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すみれ色の瞳  作者: mayan
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エミリー視点

 


 私はアラン様のために生まれてきたのだ。



 私たちの世代は人数が多い。それもそのはず、皇子様がいらっしゃるのだから。それもお2人。

 約15年前、第2皇妃様と第3皇妃様がほぼ同時にご懐妊を発表された。その発表の後、次々と貴族に子供ができた。公爵や侯爵などの高位貴族も例外ではない。自分の子を皇子に近づけたい意思を皆持っていたからだ。


 第3皇妃様から第1皇子様が生まれ、その数ヶ月後に第2皇子様がお生まれになった。誕生した季節の関係で、お二人の皇子は学年としては1学年違った。私は第二皇子様の学年に生まれた。



 アルド帝国では、皇太子は能力で選ばれる。皇帝が直々に指名するのだ。

 生まれた順番は関係ないとは言っても、先に生まれた方が有利なことに変わりはない。それは、皇子の精神の発達だったり、他より早く貴族の支持を得られることだったり。


 しかし、今回はたった数ヶ月の差だった。その上、第2皇妃から第2皇子様が、第3皇妃様から第1皇子様がお生まれになったものだから、パラーバランスが見事に均等なのだ。アルド帝国の貴族たちは2手に分かれ、派閥を作り上げた。


 アルド帝国で巨大な権力を持つ三大公爵家にも子供が生まれた。第1皇子と同じ学年にリヒター公爵令嬢エリザベート様、第2皇子と同じ学年にアスコナー公爵令嬢ミランダ様……それから、アルテミス公爵家のアラン様。


 侯爵家の令嬢であった私も皇子の婚約者となっても問題のない身分だったが、公爵家に2人のご令嬢が生まれた時点で私は皇子の婚約者になることはなかった。


 結果、第1皇子の婚約者にエリザベート様が、第2皇子の婚約者にミランダ様がなられた。リヒター家とアスコナー家がそれぞれの派閥を引っ張っていった。


 皇子の婚約者の席が埋まった時、次に身分が高いのはアルテミス公爵家の嫡男、アラン様だった。


 私は7歳の時に参加したお茶会で、アラン様に初めてお会いした。日光に照らされ光り輝く金髪に優しそうな青い目、佇まいも皇族に負けないほどの品があって…………私は一眼見て好きになった。お母様に連れられてお話をした時にはもう、私は完全に恋に落ちていた。私の話を相槌を打ちながら聞いてくれるアラン様は、同い年とは思えないほどしっかりしていて、幼いながらに感心したものだ。

 お茶会の後、私はどこかそわそわとしていた。それをお母様は感じ取っていたようだ。


 11歳になり、そろそろ婚約相手を探そうとお父様から言われた。私はその時に迷わず言った。私はアラン様が良いのです、と。

 お母様の援護もあり、父はすぐに婚約の話をアルテミス公爵家の方へ回してくれた。

 とうとうアラン様と結ばれるのだと私は嬉しくて仕方がなかった。お茶会でたまに見かけるアラン様は年々素敵になっていった。それはもう他のご令嬢が皆一様に頬を染めるくらいには。私には少し焦りがあったのだ。他の誰かに取られてしまうのではないかと。だからこそ、アラン様との婚約に喜びを隠せなかった。


 ある日の晩餐、お父様は信じられないことを言った。


「婚約の話は断られた」


 私は思わず持っていたグラスを落としてしまった。


 ……婚約を、断ら、れた?


 理由を聞いても分からないと言う。とにかく断られたのだと。

 こちらは侯爵、あちらは公爵、その意向には従わなければならない。


 私の身分なら、私の容姿なら、釣り合うのはアラン様だけなのに……。侯爵家の娘である私にぴったりの相手なのに……。あんなに素敵な人の妻になれるのは私だけなのに……。


 どこかで、彼に対する執着のような感情が生まれる。

 それから、私は彼に会うたびに必死に自己アピールをした。周りの令嬢を牽制して、近づかないようにして……彼が恋に落ちないようにして。


 いつしか、アラン様の相手はエミリー様だろうと言わせるほどにまでなった。


 1年間の留学でアラン様がいないうちに、地盤を固め、エリザベート様に気に入られ、彼が帰ってきたら確実に私のものになるように。


 1年ぶりに会った彼は、とても美しい青年に変わっていた。教室に入ってきた途端、ご令嬢のため息が聞こえる。前より高くなった背、しっかりとしてきた体つきに、相変わらず美しい顔。


 準備はした。後は彼の心を手に入れるだけだ。私は毎日欠かさずご挨拶をして、言葉を交わして、お茶に誘って……。アラン様はその度に笑顔で接してくださる。それがなんとも嬉しくて、自分だけだなのだという優越感に浸る。


 それなのに……。

 一向に婚約、どころか恋仲になる気配すらしない。彼はいつもどこか私に一線を引いていた。いつも他人行儀で、いくらエミリーと呼んで欲しいと言っても、エミリー嬢のまま呼び名は変わらない。

 その雰囲気に気がついたのか、大人しくしていたご令嬢達の中に、彼に近づく人が出てきた。特に、アラン様を取り込みたい第2皇子派のご令嬢が多い。派閥が違う者には牽制ができない。アスコナー公爵家を敵に回すことになるからだ。


 必死に追いかけて、彼の隣を確保して、少しでも他人が近づかないように、私は精神を研ぎ澄ませていた。そうすることで、彼と共に歩けるのは私だけだということに安堵していたのだ。

 そんな安堵はあっという間に散っていくのに。



 夏休みが明け、隣国のシースール王国から留学生がやってくるという。朝はその話で持ちきりだった。何でも、物凄い美人だとかで。

 それでも私には関係ない。私には敵わないと思っていた。つい守ってあげたくなるような愛らしさを持った私は無敵だと思っていた。



 アリス、と呼ばれた少女は皆の視線を一身に集めながら教室に入ってきた。

 その異次元の美しさに誰もが見惚れていた。フワフワサラサラの金髪、真っ白な肌に、美しいスタイル。それから……リーララピス。

 今まで出会ってきた人とはレベルの違う美しさに唖然とした。こんな人がこの世界にいても良いのか。どこか神聖な空気を纏う彼女は緊張していた様子だったけれども、ふと笑った。

 その嬉しそうに笑う彼女の可憐さに誰も声が出なくなっていた。そんな時でも、私は見ていた。彼女が笑顔になった瞬間、何があったのか。

 優しげな顔のアラン様と彼女の目が合ったのだ。


 ……どういうことなの?


 授業が終われば、案の定アラン様は彼女の元へ向かう。親しげに話す2人は一枚の絵画のような美しさを放っていた。それに、いつもと違うような彼の笑顔と、女神の微笑みとでも言える彼女の笑顔。


 ……置いていかれたような気がした。


 私の方が昔から、本当に昔から彼を想っていたのに、あの子は何をしているのだととてつもない怒りに燃えた。

 彼が去った後に、私は取り巻きを連れて彼女の席へ向かった。



「初めまして。ルーベンソン侯爵家長女、エミリーよ!!」


 彼は私のものであると、知らしめておかなければ。

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