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香月  作者: keisei1
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合格発表 2

 一方その一週間後、県立高校の合格発表を迎えた香月達。付き添いの美穂を含めた五人は緊張した面持ちで高校の門扉をくぐる。


 慎重な心持ちで味わうように、合否を確かめたかった夏樹、朱美、桜だったが、香月が自分のことそっちのけで彼女達三人の合否を、駆け足で確かめに行く。


 次々と明らかになっていく合否。まず香月は夏樹とがっちり握手を交わす。夏樹は得意げだ。幾ら勉強が出来ると言っても、若干気圧されるものは感じていたのだろう。


 夏樹はプレッシャーから解放されたかのように香月に伝える。



「やりましたよ。香月さん」


「おめでとうございます。夏樹さん」



 香月はそう返し、二人は弛緩しきった表情を浮かべると、零れる笑みを隠しきれない。朱美は朱美で自分の受験番号を見つけると小さな声で呟く。



「あ。あった」



 香月は、素朴な反応の朱美に肩から抱きつく。



「おめでとう。朱美」


「ありがとう。香月」



 香月のオーバーアクトに朱美は照れくさげだ。朱美も高橋や香月の存在なくしては、良好な学園生活を送れなかったかもしれない。それは朱美は自覚しているのか、彼女は軽く香月に頭を下げる。



「どうも」



 香月は頭を下げられて戸惑うしかない。



「ど、どうしたの? 朱美」



 そして最後の牙城、秀才度においては、香月達の中で一番抜きんでていると思われる桜は、震える手で合否を確認し、香月の方を見て笑顔を見せる。



「香月さん!」


「完璧な出来栄えでございました。桜さん」



 香月がそうお辞儀をすると二人は両手を握り合い、飛び跳ねて喜んだ。付き添いの美穂が、喜ぶ四人を眺めてふと気が付いたように促す。



「香月は? 自分のはまだチェックしてないんでしょ?」


「あっ。そうだった」



 香月は頭を掻いて恥ずかしそうだ。いよいよ香月の合否が分かる瞬間。元旦。中学生活最後の一年間で数々のミラクルを起こしてきた元旦。


 迷える子羊を誘う預言者のように、夏樹達に「祝福」を与えてきた元旦。その元旦娘の命運が今日決まる。


 香月は一度、自分の受験番号を確かめると一つ小さな息を吐いて、合格発表のボードを見据える。


 一瞬の緊張、一瞬の静寂。長い沈黙。香月が喜びを露わにしようとした瞬間、香月に先んじて、夏樹、朱美、桜、美穂が彼女に肩から抱き付いていた。


 香月は見事志望校に合格したのだ。喜びの余りハイタッチを繰り返し、もみくちゃにされる香月。彼女の顔はほころんで今にも崩れそうだ。


 歓喜の輪から何とか抜け出した香月は静かに青空に昇った太陽を仰ぎ見る。彼女は大きく深呼吸をしてこう口にするのだった。



「やったね。みんな。本当に良かった」



 後日香月達の合否を聞いた高橋は、それは相好を崩して、笑顔一杯だったという。「牛に引かれて善光寺参り」。香月の手によって様々な葛藤を克服した夏樹達や俊哉、健だったが、影の功労者は高橋であったかもしれない。


 その事実、殊勲を知ってか知らずか、高橋は職員室で少し伸びた顎鬚に手をやると、窓の外を穏やかに眺めるのみだった。窓の外はうららかな陽気で、穏やかな陽射しが射していた。

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