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7.しどろもどろ勇気




7.しどろもどろ勇気



「ドラゴン……退治、ですか」

 ドラゴンって、アレだよな。火を噴いたりとかする、アレ。

 一言いいか。

 俺に何を求めてるのこの人!?

 話をされたのは村にある酒場だった。そこには煙草屋の主人とこの街の長老と名乗る方が二人。

 なんだか俺よりもしっかりしている感じがする。大人である。

 身体だけがオッサンになってしまった俺とは、なんつーか風格が違いすぎる気もしないでもないが、まぁいいか。……アレだ! 異世界の人とかは精神が早熟なんだよ! 現代人とは作りが違うんだろうなぁきっと!

 悲しくなってきたのでその考えを一旦置き、俺はそのまま話を聞いてみることにする。

 何でも近頃、この村付近にドラゴンが現れるようになったとか。

 今のところ村に被害は出ていないものの、いつ襲ってくるかが分からない不安に苛まれているとのこと。

「う~ん……、しかしなぁ。どうにかしてやりたいのは山々なんですが……」

 如何せん。

 こちらもそんなに強くないのでねぇ。

 何せ俺は俺の弱さと、役に立たなさを知っている。

 毎朝嫌というほどに実感させられているのだ。

 ラキオウからの救命がなければ、こんな身体はとっくにバケモノ共の腹の中だ。

 あんだけ毎日ラキオウと一緒にバケモノ狩りして、その後に特訓までしてもらってるのに、覚えたのはちょっとの魔法と自衛手段だけときたもんだ。

 一瞬だけラキオウに頼んでみようかとも思ったが、駄目だ、あいつが森を離れられる周期はもうちょっと後だ。

 ちらと、二人の目を見る。

 この村に住む人たちは、『今』どうにかして欲しいのだ。

 今日が怖い。明日が怖い。これから先ずっと、怖い。

 恐怖という感情に押しつぶされそうになりながら、生きている。

「あれ、でもリリパちゃんは」

 わりと明るかったような。

 俺が疑問に思い質問をすると、煙草屋の主人、つまりはリリパちゃんの父親が答えてくれた。

「……リリパは今、一時的な記憶喪失状態なんです。

 なにせ、ドラゴンの被害を一番に受けたのは、娘なのですから」

 リリパちゃんは。

 村から少し離れた、いわゆる分校というところに通っていて。

 そこを運悪くドラゴンが飛び回っていたらしい。突風吹き荒れる大地。ドラゴンの巨体が、学校校舎を直撃した。柱の一本が彼女の足を傷つける。彼女は動けなくなり、その場に座り込む。――――その眼前には、ドラゴンの顔が。

「運が……良かったとしか言えません。気まぐれなのか何なのか、ドラゴンはそのとき、進行方向を変えたと聞きました。

 誰もが、リリパが食われると思ったらしいのです。しかし、無事だった」

 けれどその代償として、彼女は軽度の記憶喪失状態に、か。

 トラウマを忘れるために、そのあたりの記憶を脳が忘れるというのは、現代でも耳にしたことがある。つまりは、相当な恐怖を感じたということだろう。

「だから他の子には会わないんですね……。というかリリパちゃんが急にこの時間村にいるようになったのも、そもそも学校が破壊されて休校状態だったからか」

「……実はドラゴンは、その分校の場所をねじろにしているとのことで。

 ドラゴンが居なくならなければ、校舎の補修も出来ないという」

「なるほどねぇ……」

 うむ、事情は分かった。

 分かったからには助けてあげたい。

 あげたいのだが……。


 いやだからさ、俺、毎日そういう生物に命を脅かされてるんだって!


 むしろこっちが助けて欲しいくらいだから!

 手元の水を飲みながら、ちょっとだけ考える。

 見捨てる――――ワケにはいかないと、思う。人間的な感性を持って入ればそうだし、俺は人間だ。

 毎日のように、あの森で弱肉強食を見ている。弱い生物は淘汰され、強い者だけが生き残る。

 ぶっちゃけた話をすると、あの森に住むバケモノ共も、ドラゴンも、この村の人たちも、俺も、悪いことなどしていない。

 ただエサが目の前にいるから。

 もしくは、恐怖の対象だから。

 だから、だから――――生きるためなのだ。互いに。

 で、その。何だ。

 ここはいつもお世話になっている村だ。煙草を買うとき、この村が無くなってしまえば、ここよりも更に遠い場所へと向かわなければならない。それはとても面倒くさい。ラキオウは身体がでかくなるから、たぶん買出しにはもう出ないだろうし……。

 …………。

 ……。

 損得で考えて決着をつけようとしている時点で、俺の負けだな。

 とっくに答えは出ているのだ、その、俺が人間である限り。


「それじゃあその、分校に案内してくれませんかね……」


 俺は買ったばかりの煙草に火をつけ、そう言った。

 腹は決まった。

 その前にちょっと一服させてくれ。

 何せ、心臓の動悸が止まらないもんでさ。





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