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すみれ色の瞳  作者: mayan
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夏休み

 


 待ちに待った夏休みである!


 現在私はフィーと共に領地に避暑しに行く。

 しかし、私は既に暑さを克服していた。


「アリス様、流石です! こんなに馬車が涼しくて快適なんて!」


 そう、シアラ様とのお茶会で氷魔法が使えることを知った私は、文献を読み猛練習をし、基本的な氷魔法は使えるようになったのだ。


「フィーもありがとう! 風が程よく心地いいわ」


 この馬車は、私の氷魔法で冷やし、フィーの風魔法で空気の循環を行なっている、超・快適な代物になっていた。


「馬車の中は空気がこもりやすいですからね。この魔法が無かったら、移動時間が地獄と化していたでしょう」

「最高の夏休みね」


 領地の屋敷に到着した時、既に死にそうな公爵一家は1ミリも疲れていなさそうなアリスを呆然と見つめるのだった。




 領地に戻ったとしても、わたしにはこれといってやることがない。時間は有り余っていた。


「ということで! 今日から魔法の特訓よ!!」


 私は今、フィーとともに屋敷の魔法練習室にいる。その名の通り魔法を練習するための部屋だ。


「アリス様は真面目というかなんというか……。夏休みくらいごゆっくり過ごされてもいいのに」


「ゴロゴロするのも3日続けたら飽きたわ! だから、この時間を有意義なものにするのよ!」


「分かりました、私も便乗します」


 端に置いてある机に分厚い魔導書を積み重ねる。


 光魔法に水魔法、それから氷魔法、どれを始めに練習しようかしら……。光魔法はシアラ様のところで教えて頂いているから、やっぱり水か氷ね。

 では手始めに水の中級魔法の復習からして、時間が余ったら上級魔法に挑戦してみましょう!


「アクアシエル……」


 この世界の魔法は、長々しい文章を発動のたびに読み上げるのだが、練習を重ねるごとに、それらを少しずつ省略していっても効果は変わらない。ありがたい事に、極限まで省略すると今のように一言で済んでしまうため、長々しい呪文を覚えることもないのだ。


 ……まぁ、その分集中力は必要だけれど。


 詠唱が短くなるにつれ、魔法のレベルが上がるにつれ、発動させるのに繊細な魔力コントロールと集中を乱さない強い精神が必要であるのだが……


 ……王妃教育を受けた私は無敵よ!


 そう、あの地獄のような時をくぐり抜けてきたアリスにとって、省略した詠唱で魔法を発動させるのは大したことではないのである。



 普通は省略することはかなり高度な技術のはずだ。学園に在籍中にできる生徒はほんの一部しかいない。宮廷の魔導士ともなれば話は別だが、15歳にしてそれを成功させるアリスは異常なのである。


 ……が、アリスは省略を当たり前だと思っている。


 その原因が隣にも……


「ヴァンエール」


 フィーはそう唱えると、部屋の奥の方にアリスの背の2倍ほどの竜巻が出現した。風属性の中級魔法だ。


「室内に竜巻を出せるなんて……どうなっているのかしら。不思議でたまらないわ」

「アリス様、それを言うなら私もどうして何処からともなく水の玉が現れるのか不思議でたまりません」

「そう?」

「そうです」


 その後も私たちは黙々と練習を続けた。







「何だか、外が騒がしくない? 気のせいかしら」

「私も思いました」


 領地に戻ってから既に3週間経った日だった。


「見てきましょうか」

「そうね、念のためお願いしていいかしら?」

「かしこまりました」


 フィーが退室するのをそっと見送る。


 私が生活しているこの部屋は、屋敷の端の方に位置していた。そのためか、ここに来てから家族はおろか、使用人にも数えるほどしか遭遇していない。


 ……静かだからいいのだけれど。


「ただいま戻りました」

「ありがとう、流石ねまだ5分も経ってないわ」

「近くにいた使用人に話を聞くだけでしたので」

「それで? どうだった?」

「はい。本日、公爵主催の夜会を開くようで皆準備に走り回っているようです」

「なるほど。彼らもかわいそうね。夜会のたびに()()に対処しなくてはならないなんて……」

「全くです。私はアリス様付きで本当に良かったです。準備も、アメリア様のお相手もしなくていいのですから」


 そう、夜会がある日アメリアはいつもに増してわがままになるのだ。

 ドレスはああでもないこうでもない。延々と着替えを続け、満足するまでそれは終わらない。湯浴みのお湯にも温度や浮かべる花びらに一々文句をつける。最終的には情緒が不安定になり、周りの使用人に当たり散らす。

 困ったお嬢様である。

 夜会の日ばかりは屋敷の使用人に同情せざるを得ない。

 今もアメリアのわがままのために廊下を走る使用人がいる。


「……主人がアリス様で本当に良かった……」


 セラフィーナはそっと呟いた。

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