王はモノの行く末に、疑念、決意、野望、喜びを抱く
「うーん、うーん結局この展開になっちゃったか」
機械国の王イスタングは自国のアンドリューと中央国のアンドリューの膠着状態を見てそう言った。
彼は決してこの状況が嫌な訳ではなかった。
人間らしさというのを感じることができるからだ。
けれど、この展開になると歓談の時間を設けた意味がないな、と思うのであった。
「状況が動かないね」
中央国の王ドワールは白く長い髭を撫でながら言った。
彼が思っていることは二つある。
一つはこの戦いは勝ったな、ということである。
相手が不意打ちをする気配もないし、最終的には自国のアンドリューが相手を殺すだろうと考えているからだ。
二つ目はアンドロイドは人と変わらないのではないか、という疑念だ。
前回の代理戦争でも似たような状況があった。
というより前回は自決するものまでいた。今回はマシな方だろう。
アンドロイドが人であると認めるのはとても難しいことだ。けれども、魚の小骨が喉に刺さるような違和感を感じていた。
今戦っている二人の苦悩姿を見ると、考えざるを得なかった。
「…………」
海洋国の女王ウールシアは瞳を伏せた。
何て酷いことをしてるんだと彼女は自身を責める。
何より自分を慕ってくれている自国のアンドリューに申し訳が立たないと思った。
「(力が無くてもできることはあるはずです……)」
ウールシアが密かに決意を固めた時、銃声がモニターを通して響いた。
勝者が決定し、次の戦いが始まる合図である。
「ほう、完璧じゃないか」
魔法国の王キングストンは皺を深くしながら、笑みを浮かべた。
六回の詠唱を唱え、形の具現化も出来ている自国のアンドリューを見て思った。
今は私よりもまだ劣るかもしれないが、ゆくゆくはと考る。
しかし、少し気になることもあった。
「機械人形の性能は凄いな」
「いやいや、俺もあそこまで凄い魔法使いになれるとは思ってませんでしたよ」
「俺様のとこのも悪くはないんですがなぁ。あの魔法使いは強い」
武術国のアレクサンダーは、内心面白くなかった。
自身の昔を彷彿とさせる自国のアンドリューがやられているのだ。
それは面白くない。
国のためとかそういったのもあるが、自分自身がやられているようで気分が悪い。
しかし、彼は五人の中で一番観客として楽しんでいた。
「おォ、いいぞ! ヤッちまえ」
自国のアンドリューが強力な一撃を与え、彼はエキサイティングしていた。
「ちょっとー、もう少し静かにね、ね?」
「構わぬさ。まだ勝敗は決していない」
「魔法使いの爺さんが言うんだ! いいだろォ」
「ハハッハ、あやつと同じ所に立つか。機械人形が」
洗脳の効果があったのか知らないが今日はいい日だと笑う。
決して表沙汰にされることはないが、二人目の伝説が現れたのだ。
人間かどうか何てことは些細な問題だ。これで最高の魔法を残せるのは証明された。
もしかしたら、と思う。
七回の壁すら壊し、八回という未開の境地にも達することができるのではと。
「凄い……ですけど、これは持ちませんよ。二人共! ええ、まさかの二人同時に死亡!?
アンドリューシリーズは丈夫で、再生能力も高いですけどこれはいくらなんでも」
このままいけば、魔法国の方は自滅する。
武術国のアンドリューは獄炎の中で燃やし尽くされて、メモリーから何まで存在の全てがなくなると考えた。
「ふむ、流石にこれで武術国のが負けるのは哀れというものか。
あの炎を消してやれ」
「おいおい、いいのかよォ。言いたくはないが、あの魔法使いの勝ちだろ」
「構わぬさ。見て分かるだろ? もうあやつは生きているとはいえんよ。
ならばまだ生きている方が勝者だ。トゥール殿、手段はおありでしょう?」
「ええ、まあ。密閉された空間ですから。
でもあれを使うとなると、もうこのステージは使えないなぁ」
イスタングは嘆きながら、赤いボタンを押した。
そうすると、地獄の炎で燃え盛るステージから大量の水と泡が巻かれた。
水も泡も機械国が特別に開発したもので、炎は徐々にだが消えていった。
「これはまた酷い光景だな……」
ドワールはステージの惨状を見て言った。
建物の一部は抉れ、壁や木は焼け焦げている。
その上に泡と水が浸されているのだ。
ここで戦うとなると予測できない事態が起こるだろう。
「ご安心を。前回のステージを使えるようにしてありますので。
……はぁ、でもなんか嫌だな。息子達の聖地を汚すみたいで」
おっとそれよりも、と言いイスタングはマイクを手に取った。
「おーい、どっちか生きてる? 生きてるなら返事してして!
五分以内に返事がなければ失格だからね」
「……俺は生きてるよ。あいつの魔法はなんだったんだ」
カメラが声の方へと向き、アンドリューが映し出される。
酷い有様だ。
恐らく火傷をしていない部分はないだろう、という状態。
彼でなければ間違いなく死んでいた。
その彼ですら消火が遅れていれば死んでいただろうと思わせる姿をしていた。
「おお、君は生きてたか! っとちょアレク――――」
「よォくやった、アンドリュー!」
モニターを見ながら、アレクサンダーは愉快そうに言った。
「誰だ、アンタは」
「お前んとこの王様だァ。あの魔法を食らっても生き残るタフさ。
流石俺の愚息を倒しただけはあるッ」
「アイツのか……」
「この戦いを生き残れたら、街一つをやろう!
ガンバれよ。ガハハハハハ――――」
「返してくださいよ! まったく、まったく。
で、このステージは見ての通りもう使えないから、また椅子に座って」
「へいへい」
足を引きずりながらも彼は椅子の方へ向かっていった。
「こりゃ、椅子に着くまでに時間がかかりそう。
そういえば、アンドレイは元気ですか? ウールシア・メイクリット殿」
「……存じておりません。ですが、ご存知なのでは?」
「いやぁ、もしかしたらというのもありえますからね、一応」
モニター上に映るは武術国のアンドリュー。
勝者は彼だ。
魔法国のアンドリューは泡にまみれ死んでいるか、はたまた消えてなくなっているだろう。
宿命を決定付けられた彼らの戦いは最終局面に移る。
この戦いに救いはあるのか? それは生き残った者にしかわからない。




