第一話 異世界列車で異世界へ!
異世界列車が、真っ暗な次元トンネルを抜けると、窓から差し込む鮮やかな緑色の光が、神野雹吾の顔を照らした。
雹吾の瞳に映るのは、緑色の空。
緑の空には、ペガサスやグリフォンの集団が、乗客や貨物を乗せて飛んでいる。
とうとうやってきたのだ。異世界へ。
雹吾の生まれ育った、空が青い世界の『ブルー』から、空が緑色の異世界『グリーン』へと。
神野雹吾は、あさってから高校一年生。
緑世界にある高校へと入学するのだ。
そして、高校の三年間は、寮で生活をすることになる。
異世界列車の中に、アナウンスが流れる。
「まもなく、帝都駅。まもなく、帝都駅。お忘れ物がないようにお気を付けください」
雹吾は、足元に置いたボストンバッグを抱え、異世界列車の中を見回す。
雹吾と同じブルー人も居れば、天狗や河童などのグリーン人、ゴブリンやオーガやなどのレッド人、エルフやドワーフなどのイエロー人が座席に座っている。
今や、異世界は身近になった。
一万円も出せば、異世界列車で、気軽に行き来できる時代。
青世界の東京駅から異世界列車に乗り、次元トンネルを三十分ほど通過すると、緑世界の帝都駅に到着する。
そこから、火車バスという、熱くない燃えるバスに一時間ほど乗ると、雹吾の通う予定の私立大蛇学園に辿り着く。
大蛇学園は、成績の良さ以外にも、何らかの特技が一定レベルを超えていれば、入学できる。
大蛇学園のモットーは『長所をひたすら伸ばせ!短所なんか気にするな!』というもの。
そのため、大蛇学園には様々な異世界から、様々な能力を持った人物が集まって来るのだ。
雹吾が大蛇学園に入学できたのは、はっきり言って親の七光りに近かった。
潜在能力を認められたと言い換えれば、多少は聞こえがよくなるが。
神野雹吾は、魔王・神野悪五郎の息子である。
だが雹吾はまだ、魔王としての才能は、欠片も発現させていない。
もしかしたら、ただのブルー人である母に似たのかもしれない。
ブルー人の母と、グリーン人の父の、ハーフの雹吾。
魔王であるグリーン人の父からの才能は、受け継がれずに生まれてきたのだろうか。
だが、それならそれで、他の得意分野を伸ばせばいいだけの話だ。
雹吾は楽観的に物事をとらえる。
この雹吾の性格は、父の受け売りでもあった。
様々な異世界を仕事で飛び回っている父は、細かい事は気にしない性格なのだ。
ホストのような見た目の父は、なんでもかんでも「ま、いいんじゃね?」で済ます男。
雹吾は、そんな父のことが好きであった。
帝都駅に到着する異世界列車。
雹吾は、着替えや勉強道具の入ったボストンバッグを担ぎ列車から出ると、多種多様な人種の人混みを掻き分けて進む。
その際に、スーツを着たオーガにぶつかってしまい、「や、失敬」と向こうから謝られてしまった。
きっとサラリーマンだろうか。
異世界間通勤をしているサラリーマンも、最近ではよくいるらしい。
駅構内のエスカレーターは、段差の歩幅ごとによって何本にも分けれらていた。
一番左は、小人系の種族用の、ミニチュアのような段差のエスカレーター。
逆に、一番右はトロルやオーガなどの大型の種族が使う、段差が大きなエスカレーター。
雹吾は少し迷った挙句、丁度まんなかのエスカレーターに乗って、改札へと向かう。
やたら広い改札口の手前では、さまざまな土産屋が連なっていた。
父がよく買って来てくれた、『化け狸饅頭』も、ここで売っているようである。
雹吾は、ふと幼馴染の女の子のことを思い出す。
小学生の頃、夏休みや冬休みの間だけ神野家に遊びに来ていた、左の目尻に十字の痣がある、よく笑う女の子。
よく憶えていないが、聞き慣れない苗字だった気がする。
ルナちゃん、と呼んでいた、かわいい女の子。
一緒に、化け狸饅頭を食べては、ふたりでお喋りをしていた。
まだ小さい頃に一度、ルナちゃんをお嫁さんにしたい、と言ってしまったこともある。
その時に、泣いて喜んでくれた記憶は、今でも大事にしている。
小学校の四年生に上がる頃には、遊びに来なくなってしまった、雹吾の初恋の女の子。
彼女は今、どこで何をしているのだろうか。
かわいい子だったから、きっともう彼氏もできているだろう。
雹吾はたまに、こうして昔の記憶を思い返しては、記憶の中の少女に恋をする。
現実には、もう会う事はないだろうと、心のどこかでは分かってはいても。
甘い空想癖だけはやめられないのだ。
雹吾は土産物を眺め、夏休みに帰省する時にでも、中学のクラスメイトに何かを買って行こうかと考える。
だが今は、火車バスの出発時刻が迫っている。
数多くある店を探索したい誘惑に駆られながらも、改札口を通り抜け、駅前広場に急いだ。




