-リリアナ!
俺のせいで、すまなかった!
敵は討つ!
「断罪剣!」
全ての怒りを込めて、ノイルが剣を振るう。
断罪剣。
人間を斬って消滅させる技。
サリシアが唯一、悲しそうな顔をして教えた技。
-使う時が来たんだ!
今しかない!
ノイルには、世界の時が止まっているように思えた。
今から自分が人を殺すのだと、実感したのだ。
それでも、剣を止めはしない。
剣は完璧にゼリトリフの首へ…
届かなかった。
-ガキッ!
剣と剣がぶつかる音。
-俺の剣が、止められただと!?
「全く、君は肝心なところで冷静さを失うな。断罪剣は、こんな男に使っていい技じゃないのだが。」
-この声は!?
ノイルの剣が止められたことに、フィアたちも驚く。
みんなの視線が、剣の持ち主に集まった。
「剣を収めろ。ノイル君。」
黒い長髪に整った顔立ち。
そして、ノイルとそっくりの話し方。
そこに立っていたのは、確かにサリシアだった。
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