第19話 それって「決着」ってことだよね?
-あと3つ!
ウォーターシールド、ファイヤーシールドを相次いで突破したフィアは、ダークシールドに向けて突き進む。
「ライトニング・ボール!」
光属性の弾丸によって、ダークシールドが破壊された。
「嘘だろ!」
「あいつ、光属性も持ってるのかよ!?」
観客席から驚きの声が上がる。
三能程度なら、勇者学院では珍しいことではない。
しかし、それが落ちこぼれパーティーにいるとは誰も思っていなかったのだ。
ノイルの読みが、当たっていたといえる。
-次はライト・シールド!
「ダーク・ボール!」
ライト・シールドも破壊された。
ナタリア側にも焦りが生まれる。
「ま、まさか全能なんじゃ…」
「ダメだ、魔力差がありすぎる…」
もはや、焦りというより絶望といった感じだ。
-これで最後ですね!
「ファイヤー・ボール」
フィアの放った燃える弾丸が、最後のロック・シールドを破壊した。
「全能だぁぁ!」
「何で落ちこぼれパーティーに全能が…っ!?」
観客席が今日1番のどよめきを上げる。
誰も彼も、信じられないという表情をしていた。
防御魔法を発動していた防御職の女子生徒が、再び全属性の防御魔法を発動した。
しかし一気に5つの別属性シールドを作ったことで魔力が減り、精度の低いものになってしまう。
ただでさえ強力なフィアの攻撃を、防げる訳がなかった。
全てのシールドを破壊され、最後の一撃が防御職を捕らえる。
魔力5000の攻撃魔法をまともに食らった女子生徒は、その場に倒れ込んだ。
治癒士が急いで彼女を担ぎ、フィアの前を離れる。
-あと2人。
攻撃職の男女が、フィアを挟むようにして距離を詰めた。
しかし、やはり焦りがあったのだろう。
彼らは重大なミスを犯した。
「ライトニング・ソード!」
「ライトニング・ソード!」
2人して、同じ魔法を発動してしまったのだ。
それも、ガイスのダークルームと相性の良い光属性の魔法である。
「ダークルーム!」
ガイスが即座に、フィアの周りに防御魔法を発動した。
優勝候補筆頭のパーティーメンバーといえど、魔力4000超えのガイスには敵わない。
ライトニング・ソードは、あえなくダークルームに触れて折られてしまった。
盾を失い、矛を失った以上、勝利は不可能である。
「ウォーター・ボール!」
フィア渾身の一撃が、2人の攻撃職を吹き飛ばした。
「残るはお前だけだな、ナタリア。」
「まさか、全能がいるとは思いませんでしたわ。してやられましたの。」
会話を交わしながら、ノイルとナタリアは熾烈に剣を交わしている。
激しい戦いの中でも、2人の顔はとても楽しげだった。
「ナタリア、俺に気を取られすぎるなよ。」
そう言うと、ノイルは頭上の隕石との間の空間を斬った。
隕石が猛スピードで落下する。
「空離剣!」
「ファイヤー・ソード!」
ノイルは回避し、ナタリアは火属性の攻撃魔法で隕石を焼き斬った。
リンテの魔力2800に対して、ナタリアの魔力は4300超え。
これほどの魔力差があれば、10m超えの隕石でも斬れてしまうのだ。
「なかなかやるな。」
「不意をつかれましたわ。」
ナタリアは、隕石を斬ったそのままにファイヤー・ソードを構える。
「二刀流か。」
「あなたには、これくらいしなくては剣で勝てないでしょう。」
2本の刃が、左右からノイルを襲う。
「空離剣。」
ノイルがそれを回避した。
その技を見て、ナタリアが言う。
「素早く回避しているのかと思いましたが、そうでもないようですわね。やはり、不思議な剣術ですわ!」
再び2本の剣が振るわれる。
しかし、空間を斬り離したままのノイルに届くことはない。
「確かに、その体を斬っているはず。一体、どんな剣術ですの?」
攻撃を止め、ナタリアがノイルに聞いた。
「俺に勝ったら、教えてやろう。」
ノイルが剣を振り、元の空間に戻る。
「約束ですわよ!」
ナタリアが、全力で剣を振った。
「魔滅剣!」
ノイルが、ナタリアの剣を2本まとめてなぎ払う。
しかし、確かに触れたはずの3本の剣が、火花を散らすことはなかった。
ライトニング・ソードとファイヤー・ソードが消滅する。
ナタリアは、呆然と自分の両手を見つめた。
「何が…起きたんですの…」
「いや、なかなか良い戦いだったぞ。」
ノイルが声をかける。
ナタリアは尚も、戦おうとした。
「ライトニング…」
「不斬剣。」
ノイルが、ナタリアの戦意を消滅させた。
ナタリアが膝から崩れ落ちる。
模擬戦場が、嘘のように静まり返った。
監督者の教師が状況を確認し、大声で呼ばわる。
「試合終了!勝者、ノイル班!」
会場は尚も静まり返ったままだ。
ノイルたちの勝利が信じられない者、優勝候補筆頭の敗退に呆然とする者、激しい戦いに圧倒された者など、それぞれが様々な理由で黙り込んでいた。
ふと、観客席の上部から拍手が送られた。
あの、白ひげの老人だ。
「いや、見事じゃったのう。」
生徒たちが声のする方を向き、驚きの声を上げる。
「学院長!?」
「どうしてこんなところに!?」
頭を下げる生徒たちに「しなくてよい」と声を掛け、「学院長」は観客席の階段を降り始めた。
そして最前列まで来ると、ノイルに話しかける。
「ノイルといったな。なかなか、面白い試合を見せてもらったぞ。どんな魔法を使ったのか知らんが、ナタリア家のご令嬢を倒すとはな。あ、お主は無能じゃったか。」
馬鹿にしたように言うと、白ひげは高笑いした。
観客席からも、嘲笑が起こる。
目の前の結果を目にしても尚、ノイルたちを見下しているのだ。
しかし、そこに声を上げたのはナタリアだった。
「学院長のおっしゃることは、事実ですわ。彼は無能ですから、百歩譲ってそれを口にするのはまだ構わないでしょう。しかし、」
ナタリアは、観客席の生徒たちを一瞥して言った。
「あなた方は何なんですの?彼が無能であることを嘲笑う前に、彼に傷の1つでも付けてみたらどうです?それも出来ないくせに、蚊帳の外から嘲笑う資格などありませんわ。」
ド正論である。
観客席は再び黙り込んだ。
学院長は、忌々しげにナタリアを睨むと背の高い男を連れて模擬戦場を出ていった。
それに合わせて、気まずくなった生徒たちも模擬戦場を後にする。
ノイルたち5人と、ナタリアだけが残された。
ナタリアのパーティーメンバーは、手当てのために既に会場を出ている。
「ナタリアさん。」
ロスタが声をかけた。
「ありがとうございました。ノイル君や僕たちのことを庇ってくれて、すごく嬉しかったです!」
ナタリアは、少し複雑そうな顔をして言った。
「当然のことをしたまでですわ。それにしても、みなさん貴族ということを鼻にかけて言いたい放題ですわね。」
「だが、ナタリアは違うではないか。」
ノイルが言う。
「俺は、お前のような貴族もいるのだと見直したのだ。お前とは、上手くやっていけそうだしな。」
ナタリアが答える。
「私もですわ。いつかあなたに勝って、その剣術を教えてもらいたいですわね。」
そして、ナタリアが右手を差し出す。
ノイルは、今度は戸惑うことなくその手を取った。
もう、罵声を浴びせる者はいない。
代わりにリンテが、ロスタが、ガイスが、嬉しそうな目で見ていた。
-何で、お兄様の手を今日会ったばかりの女子が握ってるんですか!?
フィアだけは、嫉妬した目で見ていた。
いくら魔力5000の全能とはいえど、ブラコンはブラコンなのである。
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