6.昨日の情事
6.昨日の情事
いや、あのな。たぶんコレはその、アレです。
なんにも無かったといえば無かったんだが、そもそも、ちょっと調子に乗って攻めすぎただけというか、何と言うか、ですね?
いや、耳を甘噛みしただけで果てるとか、普通思わねえじゃん!?
昨夜の話です。
その……、割愛はするんですが、あの後ちょっと抱き合った後、「あ、これわりと良い雰囲気なんじゃん? これ、いけるんじゃね?」と思い、そのまま『致そう』としました。はい、その、俺が悪いのかもしれないんですけどね?
いやでも普通そうするじゃん!? あの流れならさあ! で、ラキオウだって、その、満更でもないっていうかさぁ。いつもの鋭い目つきも、昨日はとろんとしてたしさぁ! それはその、このままセッッスセッッス! ってなってもおかしくない流れじゃん!? いい年(四十歳と二千歳)なんだしさあ? 年の差とかの認識の齟齬とかも? 無かったとは思いますよ、はい。
で、その、可愛かったからさぁ、どっか攻めてみようと思ったわけ! オッサン頑張った! こちとら童貞四十周年記念だし? 今日から非童貞一年目が花開きますよ! そのためには相手にも気持ちよくなってもらいたいよね! って思ったのよ。
だから以前言っていた、その、耳をね。
性感帯だから触るなって言われてた、耳をね。ちょっとオッサン、柔らかく咬んだのね。
「んぁ! あっはあああああ、ひぃぃ、はぅぅう、う、……んんうぅぅ!」
足ガクガク! 身体ブルブル! そして股間のあたりからは、いや、何でも無い!
あんなになるんだね!
あんなになるんだね! 知らなかった! いや、もしかしたらラキオウが特殊なだけで、一般の人間は違うのかもしれないけれども!
ベッドのシーツをぎゅってする感覚で、寄りかかっていた岩を粉砕したときには、あ、平常運転ですねとは思ったけどな。
……で、あまりの気持ちよさ(あそこまでの反応だと謎だが)に、ラキオウ選手、そのまま気絶してしまいましてね。
ラキオウの巨体を抱えて、俺のベッドにそのまま寝かし、そのまま朝に。
目覚めたら横にラキオウは居なくて、代わりに翼のもげたドラゴンの死骸が転がっていた。……また助けてくれたのか。ありがたい。
結局俺は、童貞のままか。おっぱいの感触は首元で味わえたけど、それ以上には発展しなかったかぁ。うーむ、残念である。
「……さて、どうしたもんかな」
頭をぽりぽりかいて考える。
「あ、そういえば」
今日もリリパちゃんと話す約束をしているんだった。てきとーにつじつまを合わせて話していたら、ここいらにはしばらく滞在しているということになってしまったのだ。だから、明日も会いたいと。
「ラキオウに、街まで出てくるって伝えたいんだが……、いつも唐突に現れるのを待ってばっかりだからな」
驚くことに、この十五年。こちらからコンタクトをとれたことは一度も無い。
大体朝から俺の隣に居るので(そして命を助けてくれている)、わざわざ呼び立てすることもなかったというのが正しいが。
「おーい、ラキオウー? いないかー? 居たら返事してくれー」
ううむ、呼びかけても返事は無い、か。
ドラゴンの死骸を見るに、これ自体はラキオウが倒したものだ。拳の痕がくっきり残っている、だから戦えなくなっているということは無いんだろうけども。
「ま、顔合わせづらいよなぁ……」
一線を越えたわけではないんだけどな。お互い意識しちゃうよね。
「小学生かな?」
いや、小学生はあんな感じ方しないか。そこはたぶん、知らんけども。
「とりあえず書置きを残していこう。ラキオウの城までは……さすがに遠すぎるな」
そもそもこの森自体がめちゃくちゃ広いしな。
そうして俺は森を出て町へと向かったのだった。
リリパちゃんと話をした後、分かれて森へと戻ろうとした途中。
「あの、旅人さん」
煙草屋の店主に呼び止められた。
しっかりとした顔つきの、ナイスミドルな感じのイケオジだ。たぶん俺と同じ四十代だろうに、どうしてこんなにも違うんだろう。
「リリパと話してくれて、ありがとうございます。足の怪我のことで暗くなっていたのですが、この二日間はとても元気で」
「あぁそうですか。それは良かったです。二重の意味で」
良かった! うちの娘に手を出すな的な案件かと思った! 出してないけどな!
あとリリパちゃんが家で変なことを話していなくて良かった。いや、俺も変なことは話さないけどさ、どう思われてるかはわかんねえじゃん? 「あの旅人さん、時々私のこといやらしい目で見てくるの」とか! 言われてたら事案じゃん? 俺はそういう目で見てないけど、冤罪って無くならないよね世界から。って話。
「それで旅人さん。……少しだけ、お話を聞いていただいてもよろしいでしょうか」
「はぁ……、俺で力になれることなら」
そうして、地獄の門は開かれることとなる。