お茶会の朝
「疲れたわ……」
人通りが多く、栄えた王都の街並みを眺めながら私は溜息をついた。
「お疲れ様です」
向かいの席に座る侍女、セラフィーナは苦笑まじりに主に労いの言葉をそっとかける。
今日は、例のお茶会の日である。
いつものようにフィーに起こされいつものように朝食を頂いていたのだが……。
「お湯の準備はできているか!? 」
「いつでも湯浴み可能です!! 」
「奥様が呼んでおられるぞー! 」
「担当の者が向かっております」
「時間がない! 」
「準備しながらでも食べられる軽食を用意するよう料理長に!!」
「ラベンダーが気に入らないとアメリアお嬢様が! 」
「誰かっ、バラを庭から摘んでこい! 」
「奥様がお怒りです! 」
部屋の外が騒騒しい。
使用人が叫び、廊下をドタドタと駆けていく音がする。
「煩いわね」
「本当に」
「どうして? 何か特別な日だったかしら、今日」
「王子のお茶会ですね」
「お茶会ごときで何をそんな……」
「お茶会ごときとは……。奥様はアメリア様を王子の婚約者にしたいそうで、アメリア様本人も希望なさっている、だからです」
「まだ朝よ」
「万全の状態での出陣のためです」
「戦争ね」
「はい」
屋敷の騒音は午前中鳴り止むことがなかった。
普段静かに暮らしていたアリスは精神をごりごりと削られていったのだった。
「これで完成です! 」
最後に髪を結ってもらい、支度は完了だ。
ありがとう、振り返ってそう言うとフィーは可愛らしく頬に手を当て、悶え始めた。
「アリス様、さすがです……。天使! これぞ天使!! 」
今日の私は薄ピンクのプリンセスラインのドレスである。
金糸の花の刺繍と白いレースが可愛らしく、私のお気に入りのドレスだ。
「会場中の目を惹きつけます。これは! 」
「だめよ、私は今日壁の花になるの」
「……ぜひぜひ頑張ってください、壁の花」
フィーは面白そうに笑った。
「では、行きますか! 」
「フィー、落ち着いて……」
……久しぶりに自室から出た気がするわ。
フィーの先導で玄関まで歩いていく。
すれ違う使用人達に凝視され、なんだか居心地が悪い。
……私は珍獣ではないわ!
ふっふっふ……
顔の見えないフィーから笑い声が聞こえる。不気味ね……。
玄関ホールに近づいてくにつれ、会話が聞こえてきた。
「お父様、お母様、見て! アメリア、かわいいでしょー」
「今日のアメリアは妖精のようだわ」
……アリス様の方が妖精だわ。
「本当に、私の娘は天使だ」
……アリス様の方が天使よ。誰が見ても天使よ。
「アメリアはお姫様みたいだな」
「きゃぁ、お兄様ありがとうー。アメリア、嬉しい!! 」
……アリス様の方がお姫様よ。みたいではなく、アリス様は確定の姫よ。
「フィー」
「失礼しました」
「行きましょうか」
「はい」
足音もなく階段を下りる。
あちらはまだ私に気づいていないようだ。
「ごきげんよう」
ホールに響いたアリスの声は彼らを振り向かせ……目を見開かせた。
「あなたっ……」
夫人が口を挟もうとするのを遮り、話し出す。
「公爵様、公爵夫人、カイル様、アメリア様、ごきげんよう。本日は私に構わず、お茶会を楽しんでいらしてください。では」
「待ちなさっ」
「アリス様、馬車が来ております。遅れないように致しましょう。王宮からのご招待ですから」
「そうね」
それでは、また後で。
しんと静まり返ったホールに自分の声をもう一度響かせるとアリスは足早にホールを出た。




