1.そもそも俺の本領はよくわかっていない
1.そもそも俺の本領はよくわかっていない
一般人であったコンビニ店員の俺が、のうのうと十五年もこんな魔境で生き延びてこられたのには理由がある。
それが彼女、なんとも二千年近くも生きるダークエルフ種のラキオウである。
「然り……」
いや然りじゃない。助けてほしい。目の前のドラゴンから、とりあえず俺の生命を助けて欲しい。切に願う。
「ラキオウ・パンチ」
ドラゴンの頭が吹っ飛ぶ。吹っ飛んだ頭は綺麗な放物線を描き、近くに居たキュクロープスと言われる一つ目巨人へとぶち当たり、なんかダブルで魔物を倒していた。
「いやご愁傷様すぎるだろ」
キュクロープスさんは悪くないな、うん。死んでるからどうしようもないけれど。すまん。生きるって大変なんです。
あと技名がテキトーすぎる。
「しかしお前は、いつまで経っても強くならないな、リザード」
「あ、はい、すんません……」
すらりと伸びた四肢と絶妙なボディライン。褐色肌というよりは、ほぼ黒に近く、エキゾチックな空気をまとう、ちょっとクセのある感じの美女である。
切れ長の赤い目とショートカットな白い髪は、クールさというよりは戦士の精悍さを思わせるもので、彼女の強さを表している。
ほぼほぼ人間種(の美人な人)と変わらない出で立ちを持っているが、明らかに違う箇所が、ショートカットな髪から飛び出た、横に長い耳である。
性感帯だから不用意に触るなと言われたときには、うんまぁ、興奮したよね。
……まぁそもそも耳というか体のどこかを触ろうとしても、俺の速さじゃ避けられるんですけどね。
あ、ちなみに。この人のせいで俺はここに転移させられました。
「いやホント、助かったわー。このセリフ毎日言ってるけど」
「なに。お前を助けることが、私の生きがいのようなものだからな……」
「あ、はい」
直立している俺よりも、更に上から言葉が飛んでくる。
ラキオウ・シェルガさん。二千歳。誤植ではない。二十歳ではなく二千歳だ。
体つきはさっき述べたとおり。けれど、背が高い。現在二メートルくらいある。
彼女は生まれが特殊で、木の精霊とダークエルフのハーフだとかなんとかで、周囲の樹木からエネルギーを受け取れる体質らしい。だから長く生きれば生きるほど、体が大きくなるのだそうだ。
俺だって普通に百七十二センチと、男性平均くらいはあるのだが……まぁそんなこと問題にはならないくらい、身長差が発生してしまっている。
すらりと伸びた四肢と表現はしたが、そもそもの縮尺が俺と同じではないので、一般人と比べればそもそもの腕周りは大きいほうだ。
胸も大きい。尻も大きい。態度も大きい。……まぁ態度は、別にこんな環境だから普通なのかもしれないが。
堂々たる体つきと態度は、王者の風格を思わせる。――――というよりも、まさしくこの辺りの頂点だ。
それも、圧倒的頂点。神代と呼ばれる時代、魔王とか呼ばれる輩がいたらしいが、それよりも強いのではないかと思うくらいに、圧倒的だ。
「今日も平和で煙草が美味い」
「あ、はい」
返事をしつつラキオウの煙草に火をつける俺。指先からライター程度の火を出す。魔法だぜ魔法。十五年こっちで生きているけど、やっぱこれだけは未だに感動する。
「お前も吸え……」
「そうね」
取り出し、火をつける。……ふー、美味い。仕事の後の一服は、どの世になっても格別だ。俺、別に仕事してないけどな!
煙草っていう文化がこの世界にあったことに驚きではあるが、なんともまぁ、俺はその煙草によって、この世界に呼び出されたのだ。
なんとも奇縁なものだ……。
ラキオウの切れ長な目をと横顔を見つつ、俺はあの日のことを思い出していた。