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すみれ色の瞳  作者: mayan
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アルテミスの屋敷

 


 私は今日、無事にアルテミス領に入った。

 領地の境の検問では、彼を見るなり皆が一斉に礼をするので、そういえば彼は公爵家の人間なのだと思い出す。



 領内に入ったとはいえ、邸まではもうしばらくかかるかと思ったのだが、彼の屋敷のある都まではすぐだった。


 領都ヘレナに入ると、馬車の紋章からか手を振ってくれる人が大勢いた。

 中には彼の名を叫んでいる人もいる。


 あまりの人気ぶりに私はとても驚いた。

 ここまで民の好感度が高い貴族は初めてかもしれない。


 彼は馬車の窓を開け、民衆に手を振り返す。

 すると大きな歓声が沸いた。


 私はどうすれば良いのか分からなかった。

 窓が全開なため、私の姿も平民の皆さんに見えている。

 あの人は誰だ? という視線が何百と注がれとてつもなく気まずくなる。


 こういうときの、対処法!!


 ……私は優しく微笑んでおいた。




 領都ヘレナに入ってからしばらくすると、人が少し少なくなった。

 そんな中現れた銀色の繊細な装飾の施された大きな門をくぐる。




「まずは父上に挨拶するんだけど、付いてきてくれるかな?」

「はい」



 そんな会話を彼とした数分後、私はあまりの規模の屋敷に呆気としていた。



「これ、全部屋敷ですか? 森や湖がありますが……」


 スペンサー公爵家の屋敷にも湖はあったけれど、その何倍もの大きさだ。

 その奥には背の高い木が並んだ森がある。


「最初の大きな門から屋敷の敷地だ」


 は……?


 帝国の公爵家と王国の公爵家では感覚にズレがある。



 門をくぐってから10分ほど経つと、ようやく建物が見えてきた。

 それを見て私はまたも言葉を失う。


「……頭おかしい」


 ここはどこぞの王宮だ? と思わせるほどの豪邸。建物の前には巨大な噴水が水しぶきを上げている。

 丁寧に手入れされた庭園は絶景だった。


 ……アルテミス家の財力、恐ろしい……。


 これでもラシオン王国筆頭公爵家の娘だ。贅沢には慣れていると思っていたが


 ……格が違う。



「はい、着いた」


 当然のように彼は私に手を差し出す。

 慣れてきたとはいえ、未だ私はこの瞬間がドキドキするのだ。


「若様、おかえりなさいませ」


 出迎えの使用人の皆さんはタイミング、角度がばっちり揃っている。すごい……。


 顔を上げた皆さんは私を見ると少し驚いたような顔をなさる。


 そうですよね、この人誰だ……? って感じですよね。知ってます。


 もうこの視線に慣れてしまい私は、取り敢えずそっと笑顔を作った。


「父上はどこに?」


 彼の問いに、使用人の中で一番古株らしき執事さんが答える。


「旦那様はサロンでお待ちです」


「そうか、ではそのまま行ってしまおう。……アリス、それで大丈夫かな?」


「はい、私はいつでも」


 彼が私を呼び捨てにしたことで、彼らの私に対する謎は深まっていくようだった。





「お帰りアラン」


 公爵様はアラン様と同じ金髪に深い青色の瞳。穏やかな微笑みを浮かべる公爵様はなんとも素敵だった。


「ただ今戻りました、父上」


「そちらのお嬢さんは?」


 私と視線を合わせる公爵様は、さすが当主といったところか、圧倒的なオーラがあり、優しい声にもかかわらず、私はかなり緊張する。


「ラシオン王国より参りました。アリスと申します」


 どんな状況でも美しいカーテシーができるようにと鍛えられていて、良かったわ……。

 王妃教育万歳!!


「アランがご令嬢を連れてくるとは」


 公爵様は面白そうに笑った。


「……父上、急いでお話ししたいことがありまして」


「まぁ、取り敢えず座りなさい。女性をいつまでも立たせるのはいけない」


 私と彼は公爵様に促されるまま、ソファに腰をかける。


「それで、話とは?」


「母上のことです」


 彼の言葉に公爵様は固まる。


「……キャサリンのことか」


 ……アラン様のお母様、キャサリン様とおっしゃるのね。


「アリスは、母上を治すことができるかもしれません」


「本当か!? 」


 公爵様は初めて表情を崩された。


「彼女は膨大な魔力と、聖属性を所持しています。……父上もご存知でしょう、リーララピスを。アリスはリーララピスの持ち主です。希望はあると思います」


「アリス嬢が……リーララピス?」


 公爵様は私の顔を覗き込まれる。

 それだけなのに、私はどきりとする。


「……彼女の瞳は桃色だが」


 ……え?


「あ……、ごめんアリス。髪の色戻して満足して、瞳の色戻すの忘れてた」


 ……あぁ、セルドアでかけた魔法がまだ…………まだ残っているの!? 戻し忘れたなんて、こんなに時間が経ったら勝手に消えそうなのに。


 彼は私の目に指先を向けると、小さく呪文を唱える。目が暖かくなり、私はそっと目を瞑る。


 ……お昼寝したくなる暖かさだわ。


 私がその心地よさに埋もれていると、徐々に熱は引いていった。

 ゆっくり目を開け、公爵様を見つめる。


「……本当の……リーララピスだ……」


 しばらく呆然と私を見ていた公爵様だが、しばらくすると、動き出した。


「……これは失礼しました。リーララピスをこの目で見たのは初めてだったもので……」


 公爵様はビシッと姿勢を正される。私もつられて背筋を伸ばす。


「アリス嬢」

「はい!」

「私の妻のことをどうか頼む」


 公爵様は机に額が付くのでは、と思うほど深く頭を下げられた。


「僕からももう一度、頼む」


 隣に座っていたアラン様も公爵様に倣う。


「顔を上げてください!!」


 ……やめて、やめて。とっても申し訳ない気持ちになるから。


「頼まれるまでもなく、私はアラン様に助けて頂いた身です。治療は全力を尽くさせていただきます!!」


 できれば早めにキャサリン様のところに伺いたいのですが……。


 そう続けると、すぐさま案内してくれた。






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