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サヴァイブ 決着――アンドリューは自らの足で極みへ至る

 口の中から血が溢れ出る。

 体の至る所で痛みが走り、骨は何本も折れているだろう。

 生きているのが不思議なくらいだ。


「だが……」


 俺はまだ生きている。

 体を起こす。ただそれだけでも、痛みで頭がどうにかなりそうだ。

 視界のぼやけを感じながら何とか立ち上がった。


「ごほっごほ」


 血の塊を吐き出す。

 目論見が功を奏して、生き残りながら距離を離すことに成功した。

 奴が俺の生存に気付いて、全力で走ってこようとも二分はかかる。

 それだけの時間が稼げれば充分だ。


「極みに達する。それが唯一の手段だ」


 武術国を確実に倒すのなら、俺はまた壁を越えるしかない。

 その為に必要な物は、魔力と詠唱の邪魔をされない環境の二つが必要だ。

 魔力に関しては枯渇寸前だ。回復魔法を使う余裕はない

 つまり、もうまともに移動することはできない。


「気づいたか」


 詠唱の邪魔をされない環境は、発煙手榴弾とアレを使うしかないだろう。

 奴の最後の武器がさっきと同じような閃光弾だとしても、これで問題ない。

 始めよう、約束を果たすためにも。


生まれよ(アウェイク)


 俺は発煙手榴弾を投げ込んだあと、魔法を唱える。

 既存の魔法とは全くの別体系にある魔法、魔獣生成だ。

 魔獣生成に最も必要な物は血。足元を見る。

 これだけあれば、三体は生まれるだろう。


「…………」


 奴の叫び声が聞こえるが、今は無視だ。

 大量の血に向かってほんの少しの魔力を込める。

 ……予想通り狼のような魔獣が三体生まれた。


「いけ!」


 俺が命令すると、三体は犬のような雄叫び声を上げ走って行った。

 禁術とされている魔獣生成だが決して強くはない。

 だが、ほんの少しの足止めなら可能なはずだ。

 それに推測通りなら、これで奴は気配を正確に読み取れなくなる。


「すーっ」

 

 息を吸って、


「ふう」


 吐く。

 後は自分との戦いだ。 




 ◇




「コールがされねえ」


 俺は確かに魔法使いへ一撃入れたはずだ。

 現にあいつは遥か先で倒れている。体をピクリともさせねえし、死んでると思ったが違うのか。

 面倒だがトドメを刺しに行くか。恨むんじゃねえぞ、お前が中途半端に直撃を避けたのが原因だ。


「なに……?」


 あいつの方へ足を動かそうとしても、動かない。

 何かやりやがったか? 

 ……ちげえな、ダメージをくらい過ぎたか。体が動くのを拒否してやがる。


「ふっハハハ」


 懐かしい感覚に笑いが込出てしまった。

 流石は俺様と同じ存在だ、やるじゃねえか。

 あのドラゴンの一撃がデカかった、モロにくらってたら死んでたかもな。


「ふんッ!」


 右足に手刀を入れ、喝を入れる。

 よし、これでまだいけるな。にしても、俺の手がボロボロだ。

 日焼けってレベルじゃねえな、こりゃ。

 つうか、


「立ち上がりやがった」


 やはり生きているらしい。

 よくもまあ、あんな体で立ち上がれる。

 ……投げたのは発煙手榴弾か、使えないものを使うってことは何かがあるな。


 足に力を入れ駆け出す。

 あいつが何をしようが関係ねえ。


「俺はアンドリュー様だ」




 ◇ 




火炎(ほのおよ)……」


 奴を倒すには二つ方法がある。

 一つはさっきと同じドラゴンを生み出し、直撃させることだ。

 だが、今の俺には制御でないだろう。肉体の状態が悪過ぎる。

 ならば二つ目の方法しかない。


 静かに呟く、ほのおよ、と。

 

 制御を必要としない炎。

 それでいて、奴を焼き滅ぼせる炎。

 首を動かし、広い建物を見渡す。


火炎(ほのおよ)……」


 伝説の魔法使いMr.セブンは街を一つ焼き滅ぼしたと言う。

 ならば、この広い建物ぐらいなら簡単に焼き滅ぼせるだろう。


火炎(ほのおよ)……」


 意識がぼやけていく、奴と魔獣の声が重なり合う。

 ……一体やられたようだ、自分の魔力を感じなくなった。

 もう少し、もう少しだけ持ってくれ。


 ほのおよ、

 五回目の詠唱をした瞬間、体全体が氷漬けになったような錯覚にあった。

 いや、錯覚なのだろうか? わからない。

 ただ、分かることがある。ここで意識や詠唱やそういったものを手放すわけにはいかない。


 ほのおよ、

 六回目の詠唱。自分の最高到達点。苦しい、吐き出してしまいたい。

 だが、まだダメだ。

 もう一段階上に行かなくては……魔力を込めて、舌先を動かそうとした。

 瞬間――――

 凍ってしまったような感覚は消え、まるで地獄のマグマに体を沈めたような灼熱の熱さが体全体を包む。

 暑い、熱い、アツイ、アツイ、あつい! これは錯覚なのだろうか、わからない。

 平衡感覚のない世界で、挙句には視界が霞んでしか見えない俺には何もわからない。

 わかりたくない。


「ほ、」


 それでも前に進め。生き残るために。


「の、」

 

 生き残るため?

 そんなのはどうでもいい。生き残るなんてどうでもいい。

 今の俺にはくだらないものだ。


「お、」


 極みに到達することこそが俺の使命であり、目的だ。

 本当に? 頭の中で誰かが囁き続ける。優しさと寂しさを混ぜた声と、

 欲望にまみれた声だ。


「」


 声が出ない、なぜなら舌が焼き尽くされ、なくなったからだ。

 おわり、か。

 



 …………………………

 ………………

 ……


『夢の為に頑張ってね』


 心の底から声が聞こえてきた。

 甘く優しいレオナ姉さんの声だ。

 夢のため、か。

 そうだよな、誰かが俺を操っていたとしても、その夢に向かって歩いてきたのは確かに俺だ。

 俺は叶えたいよ、レオナ姉さん。

 俺は自分の意志で極みに到達したいと思っている! 夢見た景色に辿り着くんだ!


火炎(ほのおよ)!」


 世界が真っ赤に燃える。周囲は火で埋め尽くされ、全ての空気を奪いつくす。

 生物の存在を許さない世界が生まれた。

 

「はっハハ八ッアハハハハハハハ」


 これが極み……俺が夢見た景色だ。

 体が燃やし尽くされようが、関係ない!

 この景色を独り占めできるなら何もいらない。


「すーーー」


 体の中に灰と炎が入ってくる。

 苦しいはずなのに、とても気持ちがいい。


「ふう」


 吐く息はない。

 レオナ姉さんありがとう。幸せでした――――

 

 


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