サヴァイブ 完成されし竜は、閃光と共に散る
「いやぁ、あんがとよ。良い感じに日焼けができた」
次の試合について考えていたら、
聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
「冗談……だろ?」
武術国はまるで何もなかったかのように、平然と立っている。
俺のほんの僅かな罪悪感から作られた幻か何かだろうか。
なぜ生きている。
「いい反応だ。どうして生きている思う?
お前が言っただろ、俺様が超人だからだ」
直撃を避けた? いや、そんなはずはない。
確かに火の塊は奴を飲み込んだ。
現に服は燃えて、肌も黒く焼けている。
なぜあの状態で生きている。
「そんな言葉で納得できると思うか」
「じゃあ何だったら納得できるんだよ? 俺は小細工なんて使ってないぜ。
チッ、銃は溶けちまって使えねえか」
そう言い、あっさりとマシンガンを投げ捨てた。
……こいつには武器なんてもの必要ないだろうしな。
「化物め」
「おいおい、そりゃねえだろ。
俺達は同じ存在だ、兄弟も同然。
なのにそんなことを言うとはひでえ野郎だ」
魔獣でさえ焼き滅ぼせる魔法を喰らって人な訳が無い。
超人という言葉も生温い。化物で構わないだろう。
規格外の強さを持った相手だ。
「俺が化物なら、お前はラッキーボーイだよ」
「どこがラッキーだと言うんだ」
こいつが対戦相手じゃなければ、俺は既に勝っている。
とてもじゃないがラッキーだとは思えない。
「本来なら俺は勝っていた、お前を殴った時点でな。
だが、勝っちゃいない。俺が銃で殴ったばかりにな」
「拳じゃなく、銃で殴ったから俺は生きているとでも言うのか?」
「その通りだ。拳と銃で殴るのじゃ威力がちげえ。
鍛えてない奴を拳で殴れば一撃で殺せる自信がある」
「…………」
普通に考えたら、丈夫な銃で打撃された方がダメージも高くなると思うのだが……
俺は肩を落とす。武術国が強国だと言われるわけだ。
こんな奴がゴロゴロといるのなら、強いに決まっている。
五回の詠唱で殺しきれないなんてな。
だが、まだ手はある。
「疾風疾風」
「逃げ場なんてねえぞ」
「……逃げるつもりなんてないさ」
俺は加速魔法を唱えて、奴に急接近する。
「正気か!?」
化物といえども焦るらしい。
もう少しで射程圏内だ。奴の拳がギリギリ届かない所で、
「疾風疾風疾風疾風」
強力なかまいたちの群れを発生させる。
いくら化物じみた硬さとはいえ、怯みはするはずだ。
「クソッ、なんだこの攻撃は」
狙い通りだ。
腕をクロスしながら、防いでいる。攻撃はできまい。
俺は奴の横を通り抜け、広い場所へと体を移す。
切り札を使わせてもらおう。今の俺ならできる。
「火炎火炎……」
その身は炎。
天へと昇る炎で形作られるは、古に滅びしドラゴン。
「火炎火炎……」
「逃がすかよ!」
来たか。
俺は武術国との距離を確認したあと、動きを止めた。
腕から血飛沫をあげながら、奴は必死の形相で追いかけてくる。
速い、俺よりも速度では上のようだ。
けれど、距離は稼いだ。お前は間に合わない。
右腕を向ける。
「火炎……ッ」
痛い、だが耐えられる!
集中しろ、想像しろ。あの時見たドラゴンを思い出せ。
夕日の中で見た、逞しく、美しい、存在を!
来た。
体が冷たくなる一瞬の感覚、そしてその後に感じる右手の熱さ。
いける!
「火炎! 舞い上がれ」
俺の前方に美しく、逞しいドラゴンが空を昇っていく。
ドラゴンはいつか見たあの時の物と寸分違わない。
完成だ……。
「なんじゃ、ありゃ」
武術国は動きを止め、天井を突き破らんばかりのドラゴンを惚けた顔で見た。
いい反応だ。そして感謝しよう。
お前という強者と戦い、集中力が研ぎ澄まされたからこそ俺の魔法は成功した。
感謝の気持ちだ、ここで死んでもらおう。
「ふっ」
宙に舞うドラゴンを奴にめがけて叩き落とそうとした瞬間、
「俺様が黙ってやられるかよッ!」
奴はそう言い何かを投げつけてきた。
あれは、一体――――
「くっ」
爆発による爆風で体が吹き飛ぶ。
相手の攻撃によるものではない、自分の魔法によるものだ。
強い光のせいで、ドラゴンは制御不能になり地面に落ちたのだろう。
元から地面に落とすつもりだったから結果オーライではあるが……
「…………」
立ち上がった後、熱でボロボロになったロープを脱ぎ捨てる。
勝者のコールは今だにない。奴はまだ……生きている。
この白い爆煙のどこかに存在しているんだ。
「疾風疾風」
勝手に消滅してしまった加速魔法をかけ直す。
六回の魔法を唱えたせいで、魔力にはもう余裕がない。
次がラストチャンスか。
とりあえず爆煙がないところまで行こう。この状況は不利だ。
「この匂いは」
体を動かしながら、いつか嗅いだ匂いの元を辿る。
俺の右手は焼け爛れていた。前回と何も変わっていない。
痛みもないこの症状一体どうして。魔法に間違いがあったとは思えない。
回復魔法を使うか? いや、俺が下手なせいもあって回復魔法は消費が激しすぎる。
だけどこのまま放置しておくのもな、と考えていた時、
斜め右から爆煙を割いて、奴が出てきた。
「不味い……っ」
俺は急いで方向転換をする。
が、相手は今の俺よりも速い。くっ、消費が気になるが加速するしか……!
「疾風疾風疾風」
移動したまま、加速魔法をかけ直す。
「俺の体をここまでボロボロにするとはな……
ただじゃあ逃がさねえ」
「なにっ」
俺が更なる加速をしたのと同じように、奴もまた加速した。
信じられない、とことん常識外な存在だ。
このままだと追いつかれて、背中から一撃をモロに受けかねない。
そうすれば間違いなく死ぬ。
「仕方がないか」
移動方向はそのままに、俺は奴に体を向けた。
そして短剣を取り出す。
「疾風疾風」
その短剣に鋭い風を纏わせる。
これでいくらかマシになるはずだ。
「ほう、真っ向勝負か……面白れぇ!
来いよ、魔法使い!」
「ふんっ」
言われずとも。
俺は短剣を縦に振りかざす。
「おせえよ!」
「……っち!」
当たらない。
奴が攻撃する前に、もう一度振るう。
……当たらない。
「ふっ」
振る、振る、振る。
当たらない。風圧で奴の皮膚が少し裂けはするが、直撃しない。
力量に差がありすぎるのか。
「捉えたぞ!
悪くはなかったが、ここまでだ兄弟ッ」
信じられない速度で右の拳が繰り出される。
その拳の行き着く先は俺の胸だ、避けられない。
体の防衛本能で短剣を盾のようにかざす。
が、短剣は打ち砕かれ、そこで俺の目の前は暗く沈んだ。
終わらせたかった…!
深夜に短いのを更新します。




