脱出不可能――希望を信じて
「あー信じらんねえ。俺が人じゃなくて、アンドロイド?
しかもお前らと同じパーツで作られたってのかよ。
そんな話し、絵本ですら読んだことねえよ」
髪を荒っぽく掻き毟りながら、筋肉さんは言った。
絵本、読むんですねとか言いたいけど、言えない。さっきは本当に怖かった。
胸元を掴まれて、怖いことを言われ、終いには殴られそうになった。
作業服さんが止めてくれなければ、死んでいただろう。やっぱりいい人だな、あの人。
そんなあの人が、筋肉さんに説明し始めた。
「体のパーツが似すぎている、顔付きから目の色に、身長の高さ。
筋肉のつき方は随分と違うが、それはまあ置いておこう。
他にも似ている部分がある。アルコールが苦手な所に、強めの低血圧。
何よりだ、“三年前より前の記憶がない”というのはどう考えてもおかしい。
四人全員だぞ? そう、考えるしかないだろう。おれ達は同一工程で作られたアンドロイドだ」
作業服さんの言葉に俺は頷いた。
みんな揃いも揃って記憶がなくなってるなんておかしい。
筋肉さんが落ち着いたあと、互いの共通点を出しあい、一番の違和感を感じたのはそこだ。
記憶がなくなっているだけなら、同じ事件に巻き込まれていたって可能性もありえるけどなぁ。
容姿がここまで似てるとなると、自分達はアンドロイドじゃないかと思ってしまう。
筋肉さんだって、よく見てみると似ているのだ。筋肉以外。
「俺は三年前かどうかなんて……
いや、わかったよ。とりあえず俺達はアンドロイドってことにしとくよ」
筋肉さんは溜息を吐きながら、眉を寄せた。
とりあえずは納得してくれたようだ。
でも、俺自身まだ納得できてないことがある。聞いてるみるか。
「機械国のアンドリューさん、聞きたいことがあるんです。
アンドロイドって、人に似たロボットなのはわかります。ですけど、機械には違いないですよね。
それだったら、電気を摂取する必要があるんじゃないですか? あと感情もこんなにあるもの、なんですかね」
「大丈夫なんだろうな。
実は家にアンドロイドがいるんだが、飯とかでも充電、エネルギーを摂取ことができるみたいだ。
感情についても、俺が見てた限り人間と変わらないように感じる」
「ん? 家にアンドロイドいるんですか。もしかして機械の国だと、普及してたり……?」
それだったら、少しだけ、少しだけ、安心ができる。
けど、彼は首を横に振った。
「普及はしてねえ。家はたまたま運が良くてな。
……考えてみりゃそうだよな。一企業が作れて、国が作れないわけないか」
後半の方は独り言のように言った。
残念だ。ここは考えを変えて、希少価値のある存在だと考えしかない!
って普段ならできるんだけど、流石に今回のは辛いよ……
「で、どうする?」
魔法使いさんが腕を組みながら静かに聞いてきた。
どうする、か。
「とにかく脱出しましょう!」
殺し合いが始まる前に。
俺達がロボットという話が本当なら、殺し合いの話だって冗談じゃないはずだ。
「脱出するったってどうすんだ? 俺の拳は役に立たねえぞ」
「俺も手持ちはスパナぐらいで、役に立ちそうなのはないな。せめて出口がわかればな」
そう、この建物には出口らしき物がない。
どの部分も同じ銀色の壁が周囲を覆ってるだけだ。凸凹がなくて、違いなんてあるとは思えない。
無い出口を考えても仕方ないか。自分の持ち物を確認する。
時計ぐらいしかない、うーん。
リュックサックがなくなったのは痛い。あれには色々と道具が入れてあった。
ナイフやリボルバーも没収されちゃったみたいだしな。仮にあっても壁を壊すことはできなさそうだけど。
着ている長袖のシャツやジーパンが役に立ったりは、しないか。
「すみません、俺も役に立ちそうな物はないです」
ここに俺達を入れることができたってことは、出ることも可能だと思うんだけどな。
その方法がさっぱりわからない。
時間はあと三十分ぐらいか……何か方法はないのか? このままだと不味い。
俺達が頭を悩ませていると、
「何も方法が思いついていないなら、魔法を試してみたい。いいか?」
「大丈夫ですよ! お願いします。いい方法が思い浮かばなくて……」
俺はたいした魔法を使えないが、魔法国にいた彼なら凄い魔法が使えるかもしれない。
リセリアさんのような魔法なら……!
「お前、魔法使いなのか。何度か魔法使いと戦ったことがあるけどよ、どいつもこいつもショボかったぞ。
とてもあの壁を破壊できるとは思えねえな」
「…………それは、どうかな」
筋肉さんの言葉に、魔法使いさんは静かに、だが力強く否定した。
なんか恰好いい! って元は同じなんだから、褒めるとナルシスト?
というか、筋肉さん魔法使いとも戦ったことあるのか。経験が豊富すぎる。
「すぅー、はぁ」
馬鹿な事を考えている内に、魔法使いさんは息を整えていた。
「皆、念の為に俺の後ろへ」
「了解です」「期待してるぞ」「見ものだな。つうか後ろに行く理由あるのか?」
返事はなかった。
魔法使いさんは右腕を肩の位置まであげた。
向いてる方向は、さっき筋肉さんが殴りつけた壁の方だ。
「火炎火炎……」
自分はここまでなら唱える事ができる。
だけど、彼はもっと先にいくつもりだ。
「火炎火炎……」
大きな魔力を身近で感じてるせいだろうか?
彼がほのおよ、と唱える度に自分の感情が高ぶっていく。
「火炎 壁を破壊し尽くせ」
すごい……
魔法使いさんの目の前から、炎を纏った大きなドラゴンが出てきた。
リセリアさんが見せてくれたものに似ている。しかもそれより大きい!
これならやれるんじゃないか。
「凄いな、これは。科学を超えたものがまだ存在してるんだな……」「今までのもんはチャッカマンか何かかよ。これが、魔法か」
二人共、感嘆するかのような声を出していた。
俺もそうだ。魔法を使っているからこそ、余計にその凄さを感じる。
自分の魔法とは、魔力の密度がまるで違う。
ベイルにも見せてあげたい。これがドラゴンだ。
ドラゴンは上空まで昇り、一度大きく回っ後、壁へ一直線に突っ込んでいた。
直後、耳がおかしくなりそうな爆発音がこの建物全体に響く。
壁の辺りは煙に包まれて、何も見えない。
「こりゃ、やれたんじゃないか」
筋肉さんが、低い声で言った。
「ですね!」
俺は首を縦に振りながら、同意した。
煙がもう消えるという所で、魔法使いさんが、ダメだと言った。
「あれでダメってことはないんじゃないか?」
作業服さんが魔法使いさんに顔を向けていった。
「…………途中で何か障壁的な物で阻まれた。失敗だ」
こちらには顔を向けず、首を横に振りながら、俺達にそう告げた。
実際その通りだった。
壁はかなり奥深くまで抉られているのに、外は見えていない。
「魔法が消えちゃったんですか? その障壁とかで」
「多分な。あの感触、どこかで……」
魔法使いさんは口元に手を置きながら、何か喋っていた。
小さくて何を言っているのかわからない。
慰めの声を掛けようとした所で――――
――――テレビに機械国の王様が映った。
「テステス、聞こえてる? 聞こえてるよね。君達のやってることは無駄。全くの無駄。
時間と筋繊維と魔力の無駄遣い。いや、個人的には褒めてあげたいんだけどね?
協力して、困難を乗り越える。素晴らしい。実に人間的だ。
……これならいいでしょ? ドワール・オーダー殿」
外見にそぐわない、甲高い声が俺の耳を刺激してくる。
ドワール・オーダー、さっきも聞いた名前だ。
確か中央国の王様だったはず。自分の国の王様まで関わっているなんて。
この分だと、五ヵ国全ての王様が関わっているんじゃないか?
それにしても、中央国の王様は人格者なはずだ。そんな人がどうしてこんなことを……
「おっとっと、失礼。話を戻そう。僕達からしたら、殺し合いをさせるのが目的なわけ。
その目的を阻む脱出なんてさせるわけないでしょ。対策だってしてますよ、そりゃ。
今回のシリーズから、魔法を使える……っと、これは言う必要ないね。
ま、脱出なんて無理だから諦めて、他のことに時間を使いなさい。息子達よ。
後悔しながら死ぬのは辛いらしいよ? 遺せるものは、遺しときなって。一人は生き残れるんだから。
じゃあね、愛してるよ」
言いたいことだけ言って、テレビは色を失くした。
殺し合いは避けられないのだろうか。
「あのクソ野郎! ここを出たらただじゃおかねえ」
筋肉さんは怒りながら、テレビを睨みつけていた。
俺も素直には許せそうにない。だけど、今はここを脱出することを考えないと。
脱出できないと、俺は●を殺さなくちゃ――――
頭を振る。馬鹿なことを考るな、アンドリュー!
みんなでここを脱出するんだ。
あっ、もし脱出できたら、魔法使いさんにアイスを作る魔法が使えないか聞いてみよう。
使えたら、エミリーやアレスさんの為に作ってもらおう。喜ぶだろうな、二人!
「くっ」
…………わかってる。わかっているんだ。そんなのありえないって。
みんなが揃ってここを出るなんてことはできない。
ここを脱出する手段がないのだから。
魔法使いさんの魔法や筋肉さんの渾身の一撃でも全てを破壊しきれなかった壁だ。
全ての壁を時間内に壊すのは現実的じゃない。
どうすればいいんだ。仲良くなれるはずの人達と殺し合いなんてしたくない。
俺が視線を床に下ろしていると、
「みんなに話したいことがあるんだ」
作業服さんの声が聞こえた。何かを決意したような声だ。
俺は視線を上げた。そこに救いがあると信じて。




