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認めよう、私達はアンドロイドだ。この右腕も心臓も全ては機械でできている。

完結まで、毎日更新します(願望)

 エミリーはさ、もし俺がロボットだって言ったら信じられるか?




「……」 「……」 「……」

    「……」

 

 みんな無言だった。当然の結果だと思う。

 拘束具を外された俺達は、二時間だけ時間を与えられた。

 何故時間を与えられのか。そして、この時間をどう使えばいいのかもわからない。

 銀髪のお爺さん――機械国の王様が言うには、歓談の時間らしいが、何を話せと言うのか。

 これから殺し合うかもしれない人達と……

 

 俺は天井を見た。空は見えない。

 自分が混乱しているのはわかっている。けど仕方がないと思う。

 いきなり知らない場所に連れて来られて、息子とか殺し合えとか、挙句には俺達がロボットだなんて言ってた。

 そんなわけないだろう。ご飯だって食べるし、睡眠も取る、それに、そのエッチなことだって興味がある。

 それにロボット――――アンドロイドなら、電気を摂取する必要があるはずだ。感情だって、あるもんか。


 俺が大木に寄りかかりながら、モヤモヤとした感情と付き合っていると、一人が口を開いた。


「いきなりこんな事を言うのもあれなんだが、臭くねえか?」


 腹の辺りに大きなポケットが付いている作業服を着た彼が、床に座り込みながらそう言った。

 声からして、さっき機械国の王様に抗議してた人だろうか。


「ご、ごめんなさい。目が覚めた時に気持ちが悪くて吐いちゃったんです」 


 床に座る二人と、俺と同じように木に寄りかかってる人に頭を下げて謝った。


「ああ、まあ仕方がねえだろ。こんな状況じゃ吐きたくもなるさ。おれも頭が痛いしな」


 苦笑いしながら、作業服の彼は慰めてくれた。いい人だ。

 床に座っている筋肉さんと、木に寄りかかっている黒いロープを纏った人は、何も言わず周囲を見回していた。

 怒ってないといいなぁ。


 会話がなくなり、また静かな状況に逆戻りしてしまった。

 何か話しかけた方がいいんだろうか、でもこれから殺し合いをするかもしれない人達と何を話せば……

 迷っていると、筋肉さんが床から立ち上がり壁の方へ向かっていった。

 あ、身長は一緒ぐらいなんだなって、そんなことを考えてる場合じゃない。


「ちょっ、ちょっとどこ行くんですか!?」


 筋肉さんに勇気を振り絞って声を掛けた。

 

「待ってろ。悪いようにはしねえよ」


 こちらを振り返らず、ゆっくりと歩きながら返事をした。

 何をする気だろう。って早! ちょっと前まで歩いてたのに、今は凄い速度で走ってる。

 どうなってんじゃ、こりゃ。


 数分もしない内に、壁まで到達してしまった。

 俺があの壁まで着くのに何分かかるんだろう。全力で走っても十分はかかりそうだ。


「……加速魔法を使ったのか?」


 頭までロープを被った人から、声が聞こえてきた。

 加速魔法? もしかして魔法使いなんだろうか。見た目の雰囲気も魔法使いっぽいし。

 というか初めて魔法使いさんの声を聞いたな。どこかで聞いたような声だ。


 俺が魔法使いさんに視線を向けている間に、筋肉さんはタメのようなポーズを壁に向かってしていた。

 重心を低くして、拳を引く、えっもしかして壁を殴る気か? ……ありえる。

 目的は一つしかない、壁を壊してここから出る気だ。

 まさか、と思いながらも、期待を込めて筋肉さんを見た。あの頑丈な拘束具を壊せそうだったんだ、もしかしたら……!


 拳を壁にめり込ませるように押し付けた。

 その瞬間、壁が崩れるような音がした。


「おいおい、まさか壁を壊せちまったのか?」


 作業服さんも驚いていた。本当に壊せたのだろうか?

 もし壊せたのなら出られるかもしれない。筋肉さんが殴った壁をじっと見つめた。




 結果は、ダメだった。外には出られそうにないみたいだ。

 いや、正確に言うなら壁は壊せていた。一枚だけ。全ての壁が壊れたわけじゃない。

 筋肉さんの話だと、拳によって壊れた壁の先にはまた壁があったらしい。

 その壁も壊せばいいんじゃ? と聞くと、殴った感覚からして、まだ何十枚もあって無理だとのこと。

 武術国の人でも無理なことってあるんだな。少し親近感……ないな。そもそも俺じゃ壁一枚すら壊せない。


 俺達三人は高そうな石でできた床に座り込んでいた。

 魔法使いさんだけ、今だに立ちっぱなしだ。疲れないのだろうか?


「あの、一緒に座りませんか?」


 声を掛けてみた。

 何故だかこの人には親近感を感じる。魔法を知っているからかな。


「気にしなくていい。敵がいつ襲って来るかもわからないし」


 断られてしまった。

 というか魔法使いさんの言う通りか。襲ってきた人達の意図が正確にはわかっていない。

 殺し合いをしろ、というのも俺達を惑わすためかもしれない。

 と考えていると、


「いきなり襲うってことはないと思うぞ。王様の目的がハッキリしているしな」

 

 作業服の人が断言するかのように言う。

 この人がおそらく一番この状況を理解するためのヒントを知っている。

 早速話を聞いてみたいけど、その前に確かめないといけないことがある。

 聞くのは正直恐いけど、聞かなければならないことだろう。

 自分の過去を知るためにも。


「みんなで情報交換をしましょう! 状況が掴めるかもしれないですし。

 あっでもその前に自己紹介をしませんか?

 俺の名前は、アンドリュー・C・ロイド! 年齢は多分十七ぐらい! 出身国も多分だけど、中央国!

 仕事は冒険者かな。護衛の仕事くらいしかしたことないけど、ははは」


 俺は立ち上がり、なるべく明るい挨拶をした。

 予想される事態で、みんなが暗くならないためにも。


「ハッハッハ、多分多分ってなんだよ。もしかして“記憶喪失”だったりするのか? 

 しかも俺とほぼ同じ名前じゃねえか。被るもんだなァ、ええ」


 隣で座っている筋肉さんは、大きく口を開けるながら笑っていた。

 が、作業服の人と魔法使いさんは名前を聞いた時肩がぴくっと揺れた。

 そしてその後、記憶喪失という言葉を聞いて、顔をこわばらせていた。

 予想は当たってしまうらしい。俺は、俺達は……


「あの、続けて自己紹介して貰っていいですか?」


 俺は丁寧な口調で、筋肉さん――もとい“アンドリュー”にお願いをした。


「普段なら男に自己紹介なんてしねえが、今は機嫌がいい。してやるよ」


 そういい、彼は立ち上がった。

 近くで立たれると、凄い存在感だ。彼も俺と同じ存在だというのは、信じがたい。

 

「俺の名前は、アンドリュー・M・A・ロイド様だ。

 年齢はわからん! 周りは俺を若いと思ってるようだがな。

 出身国は武術国だ。で、仕事はなんだろうな、冒険者ってとこか。好きなことは酒と女に、戦いだ」


 力強い自己紹介だなぁ。それにしても、イメージ通りの内容だ。

 色々と聞きたいことがあるけど、後にしよう。

 優先するべきことが他にある。歓談の時間はもう半分くらいしかない。


「じゃあ、次は君にお願いしていいかな?」


 作業服の人に声をかけた。

 顔の色は青ざめているような気がする。それでいて、どこか諦めているような表情をしていた。

 ……今の俺はどんな表情をしているのだろう。

 

「ちょっと話しにくいが、わかった。答え合わせをする必要があるみたいだしな」


 筋肉さんの方をチラリと見たあと、作業服の人も立ち上がった。

 この人もおそらく“アンドリュー”だろう。

 ぼさっとした髪を軽く触ったあと、


「おれの名前は、アンドリュー・M・ロイドだ。年齢はどうだろうな、正確なのはわからない。

 まあ、皆と同年代だ。出身国は機械国。……これは全員そうだと思う。

 で、仕事は修理屋。好きなことは機械を弄ることだな」


 作業服さんは、冷静に自己紹介を終えた。

 表情は依然として良くないけど、もう状況を受け入れられたのだろうか。


「全員そうだと思うって、どういうことだ? おい」

「それはまた後で聞きましょう! とりあえずみんなの自己紹介をしちゃいましょ!」


 筋肉さんをなだめながら、魔法使いの“アンドリュー”に顔を向ける。

 魔法使いのアンドリューだと、自分もそうか。ははっ! ……


「あまり自己紹介は得意じゃない。だから、手短にさせてもらう」


 大木に持たれかかるのをやめ、俺達の方に少し近寄った。

 そして、頭まで被っていたロープをゆっくりと時間をかけ首の方まで下ろした。

 ……似ている、とても。


「俺の名前は、アンドリュー・コパーフィールド。

 だが、察しの通り、二つ目の苗字だ。恐らく最初にあった名前は、アンドリュー・W・ロイド。

 年齢はわからない。出身国は、魔法国だ。自分が認識してる範囲では」


 彼はどこか悲しむように、こんな所でわかってしまうなんて、と呟いた。

 どういう意味だろう。だが、これでわかった。

 

 三人の顔を見る。乾いた黒髪に、黒みがかった茶色の目、身長も同じくらい。

 肉体的特徴まで似通っている。筋肉さんも、決してその部分は例外ではなかった。

 もう間違いないだろう、否定できない。背けられない。

 俺はお腹に溜まった空気を吐き出した後、口を開いた。


「王様の言っていたことは、真実です」


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