アラン・アルテミス
私の隣にはフィーが、向かいには彼が座っている。
広々とした馬車は私たちを乗せると静かに動き出した。
「本当に助かりました。何とお礼を申し上げたら良いか」
「謝礼は君が無事に国を出られたらにしてくれ」
「畏まりました」
「一年間同じ教室で過ごしていたが、一応自己紹介をしておこうか。僕はアラン・アルテミス。アルド帝国アルテミス公爵家の人間だ」
「私はアリス・スペ……、アリスにございます」
そう言えば、私はもう公爵家の人間ではない。
うっかり名乗ってしまいそうだったわ。
「僕らは同い年だ。堅苦しいのはやめよう。僕のことは、アランと呼んでくれ」
「分かりました。では私のこともアリスと」
「うん、アリスよろしく」
「よろしくお願いします」
「こちらは?」
アラン様はフィーを見る。
「私の専属侍女のセラフィーナです。」
「セラフィーナにございます」
「よろしく。セラフィーナ嬢」
「よろしくお願いいたします」
フィーと挨拶を終えたアラン様はもう一度私に視線を戻す。
「それにしても、アリス。君はどうして僕の提案に乗ったのかな?」
「提案したのはそちらではないですか」
「いや、そうだけど……大分疑ってたみたいだから、まさか頷いてくれるとは思ってなかったんだ」
「アラン様の目は真面目でした。私の目を見て話してくれたから、嘘はついていないだろうと」
「目だけで判断とは、君もなかなか思い切りがいいね」
「ありがとうございます?」
はははっとアラン様は声を上げて笑った。
「それにしても、夜通し馬車を走らせることになってしまってごめんなさい」
「いいや、それは元からそのつもりだったから。君が気にすることはない」
「それならいいのだけれど……」
「早くこの国から出て行きたい気持ちは僕も同じだ」
「この国に留学しに来たのに?」
「あぁ、学問は割と発展している方じゃないかな?」
「テストは毎回上位でしたね」
「知ってたんだ、僕のこと」
「それは一番近くに名前があったから」
「君には負けるけど……」
「アラン様は留学生なのに満点とっていらっしゃったではありませんか」
「あれは頑張ったからね。……そうだなぁこの国は、勉学は楽しかったけど」
「けど?」
「国のトップがダメだ」
「そんなことをはっきり言っては不敬罪で捕まりますよ?」
「君が馬車に防音魔法をかけていることは知っている」
「流石ですね」
「防音魔法を無詠唱でかける君もなかなかだと思うけど」
「ありがとうございます」
「あの国王はダメだな、公務を部下や第2王妃に頼りっぱなし。貧富の差や厳しめの税制、横領や賄賂など、解決すべきことが山積みなくせに何も政策を打ち出さない。第1王妃はもう……言うことがないな。なんだあれは? レベルだ。ジオルド王子も留学生の僕に勉学で負けるなど、本当ならあってはならないことだと思うのだが……。とにかくあの王室全体的に絶望的だ」
「それは同意します。まだ婚約者の私に書類仕事押し付けるような人です、あの王子は」
「それは酷いな」
「はい、私もこの国の未来は暗いなぁと思っていたので逃げて来れて良かったです」
「君もなかなかに辛辣な」
「婚約破棄した瞬間に側妃として仕えろ、言い換えれば面倒な公務を片付けろと言い出す王子ですよ。しかもおそらく最初の提案者は国王。世も末ですね」
「アリス、そういえば君婚約破棄されてきたんだね。あまりにあっさりしているから忘れていたよ」
アラン様は可笑しそうに笑った。
「あんな王子、こちらから願い下げですわ」
「この国の貴族はこんなものかと半ば諦めていたが、君はいい話し相手になりそうだ」
「ありがとうございます」




