表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すみれ色の瞳  作者: mayan
25/79

加護

 


 あっという間に夏休みは終わりに近づき、とうとう明日、王都に帰る。


「アリス様、おやすみなさい」

「おやすみ」


 その会話をフィーとしてから、かなり時間が経った気がする。目が冴えていて、一向に眠れる気配がしない。



 ……寝るって、どうすれば良かったのかしら。


 眠れない人が毎回思うこと。

 ふっと意識を手放せたらいいものの、視界だけでなく思考もはっきりとしてしまっている。



 それからしばらく格闘を続けたアリスは…………諦めた。



 ……無理だわ。寝られない。



 もぞもぞとベッドから這い出て、カーテンを開け月光を浴びる。


 ……少しくらい、お散歩しても良いわよね。


 アリスは薄手のカーディガンを羽織ると屋敷をそっと抜け出した。









 アリスは屋敷の庭を1人、歩いていた。

 湖の表面が月の光を受けてキラキラと反射する様子はなんとも神秘的である。

 屋敷の敷地内に湖があるのかと初めて来た時驚いたことも今はもう懐かしい記憶だ。


 人の声も鳥の鳴き声も一切聞こえない、この時間をアリスは満喫していた。


 真夏の夜らしく蒸し暑い空気もこの1ヶ月ちょっと訓練を続けた氷魔法で私には何の影響も与えていない。


 最近では、光魔法と水魔法を同時に発動させることもできるようになってきた。

 王妃教育の一環として、護身術も学んでいるがどうしても体格差によって勝てない時はある。体術はそこそこできるものの、誰にでも勝てるような天才の才能はない。


 だからこそ、魔法を使える安心感は凄かった。結界魔法を張れば攻撃は飛んでこないし、水魔法を使えば相手を遠くへ流すこともできるし…………氷魔法は凍らせられる。


 こうして護衛をつけなくても気軽に外に出られる自由が嬉しかった。



 大きく息を吸えば、肺に新鮮な空気が入ってくる。普段より空気が澄んでいるのがわかる。


 世界に私だけが住んでいるような感覚。

 この夜空も、森も、地面も、私だけをそっと包んでくれる。

 人の醜さを忘れ、権力を忘れ、ただ1人のアリスとして立っている。

 自然と心は穏やかになり、優しさで溢れ出す。


 ……明日で帰ってしまうのが勿体ないわ。


 私は最後の安らぎの時を堪能した。






 ふと来た道を振り返ると、屋敷が遠くに感じた。


 ……そろそろ帰りましょうか。



 屋敷へ引き返そうとした時、道の脇の茂みからクゥンと動物の鳴き声がした。



 ……何かいるのかしら?


 1人で行くのは危険だという警戒心と見てみたいという好奇心がせめぎ合う。しばらく佇んで、葛藤する。


 これは行っても良いものなのか。私に危険は及ばないだろうか。でも、そこにいるのは何なのかしら……。





 ……覗くだけ、覗くだけよ。


 アリスの好奇心は勝利をつかんだ。




 物音を立てないようにそっと茂みに近づき、声のした方を覗く。




 …………!?



 私は言葉を失った。



 真っ白な毛並みは自らがほんのり輝きを放っている。額から伸びる小さなツノ。私と同じ紫色の瞳と視線が合う。



 ……一角獣(ユニコーン)だ。



 幼い頃読んだ絵本に幾度となく出てきた生き物が、今目の前にいる。

 クゥン、ともう一度その子は鳴くと私の方にすり寄ってきた。



「……あなたは一角獣(ユニコーン)なの?」


 まるで、そうだよ、というようにその子は鳴いた。


「……あなたのお名前は?」


 その子、呼ばわりも何だか申し訳ない。


 その子の瞳を見つめると、言いたいことが分かった気がした。


「……私が名前をつけても良いの?」


 肯定するかのようにその子は、高めの声を響かせた。


 ……そうね。どうしましょう。一角獣(ユニコーン)に名前をつけるなんて緊張するわ。これはかなりセンスが問われそうね。


 アリスはしばらく考え込んだ。


「……アリアなんてどうかしら?」


 教会に響く美しいアリアからとってみたのだけれど……。


(素敵な名前ね! とっても嬉しいわ!!)


 んっ!?


 心に声が響いた。


 これはこの子……アリアの声?


「あなたがしゃべっているの?」


(そうよ! 名前をつけてもらったから、あなたに私の加護を与えたのだけれど、もしかして嫌だった?)


「いいえっ! 嫌なわけないわ!! でも加護なんて大昔の歴史書でしか見たことがないのよ」


(ここ最近は加護の数が減っているから……。昔はほとんどの人が加護を貰っていたとと聞いたけれど。でも、今も全く無いという訳ではないわ!)


 そうなのね……。

 でもこんな物語の中みたいな出来事が起こるなんて。


「ところで、アリアから加護を頂いた私は何をすれば良いのかしら?」


 すると、アリアはきょとんとする。


 馬なのに表情が手に取るように分かるわ。

 これが加護の影響なのかしら。


(アリスが気にすることは何もないわ。私がアリスに仕えたいと思ったから加護を与えた訳で……。)


「そう、そうなのね」


(ええ! アリスに危険が迫った時は必ず助けに行くわ!!)


 ……そうならないことを祈るばかりね。


(……ごめんね、アリス。私、そろそろ帰らないといけないみたい)


 ……どこに帰るのかしら。


「道中気をつけてね」


(うん! じゃぁまたね!! 今日はアリスに会えて良かったわ)


 そう言い残すとアリアは茂みの方に姿を消した。


 ……これは、夢?


 アリスはとりあえず屋敷に帰ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ