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4-1 言い訳

「……お前たちがアミアン市で魔王軍に負けたという情報はすぐにジャンドール砦に入ってきた」


 ニラーナ将軍は話し始めた。


 「ブラフという仮面の悪魔が現れたこと、魔物を無尽蔵に生み出す永遠の闇、それに苦戦する勇者たち……勇者たちがかなわない敵に、我々が勝てるわけがない」

 「……それで、逃げたのですか?」

 「私には、砦の兵たちを……陛下よりお預かりした、王国の戦力を効率よく使う義務がある。ブラフや永遠の闇への対抗策がない中で、その戦力を無駄に使うわけにはいかない。ジャンドール砦の騎士たちは、軍の中でも優秀な精鋭部隊なのだ」


 アダムの問いかけに、ニラーナは堂々と答える。自分が悪いとは微塵も感じていないようだ。そんな言い訳にしか聞こえないニラーナの言葉に、ビルが反応する。


 「……そのために、我々が犠牲になってもよかったのですか? 恐れながら申し上げますが、我々は選ばれし勇者。この魔王軍との戦いにおける切り札であると自負しております」

 

 ビルは自分が重装の勇者であることに誇りを持っている。その誇りをかけて、ビルはニラーナに反論した。しかし、ニラーナはその誇りを鼻で笑った。


 「切り札? 笑わせるな。たった1匹の魔物の前に2人も敗れ去ったお前たちが切り札などとおこがましい。お前たちを選んだ教会もどうかしている。こんな負け続きで本当にこの国が守れるのか?」

 「あ、あなたは……我々はともかく、アミアン市を守るために犠牲になったヴォルフとモニカまで侮辱するのか!?」

 「先生!」


 ニラーナに殴りかかろうとするビルをアダムは手で制す。だが、アダムも内心は冷静でいられない。

 

 『ここは私の召喚でなければ止められません。アダム様たちはお行きください……ラスコー王国の貴族として、召喚の勇者として、無様な姿は見せられません……勇者の紋章をお願いいたします』


 『この傷じゃ助からねえな……アダム、悪いが魔剣はあの世まで持っていく。親父たちに謝っていてくれ。勇者の紋章は預ける……これが俺の最後の戦いだ……あと頼むわ』


 まだ10歳の少女だったモニカと、アダムとは同級生で悪友だったヴォルフの最期の言葉を思い出す。なぜ彼らを残してしまったのか、未だに悔やまれる。ニラーナの言葉は、そんな二人の命を懸けた決意と覚悟を踏みにじるものだった。


 「……ニラーナ将軍、今の言葉、訂正してくれませんか?」


 アダムは今にも爆発しそうな怒りを抑えながら言葉を発する。

 

 「なぜだ? 事実ではないか」

 「……モニカとヴォルフの死に関してだけでもいいから訂正してください。あの二人は自分の命を捨てて、大勢のアミアンの民と兵を……俺たちを守ってくれたのです……あの二人の死を犬死にみたいに言わないでください」


 しかし、ニラーナはアダムの言葉を一笑に付してこう言った。


 「犬死にか……まさにその通りだな。封印の鏡を2枚も敵に渡したのだから」 

 

 ――こいつ、人を馬鹿にすることしかできないのか……!


 アダムの堪忍袋の緒が切れた。こらえきれず、アダムもビルと一緒にニラーナに殴りかかろうとした時……先に切れたのはマリーだった。


 「こ、こ、この野郎うううううう!」

 「ひいいいいっ!」


 怒りで目を大きく見開き、叫びながらラスコー王国の貴族の証である宝剣を抜いて、ニラーナを刺し殺そうとする。しかし急に動いた拍子に傷が開き、マリーはニラーナのもとにまでたどり着かず倒れてしまった。


 「マリーちゃん、落ち着いて……落ち着いて……」

 「くっ……くっそおおおおおお! こいつのせいで……こいつのせいでえええええ!」


 リサは暴れようとするマリーを抱きしめるようにしてなだめる。

 

 「ふん……これだから勇者は……」


 刺し殺されそうになって、情けない声を上げたばかりのニラーナは、自分の醜態を忘れたかのように再び勇者たちを見下すようなことを言う。だが、


 「その割には将軍、あなた陛下よりお預かりした貴重な王国の戦力を引き連れておりませんが、どうなさったのです?」

 「……逃げる途中ではぐれてしまった」


 リサの問いかけに苦虫を嚙み潰したような顔で答える。その言葉に、リサは挑発するような口調で尋ねる。アダムやビルだけではない、リサもターニアもカルロスもマリーも、ヴォルフとモニカの死を悼み、悔やんでいた。ニラーナの言葉に全員が怒りを覚えたのだ。

 

 「あらら、大層なご高説の割にはご自分もなかなか大きな失態をなさっているようですねえ、将軍?」

 「だ、黙れ! と、途中で魔物どもの攻撃を受けたのだ!」

 「その魔物たちに勝てなかったのですかあ? たしか精鋭部隊でしたよねえ?」

 「くっ……! 突然の急襲を受けたのだ……」


 ニラーナは悔しそうに目をそらした。リサの言葉がよっぽどこたえたらしい。

 

 「これは軍法会議モノですかね、先生?」

 「そうですな……我々の証言があれば厳罰は確実ですな」

 「う、うるさい……!」


 ニラーナは黙り込んでしまった。勇者たちにとって酷い侮辱をしたのだ、ここまで言われて当然だろうとアダムを思った。他の勇者たちも少しは溜飲が下がったようだ。

 しかし新たな問題が出てきた。

 

 「さて、そうなると……行方不明の兵士たちを探さなければなりませんね……」

 「せ、聖剣の勇者よ……まさか兵士たちを探すと言うのか?」


 アダムの言葉に、ニラーナがたじろぐ。

 

 「何か問題でも? この周囲はそんなに険しい森じゃない。それにあなたがおっしゃる通り、ジャンドール砦の兵たちは優秀な者ばかりと聞き及んでおります。新兵のように孤立して遭難するようなことはないでしょう」

 「そ、そうだが……」


 ニラーナはあからさまに兵たちを探すのを渋っている。何か隠しているのか?


 「まさか将軍さん……ゴブリンに襲われて怖くなっちゃったとか?」

 「そ、そんなことはない……! わかった! 兵士たちを探そう……」


 ターニアの挑発に、しぶしぶだがニラーナは兵士たちの捜索を認めた。

 アダムは御者台のカルロスに指示を出す。


 「カルロス」

 「わかりました。ここに馬車を止めます」

 「よし……ターニア、先生、それとギー、行くぞ!」


 万が一に備え、動けるカルロスを馬車に残し、アダムはターニアとビルとギーを引き連れて馬車を出た。




 「ターニア、気配は察知できるか?」

 「うん……こっちにたくさんの人の気配がある。近いよ」

 「よし、行こう。ギー」

 「ちぇんじえくすかりばー!」


 魔物の襲撃に備えてギーをエクスカリバーに変える。ターニアを先頭に、3人で固まって動くことにする。

 空はオレンジ色に染まっている。時間はあまり残っていない。ターニアの探査能力ならすぐに見つかるはずだが、先ほどのゴブリンのようにブラフの影響で強化された魔物が出現する可能性もある。最悪の場合は退却も視野に入れなければならない。

 3人は茂みをかき分けて、兵士たちの捜索に入った。


 

 3人は気づいていなかった。

 これが敵の罠だということに―― 

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