お茶会
「お嬢様、着きました。王宮です」
「……行ってくるわ」
アリスは本日2回目の大きな溜息をついた。
「あなた、このお茶会に参加できること感謝するのよ」
「はい、ありがとうございます。公爵夫人」
「本来なら、あなたは参加できない立場なの。それを忘れないことね! 」
「はい。あなた様には感謝しております」
「お前は一家の恥だ。目立つな。余計な行動をするな、分かったか」
「畏まりました。公爵様」
馬車を降りれば何故か怒りに震えている公爵一家。
ちゃんとご挨拶はしたのですが……。
あれではご不満でしたか。
私に言いたいだけ言うと、先にさっさと歩いて行ってしまった。
私のスルースキルは年々上昇している。
会場に入ると、一斉に視線がこちらに向き始めた。
好奇、驚愕、憎悪、侮蔑。
……なんだか負の感情しか感じないわ。
これでも公爵一家の最後尾に隠れているので、あんまり見えないと思うのだけれど。
そんな会場のど真ん中を一家は我が物顔で歩いていく。
……なんて綺麗な庭園なのかしら。
春らしく明るい色の美しい花。色の配置も素敵だわ。
さすが王宮の庭園ね。植物の壁がなんとも芸術的。
あそこまで綺麗に育てるのも大変よね。
ちらちら辺りを見ていると、前を歩く公爵一家が頭を下げた。私も慌ててそれに続く。
「陛下、本日はお招きいただき大変光栄にございます。スペンサー公爵当主ケイン・スペンサーにございます」
公爵の妻、公爵の息子。
「スペンサー公爵の娘、アメリアです! 」
「同じく公爵の娘、アリスにございます」
私は一番最後にぼそっと名乗った。
「面をあげよ」
公爵が頭を上げるのを見て、それに習う。
「今日は、ジオルドのために感謝する。……それより、いやぁ、お主の娘は綺麗じゃなぁ」
「ありがたきお言葉」
公爵とアメリアは笑みを浮かべる。
王の隣には第1王妃(と思われる)オリビア様、反対側には第1王子(と思われる)ジオルド様がいる。
……確かに、顔は綺麗ね、この王子。
公爵家を見ていた王が、最後に私に目を向ける。
目があった瞬間、王は目を見開いた。
「お主は……」
数秒固まった王だったが、しばらくするとにやにやと笑い始めた。
……正直に言おう。気持ち悪い。
「スペンサー公爵一家、茶会を楽しみたまえ」
一家でもう一度礼をして、王の御前を去る。
端に寄ったところで私はそっと一家から離れる。
私がいてもこの人たちにとっては目障りなだけなのである。
さて! それでは!!
私の「壁の花」計画を始める!!
……はずだった。
私は早々計画を断念することになる。
壁に向かって一直線に向かった私、何か言いたげな人々を素通りしていく。
……挨拶なんて面倒なこと、10歳の子供はしなくていいのよ!ましてや、私は幽霊貴族、関係ないわ!!
鼻歌を歌いたくなるのを我慢して、歩みを進めた。
壁まで辿り着くと会場を見渡す。
広い、広い、そして、人が多い……。
初めての社交界に私はただただ圧倒された。
どんな人がいるのかしら。
暇だし、人間観察も良いかもしれないわ……。
誰もが振り返るような可憐な少女が壁際で1人。近くの者はちらちらと様子を伺っていた。
そんなことにも気づかないアリスは人間観察を続ける。
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁー!!
令嬢達の黄色い歓声が響いた。
何事!?
初めての現象にアリスは大変動揺した。
「ジオルド王子よ! 」
「なんて素敵な方なんでしょう!! 」
「早く行かないとお話しできないわ! 」
「ちょ、ちょっと、置いていくなんてひどいわ」
王子が壇上から降りてきたのだ。
あっという間に王子は令嬢に囲まれた。
王子のところだけ令嬢たちの円ができる。もはや、外側の子など、王子が見えているのかも怪しい。……異様な光景である。
アリスは眼に映るものに感動していた。
面白い! 面白すぎる!!初めて見る光景だわ、これは!この後どうなるの? 王子が動けば動物の群れのように一斉に動くのかしら!? 興味深いわ……。
……この先まで見ていたい、見ていたいのだが……。
きゃぁぁぁぁぁぁぁー!!
……うるさい。
王子が(多分)一言喋るたびに歓声が上がる。
……ちょっときついかも。
午前中の騒音ですっかり精神の疲労が溜まっているアリスは、耐えきれなくなって会場を抜け出した。




