表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤の竜―Dragon of Wrath―  作者: 枯田
猛る海原の赤の竜
PR
94/94

13話「人と剣と竜宝珠」

共通の表紙としてシリーズ第一章第一話にも掲載しています。次話公開時、移動します。

【イラスト:へるにゃー WEBSITE→http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/】

https://24652.mitemin.net/i296392/

挿絵(By みてみん)

深海での戦いが竜の力を操る方術戦へと移行したころ、東堂邸では。

今は会議室となった一室にて麗佳が報告書を見て、ほうと一つ息をついた。

「都市ガスのラインは此処を抑えることができたわね。農業型居住区を一基抑えたから食糧の供給もとりあえずは続けられるわ」

「発電所はどうです?」

「其処はまだ時間がかかりそうね。幾つか当たってみて少しずつ供給してもらってるけど、まだしばらくはこの居住区の発電所で賄うことになるわ」

「それでも何とかライフラインを抑えることができたか。これで兵糧攻めに対抗できるな」

明やロドニーの言葉に麗佳は苦笑いしながらも肯く。

此処にいるのは東堂家の人間ばかりではない。

一般人もいる以上、彼らの生活を守ることも麗佳の使命と言えた。

少なからず、その使命を果たせたことは素直に嬉しく思う。

全員が、とりあえずは一つの山を越えたことで、ようやく少しだけではあるが安心できた。

「苦労したが、負けるわけにはいかんからのう」

「感謝します。九垓お爺様」

「かまわんよ。政国殿が力を貸してくれたおかげでもあるからの」

「本当、お爺様にも苦労させてしまいました」

とはいえ、政国は可愛い孫娘のためなのか、むしろやり遂げたことに喜びを感じでいる様子だった。

助けられていることを実感し、麗佳はつい微笑んでしまう。

「しかし、今の状況でこういったことにも意識を割くことが出来るのはさすがですね」

明の言うとおり、誠吾が一人で『リヴァイアサン』と戦っていることを考えると、今後のための会議を開くこと自体、随分と冷静であると思える。

人によっては冷たいと思う者もいるだろう。

だが。

「井波隊長を信じるしかないもの。だからこそ、これから先もこの居住区を守るための努力を怠ることはできないわ」

今はここが誠吾にとっての帰る場所である以上、戻ってきた誠吾が悲嘆にくれるような状況にはできない。

ある意味では、麗佳たちは誠吾と一緒に戦っているとも言えるのだ。

麗佳とて、誠吾のことを心配していないわけではない。

だが、だからこそ、今いるこの場所での戦いをやめることはできないのだ。

「それに、『ジズ』や『ベヘモト』が、此処を襲って来ないとは限らない。今は信じて、此処を守り抜くだけよ」

「そうじゃのう。『青竜』の小僧はそう簡単には負けぬはずじゃ。わしらはわしらに出来ることをせねばの」

「はい、老師」

明が九垓の言葉にそう答えたことで話題は終わったが、此処にいる者たちも皆、誠吾が生きて戻ることを信じ続けていた。




近づけない。

誠吾は一気に離された距離を詰めることができず、焦ってしまっていた。

潮流を操るという竜の力が此処までのものとは思っていなかったのだ。

潮の流れを操ることで海水を自在に動かすことが出来るということを、せいぜい波が寄せる程度だと思っていた自身を恥じる。

(くッ、むしろ壁が襲ってくるようなものだ)

ルイスは百四十京トンと言った。

正確な数字はともかく、それだけの重量物が常に襲い掛かってくるという状況は、ちっぽけな人間では為す術もなく、龍機兵の自分とて波間に漂う塵に等しい。

『誇ってもかまいませんよ。良く耐えられるものです』

『簡単に流されるわけにはいかないからね』

そう強がるが実際には翻弄されるだけで為す術がない。

何とか、これ以上距離を離されないようにするだけで精一杯だった。

そこで、ふと気づく。

(耐えてる?)

何とか流されないようにと思ってはいるが、実際のところ誠吾は潮に流されているだけだ。

だが、よく考えてみると、ルイスとの距離は詰められないだけで引き離されてはいない。

もしルイスに無駄な戦いをする気がないのなら、このまま海面まで押し流してしまえばいい。

単に自分を弄んでいるのか、もしくは仕留めるつもりで疲労させようとしているのかもしれないが、それならば『耐える』という言葉が出てくるのはおかしいのだ。

(つまり、僕は自分の力で彼が生み出す潮流に耐えてるのか?)

言葉の意味を読み解けば、そう考えることができる。

何某かの力で誠吾はルイスの力に対抗しているということになる。

(何だ、それはいったい何なんだっ?!)

騙されている可能性がないわけではないが、もし、誠吾が自身の力でルイスに対抗しているというのなら、今此処で理解しなければ勝ち目はない。

『青竜』という竜が如何なる力を持つのかを、探り当てる必要がある。

だが。

『ぐあぁッ!』と、誠吾は悲鳴を上げてしまった。

ルイスはいきなり渦潮のような潮流を作りだし、その勢いで誠吾の身体を岸壁に叩きつけてきたのだ。

『まだです』

そのまま、凄まじい流れを誠吾に叩きつけてくる。

厄介なことに相手は潮の流れだ。

攻撃が止むことがない。

ルイスは常に誠吾に流れを叩きつけられるように、潮の流れを操っているのである。

『自然を支配すれば、これだけのことができるのですよ』

『ぐうぅ……』

身体が海溝の岸壁にめり込み始めている。

それほどの圧力に自分が耐えられていることが正直言って信じられなかった。

(このままじゃ、潰される……)

間合いを開けられたことで完全に地の利がルイスに傾いた。

深海という戦場において、潮流を操れるということが如何に恐ろしいものかを誠吾は思い知る。

考えてみれば、人が自然災害から対抗する術は逃げることだけだ。

人の力で対抗することなど出来るはずがない。

そんな自然を支配するなどと、あまりにおこがましいと思う。

ただ、力を借りているに過ぎないのに。

(ダメだッ、対抗する方法を考えるんだッ!)

くだらない思想論など今はどうでもいい。

龍機兵として、『青竜』として、『リヴァイアサン』に対抗する方法を見つけなければ、誠吾は海の藻屑となってしまうだろう。

ルイスが生み出す流れに耐えられていたさっきまでの自分が、いったい何をしていたのか。

この圧力にどうやって対抗していたのか。

其処まで考えて、誠吾はメーちゃんの言葉をふと思いだした。


『東海竜王の棲み処、『竜宮』の伝承に……』


彼女は確かに『青竜』にはその伝承があると言っていた。

(そうだ『竜宮』ッ、『竜宮城』は何処に在ったッ?!)

御伽話として語られる浦島太郎の物語。

助けた亀に連れられていったのは『海の底』にあった『竜宮城』だ。

『海の底』に存在することが『竜宮』を棲み処とする『青竜』の伝承であるならば、その地にあるものこそ『青竜』の力のはずだ。

それはすなわち。

『ギェエエェエイッ!』

『何ッ?!』

誠吾の眼前の海水が、そこだけ深海から切り離されたかのように、直径十センチ程度の深く美しい青色に輝く丸い珠となる。

すると、ルイスが操る潮流が、其処を突破できずに周囲に流されていき始めた。

『バカなッ!』

『僕も君と同じ『海の竜』だ。潮流を操る君に対抗する方法くらい持ってるさ』

正直言って息も絶え絶えなのだが、自身を鼓舞するために誠吾は余裕ありげに呟いた。

ルイスの潮流に対抗できる力。

ルイスの力は潮の流れ、もっと言えば水の流れを操る力だ。

その水の持つまた別の面の力が『青竜』の伝承にはあった。

深海の底にあると伝えられる『竜宮』、其処で主が生きるために必要な力、すなわち『水圧』を操る力が。

誠吾の眼前に現れたのは『如意宝珠』と呼ばれるものだ。

絵に描かれている龍の多くが手に持っている宝珠で願いを叶える力があるという。

実際にそんな力があるわけではなく、誠吾が水圧を操って眼前の海水を限界まで圧縮したものである。

『如意宝珠』に内包される凄まじい圧力の前では、さすがにルイスが操っているだけの潮流では突破できなかった。

(これを使って近づくか……、いや、これを攻撃に使うべきだ)

ルイスが驚いている今なら近づけるかと思ったが、そう簡単に近づけさせはしないだろう。

むしろ、『如意宝珠』を攻撃に応用することを考えるべきだと誠吾は思い直す。

(潮流を突破させるだけなら、此処までの圧縮はいらない。なら、同時に幾つか作れるはずだ)

とにかくルイスが操る潮流を防ぐために限界まで圧縮したため、今は一つしかできていない。

だが、宝珠だけをルイスにぶつけるなら圧縮率を下げても潮流を突破できるはずだと誠吾は考える。

とにかく、思いついた攻撃方法をどんどん試していくしかないと、誠吾は一気に行動を開始した。




相変わらず屋根の上で寝転んでいた諒兵は、よく知っている威圧が変化したことを感じ取った。

「……『青竜』か」

『わかりましたか』

諒兵の呟きに対し、即座にメーちゃんが反応してくる。

さすがに竜の力に関する反応はメーちゃんが一番早い。だが、諒兵もそのレベルに近づきつつあった。

何故か。

「わかるようになったんは、俺も『赤の竜』に近づいてるってこったな?」

『はい。『赤の竜』は全ての竜の敵として存在してます。敵の変化を感じ取る能力も強いんです』

「別にいい。それよかこの変化はOKなんかよ?」

『あの『リヴァイアサン』に勝つのであれば有効です」

本領を発揮した『青竜』ならば、『リヴァイアサン』とも互角に戦えるとメーちゃんは語る。

海のブレスである『タイダルブレス』に対抗できるブレスを持っているからだと。

「ブレスを撃ちゃいいのかよ?」

『少し違いますね。竜の力の究極がブレスです。ゆえにブレスを撃てるようになると、その力を操れるようになります』

竜の力を最大限に発揮できるのが竜のブレスだ。

ゆえに必殺技ということが出来る。

そのため、ブレスを吐けるようになるとそのブレスの本質の力を操れるようになるという。

『戦士型でも、方術型でも基本は同じです。撃つ以外にもブレスの力を操ることが出来る。それ以外の能力は実は人のイメージで創られるものなんです』

「鈴の望遠鏡とか、砲身とかか?」

『そうですね。しちめんちゃんはその点では天才と言っていいでしょう。あの子は竜のイメージに左右されず、自分の意思で力を創り出してます』

実を言えば、鈴の竜の力である『七面天女』に遠見の能力やブレスの増幅能力はない。

あの力は鈴が自力で創り出してしまったものなのである。

『新人類なのかもしれませんねえ』

「んあ?」

『かつての龍機兵では、方術型でも竜の力をあのように生み出す子はいませんでした。基本的に能力がブレスの派生である以上、ブレスの力に引きずられるのが普通なんです』

「俺の移動能力はどうなんだ?炎のブレスの力じゃねえだろ?」

『……アレは『赤の竜』のブレスの力ですよ』

「アホ言え」

『本当です。『白い火』をブレスとして撃てるようになればわかります』

そう言われてみて、諒兵は『白い火』をブレスとして吐いたことがないことに気づいた。

今まで右腕からしか発現できてないのだ。

つまり、諒兵はまだ『白い火』の本当の力を発揮できていないということになる。

『あの『白い火』のブレスは必ず敵に届きます。相手が何処にいても』

「地球の裏側でもかよ?」

と、少しばかり呆れた様子でそう呟くとメーちゃんはあっさりと肯いてきた。

『あの力をブレスとして撃った場合、空間を突き破って届きます。確実に敵を倒せるのが『白い火』のブレスなんです』

「驚いたな……」

『だから、普通の赤い炎だと空間は破れないでしょ?』

「そういやそうか……」

確かに納得できると諒兵は思う。

というか、『赤の竜』の力はあの『白い火』に集約されているのではないかと諒兵は考えた。

今の状態で使える普通の炎はオマケのようなものなのだろう。

ならば、考えることは決まっている。

「撃てるようになってやるさ」

『そうですね。自分の意思で『白い火』のブレスが撃てるようになれば、おそらく『赤の竜』のすべてが理解できるはずです』

其処が到達点であるとメーちゃんは語る。

まだまだ自分は成長途上にあるのだ。

「俺は鈴みてえに天才じゃねえかんな」

『変わった子ですねえ、しちめんちゃんは』

メーちゃんをしてそう言わしめるほど龍機兵として力を使いこなしている鈴。

もっとも、それはあのいつも変わらない純粋さにあるのかもしれないと思う諒兵だった。




さすがに深海での戦いにおいてはルイスのほうが上だった。

まさに一日の長と言えるだろう。

深海での戦いに慣れているのだ。

(くッ、圧縮した水の珠でも簡単には彼の潮流を抜けられないか)

海水を水圧を操って圧縮した如意宝珠をどうやって動かすのかわからなかった誠吾は、とりあえず、ある程度まで圧縮した如意宝珠を、何十回か思いっきり投げてみたのだが、ルイスが操る潮流にすべて流されてしまった。

正確には近くまでは行くのだが、さすがにルイスも自分の周囲の潮流にはかなりの力を持たせているらしい。

投げただけの如意宝珠では突き破ることができなかった。

『付け焼刃の方術で私を倒せると思うとは不遜もいいところですね』

『返す言葉もないよ』

わりと素直にそう答えたのだが、逆に余裕があると思われたのか、ルイスは睨みつけてきた。

だが、実際のところ、付け焼刃の方術ではルイスを倒せないと誠吾は理解している。

つまり、本音で答えてしまっただけなのである。

それが余裕に見られるとは思わなかったと、誠吾は苦笑してしまった。

だが。

(今のままでは勝てない。せっかく手に入れたこの力をどう使いこなすかを考えなければダメだ)

自分は方術戦には向いていない。

努めて冷静に振舞ってはいるが、誠吾も割りとバトルジャンキー気味なのである。

つまり、肉弾戦、もしくは剣を振るう戦いのほうが性に合っていた。

そうなると、如意宝珠を自分から離してしまうのは決して得策ではない。

今のところ、ルイスの潮流に唯一対抗できる『武器』だからだ。

(武器は、手に持って戦わないと僕には合わない)

だが、一般人に比べれば心得はあるとはいえ、誠吾は剣士だ宝珠というかボールを手に持って戦ったことなど一度もない。

それでも。

(これを持ったまま接近して戦うようにすべきだ)

そう考えた誠吾は、ルイスの潮流を如意宝珠で防ぎつつ、自ら流れを作るようにして強引に進み始めた。

『そのほうがまだ可能性はありますか』

『少しでも可能性があるほうを選択するしか僕にはないからね』

そうなのだ。

誠吾に出来るのは、自分の能力でルイスを倒す方法を探すことだ。

『ヘカティー』の支配権を『騙る者』に渡すことは出来ない。

それは自身の死を意味すると思うからだ。

ルイスが言う『獣の心』を感情だと捉えるならば、そこにも人の心はあるはずだからだ。

理性だけで人は語れない。

感情もまた人の心の要素だろう。

感情を排し理性で満たされた世界が本当の平和な世界だと彼らが言うのであれば、平和な世界も一つの悪と言えるかもしれない。

多くの人が素晴らしいと謳うだろう世界も、自分のような人間にとっては悪になりうる。

だが、だからこそ、自分たちのような人間は。

『接近すれば勝てると思うのは浅慮ですよ。我が潮流は我が身に近いほど激流と化すのです』

『ヂェエエェエイッ!』

『何ッ!』

激流と化した潮流を操って誠吾を飲み込もうとしたルイスだが、自身を掠める刃に戦慄し、すぐに距離をとる。

此処に来て、対抗できるだろう能力を捨てて剣に切り替えたとしたなら、誠吾はとんでもない大馬鹿者のはずだ。

だが、その大馬鹿者の一閃はルイスに傷を負わせるだけの威力を持っていた。

『それは……、考えましたね』

『考え直したが正解だよ。君は方術に関しては凄い才能がある。そんな君にとても頭脳派とは言えない僕が方術で勝とうとしたのが間違いだったんだ』

誠吾の手にある剣は先ほどまでと形を変えていた。

『青竜』の鱗で作られた青い刀身の鍔の部分により深い青色に輝く宝珠が嵌め込まれている。

間違いなく如意宝珠だ。

『刃に深海の超水圧を纏わせた。君の周囲を流れる潮流とほぼ互角の力がある』

『確かにその刃なら我が潮流を切り裂けますか。此処に着て良く其処まで進化したものです』

『負けたくないからね』

『ふむ?』

『君が獣の心と呼ぶだろう僕の剣士としての心が君に負けたくないと叫んでる。だから死に物狂いで進化してるんだ』

誰のためでもない。

世界のためでもない。

誠吾自身が持つ『負けたくない』という意地。

ただ、それだけのために誠吾は進化してみせた。

それが誠吾の新たなる剣。


『如意宝刀・青竜景光』


倒すことは出来ずとも、勝って地上に帰るために手にした竜の力を持つ人間・井波誠吾の剣だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ