教会
あれから私は公爵様に治療の件をお伺いすると、快く許可してくださった。
それどころか、領主として頼む、とまで言われてしまった。
アラン様にも手紙で教会の件をお伺いすると、こちらも君の好きなようにして良い、と言ってくださった。
「ということでフィー、早速行くわよ! 」
「畏まりました」
「あらあら、領主様が人を派遣なさると仰っていましたが、お嬢さん方だったとは……」
鎖のかかった門で私たちを出迎えてくださったシスターは驚きの表情を浮かべていた。
「はい、今日はよろしくお願いします」
フィーに続いて私も軽く頭を下げる。
「……だがお嬢さん、本当によろしいのでしょうか? 下手したらお嬢さん方に病が映るかもしれないのに」
シスターは心配そうな顔をする。
「大丈夫ですよ」
私は真っ直ぐにシスターを見つめた。
鎖がかなり複雑で、これを解くのは大変そうだと思っていたら、シスターは隠し通路を使って私たちを中に引き入れてくれた。
フィーが私たちの前を歩くシスターに話しかける。
「……隠し通路があるのに、どうして鎖が必要なんでしょう」
……それ思ったわ。わざわざあんなに大きな鎖をかけなくても。
「周りに住む人々が安心できるようにでしょうか。見た目というのは人に大きな影響を与えますから」
まずは患者の治療を行おうと言うと、シスターは少々渋りながらも案内してくれた。
「ここです」
重たい木製の扉を開けると、15人ほどの人が並べられたベッドに横たわっていた。
皆虚ろに宙を見上げ、私たちが来たことに気づく様子もない。
「シスター、この方々たちはどのような病気なのですか……?」
「……全身が少しずつ麻痺していく病気です。初めは手先足先から、徐々に全身が麻痺していき動けなくなるのです。ここにいる方達はもうかなり病気が進行していますので、私たちの声も聞こえていないでしょう」
「……全身が麻痺……」
「日を追うごとに動かなくなる体に、患者は絶望を感じます。昨日はできたことが今日になってできなくなった。昨日は音が聞こえたのに、今日は聞こえなくなっていた。昨日は目が見えていたのに、今日は見えなくなった。……そんなことが毎日のように起こるので、この病気の人々はとても苦しいのです。今もきっと泣いたり辛いと叫んだりしたいはずなのに、もう頬の筋肉も口も動かないのです」
あまりの病状に私は言葉が出なかった。
隣のフィーも黙り込む。
……この人たちは今何を思っているのだろう。治りたいと思っているのか、諦めの境地に立っているのか。それによって、おそらく魔法の効果が違う。
そもそも少ない経験の中で、こんな例があるわけなかった。これは、キャサリン様より根気が必要かもしれない。
でも……
「少しずつ、治療します」
だからといって、助けたいと言う思いに変わりはない。
「何か手伝えることがあったら言って、アリス」
フィーも私を支えてくれる。
不安はなかった。それどころか絶対に治してやるのだ、という闘志に燃えた。
体力が無いのと、生きたいという願望があるのかわからないことから私は本当に弱い治癒魔法しかかけられなかった。
何事も慎重に、である。
重症の人々全員に魔法をかけ終えると、今度は比較的進行が遅い患者の元へ行った。
「シスター……お客さんですか?」
部屋に入ると老若男女、10人ほどの人がいた。全員、ベッドに横たわっており、すでに足が動かないのだと直感する。
この病にかかっていれば、周りにイライラを当たり散らかしたり、健康な人間に対して怒りを覚えたりするのでは無いかと思っていたが、そこにいる人々は恐ろしいほどに落ち着いていた。
それだけシスターの存在が大きなものなのだろう。
私はまた1人ずつ回って1回1回丁寧に治癒魔法をかける。患者の皆さんは、私の手から出る白い光にびっくりしたものの、あまり体に効果はないようで不思議そうな顔をしている。
……まぁ、最弱の治癒魔法ですものね。
「また来てもよろしいでしょうか?」
そう聞けばシスターは受け入れてくださった。
……効果が出るまで時間がかかるけれど、根気よく頑張らなくては。




