食堂での一幕
「いや、だから犬か」
誰に聞かせるでもなく、俺は生徒で大賑わいの食堂で溜息をついた。
今はお昼休みで、午前の授業を終えた生徒たちがお腹と気力を満たすために好きな料理を口に運んでいる。
俺はラーメンを啜っていた。
この学校の食堂はなかなかのもので、豪華なものやクオリティーの高いものが多い。
たしか、近くに料理屋が沢山あって余った素材をもらっているからだったからか。
やれ、ステーキやら、カニ汁やら、パエリアやら、アナゴ丼やら。
たまに店の店主が「地域活性化のためだ」とか言って、不定期に料理を振舞ってくれるときもある。
だからこそ、食堂でお昼を済ませる人が多い。しかし、一部生徒は利用しない。
一部とは、雛を含む弁当組のことだ。
あまりものとはいえ、手の込んだ料理。少しだけ値が張るのだ。お金に余裕がない人にはちときつい。
かと言って雛の家が貧乏というわけではないが。むしろ、お母さんは会社にいい席を置いているらしく、毎日夜遅くまで仕事をして多くのお金を稼いでいるという。
それでも弁当を作ってくれるお母さんは、すごく雛のことを愛していると思う。
「よっ、空木。一人か?」
食堂組の俺と弁当組の雛は別行動。俺が休憩できる唯一の時間だ。
そんな時間にあるというのに、月宮は俺の隣に座ってきた。
「見てわからんか、そんでなぜ隣に座ってくる。前が空いているだろ、気色悪い。ホモか」
「いや、ちげーよ! つーか前の席なんかないだろ!」
「地面でいいだろ」
「あんたねえ、こっちが地べたでも食べられるものを持っているからって」
月宮の手に収まっていたのはハムと卵が挟まっているサンドウィッチ。
第三勢力の購買部派がここにいた。
「たくっ、ただでさえモテないのに、ホモになんてなりたくないぞ」
「それ俺だわ」
「げっ、お前そっちのけもあるのかよ。すげぇな」
「そっちじゃない! 俺がお前にホモ疑惑を浮上させたんだよ!」
「はあ?」
高身長でイケメン。おまけに頭が良くて、定期的に行われるテストで毎回一桁の秀才っぷり。
それで一見、モテそうな月宮大翔に女の気がないのは他でもない、俺のせいだ。いや、そもそも月宮が悪い。
この前お金がなくて、月宮にここで奢ってもらったことがあったのだが、そこで買ってくれた食券がくさや定食。奢ってもらった身として、あまりとやかくは言いたくないが完全に嫌がらせだった。本人は冗談の延長戦だと言って、俺も笑って我慢してやったが、その日の夜に雛が普通のお魚だと言って、大量のくさやを買ってきた。
「だからだ!」
「オレ関係あった⁉」
「あっただろ! この日から雛の買い物も俺がやることになったんだぞ」
「それオレがくさや定食を奢らなくても起きていたよな⁉」
完全に遥の八つ当たりだった。
「……だって俺がこんなのなのに、唯一の友達である月宮がモテるなんて嫌じゃん」
これが本音である。
「乙女か」
しかし、月宮は怒らなかった。むしろ口元を上げて笑っていた。
いつもこうなのだ。
バカなことを言い合って、それで笑い合う。
合いそうにない二人は、そうやって友達になった。
「っと、そろそろ昼休みが終わるな」
俺は残っていたラーメンを最後の汁まで胃の中にかきこみ、席を立つ。
「おう」
月宮も短く返事をして、立ち上がった。
まったく、月宮とつるんだせいでしっかりと身体を休めることができなかった。
でも気持ちを休めることはでき、どことなく身体が軽くなった気がしていたので、悪くはない。
「あっ、遥先輩!」
食堂から出ようと、出入り口の扉を開けたところで聞き覚えのある声が聞こえた。
その声の主はいつも雛と一緒に弁当を食べてくれる後輩の女子生徒——朝比奈めぐるである。




