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4-3 孤立したアダム

 「……はぐれたか」


 深い霧の中でアダムはひとり呟いた。

 ビルとターニアの姿が見えない。


 <アダム、もしかしてはぐれちゃった?>

 「ああ……情けない話だが、はぐれたみたいだ……ってギーか?」


 エクスカリバーからくぐもったような声がする。ギーの声だ。


 「お前……エクスカリバーの姿でも話せたのか?」

 <そうみたい。コマちゃんやナナちゃんに相談したら、やってみたらって言われた>

 「そうか……」

 <自分でもできるとは思わなかった>

 「……そうだな」


 ギーの姿であるときはあまり違和感を感じないが、一般的に考えて自我を持っていて会話ができる剣なんて聞いたことがない。

 やはりギーとコマちゃんことXコマンダーとの会話は不思議だ。あのXコマンダーにも自我があって、アダムたちの知らないところでギーのようにクボタと話をしているのだろうか?


 <それよりも、アダム……>

 「そうだな……」


 アダムは歩みを止める。懐から方位磁針を取り出し、方角を確認しようとする。だが、針はぐるぐると回って定まらない。


 「罠か……」


 この霧は人為的なものだろう。方位磁針まで狂わせるということは、何かしらの魔術的な仕掛けが施されていると考えたほうがいい。アダム1人を他の勇者たちと分断させるつもりだ。


 「行くぞ、ギー」


 そう言うとアダムは深い霧の中から飛び込んできたスケルトンを切り捨てた。

 分断作戦を行うのであれば、次にすることは一つ――袋叩きだ。


 ――古典的な罠に引っかかってしまったな……!


 スケルトンは大きな斧を装備し、前から後ろから、次々と襲い掛かってくる。アダムは目にも止まらぬ速さでエクスカリバーを振り回し、スケルトンを切り裂いていく。


 ――数が多すぎる!


 スケルトン一体一体はエクスカリバーの一振りで倒せるほど弱い。だがこう無尽蔵にわいてくると話が違う。アダムの体力と集中力を削っていく。近くに永遠の闇でもあるのだろうか? 消耗戦に持ち込んでアダムを殺すつもりだ。


 「はあっ……! はあっ……!」


 次第にアダムの顔にも疲労の色が浮かんでくる。このままではジリ貧だ……殺されてしまう! 緊急避難しなければならない!


 「……『終末の音速剣』!」


 アダムは切り札の終末の音速剣を放った。超高速でスケルトンを切り裂く……ことはなく、超高速を利用して無数のスケルトンの中から離れる。深い霧で周りが見えないため、スケルトンから逃げきれるかどうかは完全に博打だ。


 ――なんとか、スケルトンのいないところへ……!


 アダムは剣技のスピードを利用して走る。

 方角なんぞ気にしていられない。遭難も覚悟の上だ。

 しばらく白い霧の中を突っ走り、アダムは膝をついた。周囲はまだ白い霧に包まれているが、


 「に、逃げ切ったか……?」

 <多分逃げ切った。攻撃技で逃げるとはさすがアダム>

 「おかげでしばらく動けそうにないがな……」


 スケルトン戦での消耗に加えて、終末の音速剣の反動でアダムは動けない。もしここにスケルトンがやってきたら――

 

 その時、茂みの中で何かが動く音がした。

 

 ――やばい……!


 スケルトンが追ってきた! アダムは動かない体を無理やり動かしエクスカリバーを構える。だが、まだ万全ではない。万事休すか……!


 「あ、アダム様! ご無事でしたか!」

 「……クボタ殿!?」

 <コマちゃん! ナナちゃんも!>


 茂みの中に潜んでいた、スケルトンだと思っていたものは、魔の森に自転車を取りに行くため別行動をしていたクボタだった。自転車には乗っていない。右肩に箱型のナナシキを付けているということは、他のみんなと合流したのか?


 「クボタ殿……自転車は?」

 「無事回収してきました。ビル様たちのところに置いてきています」


 アダムはエクスカリバーを鞘に納めて立ち上がる。クボタがビルたちと合流したということは、無事に戻ることができる。


 「クボタ殿、ありがとうございます。帰り道はわかりますか?」

 「はい。皆さんアダム様をお待ちしています。早く戻りましょう」


 アダムは彼を探しに来たクボタの後についていく。彼は深い霧の中でも、一切の迷いもなく、まるで霧の向こうでも見えているかのようにどんどん歩いていく。


 「クボタ殿、確認ですが道はわかっているのですよね?」

 「はい。ここまでの道はこのレーダーデバイスが記憶しています。これが耳のインカムを通じて案内してくれているのです」


 クボタは左肩の箱――レーダーデバイスと耳に着けられた小さな機械――インカムを指さす。便利な道具を持っている者だとアダムは感心する。

 

 「こっちです、段差になっているので気を付けてください」

 「はい」


 クボタに案内されてアダムは霧の中を進んでいった。

 しばらく行くと、うっすらと馬車の影が見えてくる。近くにクボタの自転車とたき火が見える。


 「アダム兄ちゃーん! クボタのおっちゃーん!」


 ターニアの元気な声が響いてきた。ようやく戻ってきたのだ。

 アダムは胸をなでおろした。

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