シアラ視点5
アリスは私にとてもよく懐いてくれた。
厳しい王妃教育の後も、私を見つめるとキラキラと目を輝かせてお話をしてくれるのだ。
元々の天使のような容貌に、美しい声。
何より、いつも笑顔で頼ってくれるアリスが嬉しかった。私自身が妹であったためか、とても新鮮に思えたのだ。
私はアリスが可愛くて仕方がなかった。
そんなアリスは、王妃教育に文句も言わずついてくる。
本当は毎日来なくても大丈夫なのだけれど、本人が気にしていないようだったので、そのままにしておいた。
王妃教育は早く終われば終わるほど良い。
勿論適当にやって早く終わらせてはいけないけれど。
アリスはおそらく元が真面目な性格なのだと思う。授業は全てきちんと受けていて、途中で逃げ出したこともなかった。
……王子の方なんか、しょっちゅう抜け出して皆を困らせていたのに。
アリスの努力が報われてか、18歳終了予定の王妃教育は15歳で終わった。その時のアリスの信じられないという顔は、アリスにしては珍しいものでとても愛らしかったものだ。
私はその時、アリスに提案した。
魔法を学ばないかしら? と。
私が早く王妃教育を終わらせたかった理由の最も大きな理由がこれだった。
魔法は日常のちょっとしたことから敵に襲われた時まで様々な場面で活躍するもの。習得しておいて損は無いと考えていた。
彼女がこれから厳しい世界で生きて行く中で、少しでも助けになれるものを与えたかった。
アリスに断られたらどうしようかしら、と思っていたが杞憂に終わる。
彼女はいつも以上にその瞳を輝かせて、やりたい! と言ってくれたのだ。
……私が国に帰れる日も近くなってきたわ。
幸せそうなアリスを見ながらそう思った。
アリスはやはりリーララピスを持つ者として、珍しい聖属性と、恵まれた魔力を持っていた。
その真面目な性格と、王妃教育で培った集中力で、アリスはめきめき上達していく。
治癒魔法に結界魔法、回復魔法に解呪魔法、初級魔法は詠唱すればほとんど一発成功、苦戦しても10分ほど練習すれば習得していた。
昔の自分とアリスが重なって見えた。
私もそういえばこれが苦手だったなだとか、これはよく褒めてもらったなだとか。
スーリールにいた頃の日々を思い出すことが多々あった。
アリスに教えて行く中で、彼から魔法を教えてもらったときのことも思い返された。
私が1番成長した日々のレッスン。
彼がどのような風に教えていたのか、コツは何だったか、初心に戻って考えることもした。
彼のことを思い出している時は幸せで。彼の声、表情、笑い方が……まるで目の前に彼がいるかのように感じるのが嬉しくて。
私は立て込む公務の合間によく物思いにふけた。
やがて、アリスは学園に入学する。
私はその頃から押し付けられる仕事が増え、あまりアリスとの時間が取れなくなってしまった。
アリスは学園での話を沢山してくれた。
王子はアリスに対して暴言を吐いたり、婚約者としての務めを果たさない嫌がらせをしたりしていると聞いたけれど、アリスはあまり気にしていなさそうで安心した。
私のアリスは大人なのだ。
テストではさすがというべきか、当然のごとく1位を取ってくる。
アリスは私の誇らしい娘だった。
なかなか時間が取れずに会える時間が減っても、アリスは自ら魔法の練習をしていた。氷魔法を使えることが発覚したり、私と同じようにユニコーンから加護を頂いたり、なかなかの偉業を達成しているが、本人にその自覚はあまり無い。
決してぼんやりしているのではないのだが、どこか鈍感というか、なんというか……。
まぁそんなアリスが好きなのだけれど。
冬休みが終わる頃、その噂は聞こえてきた。
「王子が婚約破棄をする」
まさか、と思ったが影に調べさせるうちに事実だと判明する。
……あんなに一生懸命王妃教育に取り組んでいたのに。
私はアリスが心配だった。
毎日毎日懸命に取り組んだあの日々は何だったのか、と思わないだろうか。悲しまないだろうか。
ようやく時間の取れたお茶会の時に聞こうと思ったのだけれど……
「……婚約破棄の件ですか?」
何故か彼女はすでに知っていた。いつのまにか逞しくなったものだ。
それと私は安心する。アリスはとても幸せそうな顔をしていたから。
そして卒業パーティーの日、アリスは婚約破棄された。
側妃に迎えるだなどとふざけた事を言っていたが、アリスは冷静に会場から逃げていった。
私は影を呼ぶ。
「アリスを念のため、追って」
「畏まりました」
……これで一安心ね。
アリスがいないこの国に留まる理由はもう無かった。




