食欲の秋 3
その頃、高橋は墓前で父の墓参りを続けていた。高橋は穏やかな表情で暮石に向かい合う。
「管理、管理で厳しい教師だった。生徒にも。そして俺にも。放任には決してしなかったね」
「放任」を「管理」と照らし合わせて置いた彼の胸中はいかほどか。高橋は両手を叩いて祈るともう一度口にする。
「でもそれでは子供は育たないんだよ? 父さん」
その言葉を最後に静かに霊園を後にする高橋。物想いと夢想に十分に耽った高橋のあとには温もりのある秋風が静かに吹き抜けていた。
車に乗り込んだ高橋は、帰路とある店に立ち寄る。空腹を満たすためだろうか。そこは偶然にも香月達が「お好み焼き食い倒れ対決」を繰り広げる「美寿々堂」だった。
高橋は、店内に入ると同時に物凄い勢いでお好み焼きを食べる香月達を目にする。
美穂が真っ先に高橋に気が付いたのか、彼に話し掛ける。美穂は既にお好み焼き二枚を食べ終えてリタイアしていた。ほどよい満腹感で美穂は満たされているようだ。
「あら、先生」
「よぉ。どうした? みんなして。にしても何か凄い量だな。何やってるんだ? 一体」
朱美は「美寿々堂」の出前のチラシで紙飛行機を折って遊んでいる。朱美も一枚半で脱落していた。彼女は事情を明かす。
「お好み焼き食い倒れ対決をしてるんですよ」
「食い倒れ対決。なんだそれ?」
美穂が身振りを交えて趣旨を説明すると、高橋は呆れる。
「まぁ、別に誰に迷惑掛けるというわけでもないし。ただ程々にな」
「私達は程々にしました」
そう言って美穂は白い鉢巻きを解いた。その間も桜は黙々とお好み焼きを食べ続けている。
高橋がお好み焼きの並を注文すると食い倒れ対決はいよいよ佳境に入る。
「ダ、ダメだ。もうおながいっばい」
夏樹が三枚目で脱落し、いよいよ香月と俊哉の一騎打ちになったのだ。最後の胃袋の力を振り絞りお好み焼きを口に運んでいく俊哉。
しかし彼は四枚目も終わりに差し掛かったところでこう呻いて絶命する。
「栄光や、程遠し。無念」
俊哉の辞世の言葉を後押しに、香月は四枚半を見事平らげ、勝利したのだった。両腕でガッツボースを作る香月。
「よっしゃあ! 大勝利!」
両腕をあげて高らかに勝利宣言する香月。彼女、元旦は勝った。そのはずだった。
しかし、だがしかし恐るべきダークホースがまだ潜んでいた。それは意外にも桜だった。
桜はゆったりとしたペースでお好み焼きを食し続け、五枚のお好み焼きを平らげる。「美寿々堂」の店長の「お見事」の一言とともに幕を下ろす食い倒れ対決。香月は零す。
「嘘でしょ? 桜」
元旦、敗れる。こうしてお好み焼き食い倒れ対決の軍配は、秋に花咲く桜にあがったのである。
会計の時に香月は涙ながらに財布からお金を出す。
「えーん。悲しいよう」
今日だけはやや陽の傾いた元旦を高橋はこう諭す。
「始めた以上、ルールはルール。従わなくちゃな」
「はい~。先生」
香月はそう泣く泣く返すだけだった。「痩せの大食い」。胃の位置が人より少し下にあるがため、もしくは熱としてエネルギーが大量に消化されるために出来る体質。ほっそりとして小柄の桜を見て美穂は舌を巻く。
「痩せの大食い。ホントに身近にいるのね」
桜は桜で驚く周囲を意に関せず、思いきり背伸びをしてこう口にするのだった。
「あー! 美味しかった」




