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第10話 それって「妹と添い寝」ってことだよね?

 「つまり、リリアナに上手いこと手を回してもらって屋敷を抜け出したということか?」

「はい!お兄様に会いたくて会いたくて…。」


 フィアの話を簡単にまとめるとこうなる。


 ノイルの暗殺を命じられたフィアは、自分勝手な父親に我慢出来なくなった。

そこで、リリアナに頼み込んで協力を得て家出に必要な荷物を準備した。

そしてリリアナにノイルの居場所を聞き、ノイルと一緒に暮らすつもりで家を出てきた。


 「カミーラ家を捨てることになるのだぞ?」

「お兄様と一緒なら、何家の誰になろうと構いません!」

「父上が、フィアを取り返しに来るかもしれない。いや、必ず来るぞ。」


 何せ、全能オールの才能を持ち勇者学院を特待生で合格しているのだ。

そんな宝物を、ゼリトリフがみすみす捨てる訳がない。


 「だからこそ、駆け落ちしましょうと言っているのです。2人きりで、遠い場所へ行きましょう!」


 フィアの目はハートになっていた。

ノイルと話せるこの状況が、楽しくて仕方がないという感じだ。


-しかし、どうしたものかな…。


 ノイルは、あれこれと思考を巡らせていた。

勇者学院に合格した時点で、ゼリトリフから何かしらの仕掛けがあることは予測していた。

1年前は床に叩きつけられたノイルだが、今ならゼリトリフにも難なく勝てるだろう。

しかし…


-まさか、フィアがカミーラ家を捨てるとは…。


 フィアの行動は全くの予想外だった。

しかも、フィアは駆け落ちしようと言っているのだ。

せっかく、兄妹そろって勇者学院に合格したというのに。


-いや、せっかくサリシアの助けもあってここまで来たんだ。

 勇者学院に入学し、もっと強くなりたい。


 ノイルの心は、ここに決まった。


 「フィアが、カミーラ家を出るのは構わないと思う。ただ俺としては、勇者学院で強くなりたい気持ちがある。せっかく合格したのだ。フィアも共に、勇者学院に入学しないか?」


 こう言いつつ、ノイルは内心断られると思っていた。

フィアが、あくまでも駆け落ちしようと言ってくると考えたのだ。

しかし、またしてもノイルの予想は裏切られる。


 「お兄様がそう言うのなら、分かりました!お兄様と一緒に、素敵な学院生活を楽しむことにします!」


 フィアはどこまでも、お兄様ファーストなのであった。


---------------------------

 「よろしかったのですか?旦那様。」


 老執事のゴイルが、ゼリトリフに聞く。

ゼリトリフは、暗い微笑を浮かべて答えた。


 「フィアがあそこまで馬鹿だとは思わなかったがな。まぁよい。奴らの好きなように泳がせておけ。1番奴らにとって苦しみとなる時に、叩き潰してやる。」

「リリアナが手を引いたという噂もありますが。」

「リリアナか。まぁ、奴も残しておけ。何かの駒になるかもしれぬ。」


 そう言うと、ゼリトリフは再びにやりと笑った。


---------------------------

 いよいよ、勇者学院の新学期初日である。

貼り出されたクラス分けを見ると、ノイル、フィア共にE組だった。


 「お兄様、やはり私たちは運命の糸で結ばれているのかもしれませんね。」


 フィアが目をハートにし、鼻息を荒くする。


 「偶然だ、偶然。」


 ノイルは軽く答えた。


 「あぁ!つれないお兄様も素敵です…っ!」


 フィアの目が、よりハートになる。

ノイルには、フィアの魔力がピンク色に見えた気がした。


 教室に入り席に着く。

どうやら、自由に座って良いようだ。

当然のように、ノイルの隣にはフィアが座った。


 程なくして、E組の担任である女教師レミルス・エリワがやってきた。

勇者学院の教師になるには、全能オールであることが絶対条件だ。

もちろん、レミルスも例外ではない。

軽く自己紹介をした後、レミルスは生徒全員に学院生証明書を配布した。

これは持ち主が勇者学院の生徒であることを証明するもので、氏名や属性、魔力や寮の部屋番号などが記載されている。


-生徒氏名:ノイル

 魔力属性:無能ノーン

 魔力数値:0

 部屋番号:E-306


-生徒氏名:フィア

 魔力属性:全能オール

 魔力数値:1896

 部屋番号:E-306


 フィアの証明書を見て、ノイルはぎょっとした。


-部屋番号が…同じだと!?


 フィアもノイルの証明書を見て驚く。


-お兄様と部屋番号が同じですって!?


-いや、駄目だ。フィアも年頃の女の子なんだし、変えてもらわなければ。

-ああ、駄目ね。お兄様と毎晩添い寝なんて、嬉しすぎて死んでしまうわ!


 2人の間に、温度差があるのは明確だった。


 初日は、レミルスの話を聞いて終了となった。

与えられた指示は2つ。

しっかり寮の部屋を確認し、今日中に荷物を運び込むこと。

そして、授業内の模擬戦や競技大会で共に戦う5人1組のパーティーを明日中に結成することだ。


-俺とフィアが組むとして、あと3人を探さないとな。何とか見つけないと。

-私とお兄様が組むとして、あと3人もいるのですか…。2人きりでいいのに。


 やはり、温度差があるのは明確だった。


---------------------------

 「E-306。ここだな。」

「はい!ここが今から私とお兄様の愛の巣ですね!」


 ノイルは、もはや何と答えていいか分からなかった。

そんなノイルに構わず、フィアはさっさと部屋に入っていく。

ノイルも後に続いた。


 ちなみに、ノイルはレミルスにかけあって部屋を何とかしようとしたのだが、「家族なんだから平気よ♡」とお茶目にあしらわれてしまった。


-ほっ。良かった。


 部屋に入ったノイルは、ひとまず胸を撫で下ろす。

ベッドが1つとかだったらどうしようかと不安だったのだが、幸いなことに二段ベッドだった。


 念のために言っておくと、決してノイルはフィアが嫌いな訳でもウザがっている訳でもない。

どちらかといえば、ノイルはシスコンタイプだ。

ただ、フィアのブラコンぶりが度を越していて、若干呆れているのである。


-とりあえず、休むか。


 荷物を置いたノイルは、仮眠をとることにした。


 「フィア、二段ベッドの上と下。どちらがいい?」

「お兄様が選んでください。」

「なら、俺は下にしよう。」

「なら、私も下にします。」

「え?」

「はい?」


 2人が顔を見合わせる。


 「なら、俺は上にしよう。」

「では、私も上にします。」

「ん?」

「ん?」


-フィアめ。あくまでも添い寝する気だな…。


 「お兄様…。」

「何だ?」

「私と寝てください。」

「変な意味に聞こえるからやめろ!」


 慌てるノイルを見て、フィアが笑う。


-くそ、フィアめ。1年の間に小悪魔属性を身につけたな。かわいいじゃないか。


 こういう風に妹を見てしまうノイルはやはり、シスコンであった。


 結局、下のベッドで添い寝することになった。

フィアの思惑通りである。

ノイルは、妹の押しに弱いシスコンお兄様なのだ。


-はぁ…。俺、ちゃんと休めるだろうか。


 ノイルの不安の要因は、もちろんフィアだ。

やたらめったら密着してくるフィアによって、16歳の少年の精神が攻撃されていた。


-フィアには恥じらいとか無いのか…?


 もちろん、無いのである。

お兄様とくっつけることに興奮しすぎていて、恥じらいだの照れだのといったものはどこかへ行ってしまっているのだ。


 ふと、フィアが思い出したように言う。


 「そうだ、お兄様。」

「何だ?」

「その、言いづらいのですが…。」


 珍しく、フィアが言葉を濁す。


-これは、本当に大事な話なんじゃないか?


 ノイルは懲りずに予想した。

そして、懲りずに裏切られる。


 「お兄様のその話し方、似合いませんよ。」


-冷静になるためのサリシアの真似が…似合わない…。


 妹の一言に、深くショックを受けたシスコン剣士だった。

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