初日
学園入学初日、私は制服というものを着た。
「学園では皆同じものを着るのね」
袖がふんわりとした白いワンピースに腰には水色のリボンが巻かれている。クルッとターンをすれば膝丈のスカートがふわりと広がった。
「とっても、可愛らしいです」
初日ということで、フィーは少し気合を入れて、私の髪を編み込みにしてくれた。
他の生徒は皆既に校舎に向かっており、寮の廊下は静かだ。
フィーは私と一緒にやってきたのに、既に寮内の地図を把握しているのか、迷うことなく歩いて行く。
……私1人だったら、迷子になるわ。
これからここで生活するのかと思うと少し不安になる。
無事にロビーまで来ると、そこには1人の女性がいた。その女性は私を見ると、優しく微笑む。
「初めまして、アリスト学園で教師をしているソフィー・タルッフィよ。アリスさんのクラスの担任」
「アリス・ミーティアにございます」
「教室まで、案内するわね」
「はい、よろしくお願い致します。タルッフィ先生」
私はフィーと別れ、タルッフィ先生について行く。
黒髪を綺麗に結い上げているタルッフィ先生は、私よりも少し背が高い。
抜群のスタイルを持つ先生は長い足でスタスタも歩いて行ってしまうので、私は必死について行く。
5分ほど歩けば、お城のような、大きな建物が見えてきた。
「あれは……?」
「あれが校舎よ」
……校舎? あれが?
「大きいですね……」
「そう、ね。でも全校生徒が3000人近くいるから、この大きさが妥当じゃないかしら」
3000人……。
「……生徒の皆さんはいらっしゃらないんですね」
校舎の中に入ると、生徒らしき人は誰もいなかった。
「今はもう教室にいる時間だから」
……どうしましょう、迷子確定案件じゃない。
いくつもの部屋だったり、廊下だったり、沢山ありすぎて、訳がわからない。
「アリスのクラスは、第2学年で1番上のクラスよ」
「クラス分けがあるのですか?」
「身分と成績によって分けられているわ。だから、皇子殿下もいらっしゃるし、大変優秀な生徒が集まっているの」
「……そんなところに私が行っても良いのでしょうか」
言わば、アルド帝国のトップ、エリートたちのクラスだ。自分が果たして付いていけるのか、恐ろしくなってきた。
「大丈夫よ。……ここだけの話、もちろん勉学優秀な生徒が多いのは確かだけど、家柄だけで1番上のクラスにいる方もいるから心配することはないわ」
それなら……良いのかしら?………… ん?
「ここよ」
タルッフィ先生が立ち止まる。
「自習にしたけれど、ちゃんとやっているかしら」
バンっと勢いよくドアを開ける。
教室内が静寂に包まれる。
「アリスさん、入るわよ」
「は、はい」
タルッフィ先生と共に教室に足を踏み入れれば、皆の視線が一斉にこちらに向く。
教室はラシオンのよりも大きくて、生徒数も50人近くいる。いかにも高位貴族といった風な人もいて、びくびくする。
「今日からこのクラスに編入してきたアリスさんよ」
「アリス・ミーティアです。よろしくお願いいたします」
いつでも、どこでも、どんな状況でも完璧なカーテシーができるのは、私の特技かもしれない。
教室を見渡せば、彼の姿が見えて、安心する。
彼は私と目が合うとにっこりと笑ってくれた。
「席は……シャルロットさんの隣かな」
タルッフィ先生は2人組で使う机に1人で座っている女の子を指した。
「ご機嫌よう、アリス・ミーティアです」
キャラメル色の髪をお下げにしている女の子はこちらを見上げる。
「ご、ご機嫌、よう。シャルロット・ミルヴェーデン、と申します」
私に緊張しているのか、その子は途切れ途切れに自己紹介した。
「今日からよろしくね」
「は、はい!」
内気な子だけれど、悪い子ではなさそうで安心する。
「アリスさんの紹介も終わったところで、魔法学の授業を始めるわよ」
タルッフィ先生はどうやら、魔法学の先生らしい。
黒板にチョークで魔法の歴史について書いていく。
アリスト学園での初めての授業は、王妃教育で習ったもので、無事について行けた。
本当に、王妃教育には感謝しかない。ありがとう。
「今日はここまで」
タルッフィ先生が教室を出て行くと、途端に騒がしくなる。
「シャルロット様」
「はい!」
取り敢えず隣に座っていたシャルロットに声をかける。
「私は他国から来たので、ここでの学園生活に少し不安があります。できたら、色々教えてくださらないかしら?」
「は、はい。何でもお聞きください」
おどおどしながらもシャルロットは頷いてくれた。
「あの……」
「はい」
「……私と友達になってくださらないかしら?」
私の叶えられていない夢「友達」を作ること。
ラシオンでは、勿論私に友人なんていなかった。その時は私には一生友人が出来ないのだと諦めていたが、環境がガラリと変わった今なら、と思ったのだ。
友達のなりかたなんて知らなくて、直球に言ってしまったが、大丈夫だっただろうか。
「はい! 是非お願いします」
シャルロットは嬉しそうに言ってくれた。
人生初めての友人に心がそわそわする。
なによりも、シャルロットが嫌そうな顔をせず、喜んでくれているのが嬉しい。
「私のことはアリスと呼んで下さい!」
「よ、よろしいのですか?……私は男爵家の人間ですが」
「そんなの、いいに決まっています。私もお名前でお呼びしたいから、アリスと呼んでくれたら嬉しいわ」
「分かりました……アリス」
「……ありがとう、シャルロット」
柔らかく微笑むシャルロットが可愛らしくて、ついうっとりしてしまう。
「アリス」
ついこの前に会ったばかりなのに、久しぶりのような感じがする。
相変わらず金色の髪はサラサラで、ロイヤルブルーの瞳は優しげに輝いている。
いつの間にか私の席までやってきていた彼は、私を見て微笑んでいた。
「お久しぶりです……? アラン様」
「学園入学おめでとう」
「ありがとうございます」
「早速、シャルロット嬢と仲良くしているようだね」
「はい! お友達になりましたよ!」
シャルロットの方を向けば、彼女は口をパクパクとさせて固まっていた。
「シャルロット?」
「あ、ごめんなさい」
私がシャルロットの目の前で手を振ると、彼女はこちらの世界に戻ってきた。
「……そちらは?」
彼の隣に立っている男子生徒を見る。こげ茶の髪の男子生徒は、彼に付き添うように立っている。
「あぁ、アリスは初めてだね。こちらはルイス」
「マリアン伯爵家嫡男、ルイス・マリアンと申します」
「マリアン伯爵家はアルテミスの領地を任されている貴族だ。だから、ルイスは僕の昔からの友人」
「初めまして。アリス・ミーティアと申します」
「学園はどう?」
「迷いそうです」
そう言うと、彼はハハっとおかしそうに笑った。
「後で、校舎を案内するよ」
「お願いします」
「でも、そうだな。しばらくは必ずシャルロット嬢と一緒にいた方が安心だ」
「はい、そのつもりです」
「アラン、彼女と知り合いなのか?」




