寮
彼が通うアルド帝国の貴族学園は、名をアリスト学園という。
1学年に1000人いるというのだから、アルド帝国がいかに大国であるかというのが分かるだろう。
学園までの馬車の中から見えた帝都はそれはそれは立派な都市だった。
家の造りからはラシオンとの文化の違いが見て取れる。
帝都に出稼ぎに出ている人も多いらしく、殆どの建物が3階建。凄いものは7階建だった。
平民の家で7階建は大変珍しい。
交通量もこちらはとても多い。
大きなものから小さなものまで、忙しなく馬車は道を行き来する。
ラシオン王国では珍しかった女性騎士を見かけたときは本当に驚いた。ラシオン王国では下に見られていた女性騎士が、他の男性騎士に混じって堂々と歩いていたからだ。
……進んでいるわ。
アリスは窓に張り付きながら、そう思うのだった。
学園は帝都の一角に巨大な敷地を持っている。
学園は全寮制で、巨大な寮の建物が今ちょうど見えてきた。
「なんだか、凄いわね……」
「……本当に」
私とフィーは馬車の窓から見える建物に驚きを隠せない。これは、寮なのかと思ってしまうほど豪華だ。
「ラシオンとは規模が違うというか、桁違いというか……」
馬車がその建物の前に停まれば、私はフィーの手を借りながら馬車を降りた。
「アリス・ミーティア様、お待ちしておりました」
入り口に立っていたメイドらしき人に頭を下げられる。
「お部屋までご案内させて頂きます」
彼女はそれだけ言うと私たちを先導し始めた。
中に入ると、巨大なロビーが私たちを出迎える。
金の装飾は繊細で美しく、天井の絵画はそれは見事なものだった。
まるでどこかの劇場のようだ。
そんなロビーで真っ直ぐに並んだメイドさん達が丁寧に挨拶をしてくれる。
高価そうな絨毯が敷かれている廊下を歩くときは、少し勿体なく感じてしまった。
……土足で良いのかしら。かなり高いのではないかしら、これ。
とてつもなく大きな寮に、私の部屋までかなりの時間を要する。廊下を進み、角が来れば曲がり、また廊下を進む。
「この寮は、身分別に与えられる部屋が変わります。ミーティア様は、こちらのお部屋になります」
ようやく辿り着いた部屋に、またも言葉を失う。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
取り残された私とフィーは、とりあえず中に入ることにした。
白を基調としたその部屋には、高級そうな調度品の数々。可愛らしいソファに、テーブルが部屋の中央に置かれていた。
正面には大きな窓があり、バルコニーが付いている。
真っ青な空が視界に入り、私は窓を開けて外に出てみる。
バルコニーに出てみれば、美しい花が植えられていた。
ダリアにビオラ、薔薇、白と桃色で揃えられた花は甘い香りを発している。
バルコニーから見える景色は見晴らしが良く、美しい。
奥の方には大きな建物が見えた。
……あれが、校舎かしら。
と思えば、視界の右側にも巨大な建物が見える。
……あら、どっちなのかしら。
フィーがバルコニーに入ってくる気配がして、私は振り返る。
「とっても素敵ね」
「はい、アフタヌーンティーができそうです」
フィーも私同様、その目をキラキラと輝かせていた。
部屋の右側にある扉を開けば、天蓋付きのヘッドが置かれている。お風呂もお手洗いもついていた。
はしたないと思いながらも、ベッドにダイブすれば、そのふかふかな布団に顔がにやける。
「ふっかふかだわ……」
「ベッドはまた寝るときに堪能してください」
フィーが無理矢理私を引き摺り出す。
……このまま沈んでしまいそうだったわ。
ちなみに、左の扉は私の寝室よりも少し小さめの部屋だった。しかし、家具などは一通り揃っている。
……客間、だろうか?
「フィー、この部屋使ったらどう?」
「はい!?」
私の少し後ろに控えているフィーにそう提案すれば、フィーは素っ頓狂な声を上げる。
「ベッドも洗面所も全てついているわ。フィーの部屋には最適よ」
「いえ! 侍女には侍女用の部屋がございます。それに、この部屋はアリス様の部屋の一部です」
「侍女を何人も連れてきていたら、無理だけれど。私はフィー1人だけだわ。この部屋を使って欲しいの」
「で、ですが……」
「私に何かあった時、すぐに駆けつけられるでしょ?」
なかなか了承しないフィーにそう言えば、フィーに迷いが見える。
「ほら、私が寝室で悲鳴をあげてもここなら聞こえるでしょ?」
フィーを誘導するように言葉を続ければ、
「……分かりました。使わせて頂きます」
フィーは頷いてくれた。よかった。
「それにしても、こんな豪華な部屋、使っちゃって良いのかしら?」
部屋を見終え、私とフィーはリビングで紅茶を飲む。
「良いんですよ。この部屋に案内されたのですから」
「明日からの学校が楽しみだけど、不安だわ。カルチャーショックを受けそう……」
「大丈夫です。アリス様は王妃教育を受けられてきましたから、何か無作法をするなどあり得ません。自信を持ってください」
「そうね……」
王妃教育を受けたから……と言うのが自分の中での誇りというか、自信というか、私を支えてくれている気がする。
……王妃教育に感謝ね。




