食欲の秋 2
食い倒れ対決当日。香月達に加えて俊哉の六人は「美寿々堂」に現地集合をしていた。「美寿々堂」。店の構えは古いが、清潔感で溢れ、いかにも品のいい老舗という趣きを漂わせている。
「美寿々堂」の看板を仰ぎ見て、香月は意気込むと袖をまくる。
「さぁ! 勝負ね」
美穂もいよいよ勝負全開モードに入ったのか、白い鉢巻きを頭に巻くと青い空を仰ぎ見る。透き通る空。それはまるで香月達の空かしに空かしたお腹の中を表わしてもいるようだ。
やがて全員準備が整い、一つ大きく息を吸って六人は「美寿々堂」へと入っていく。
ひんやりとした墓石が立ち並ぶ墓場。供え物や花などがあちこちに散見出来るその場所で、一人墓参りをしている男がいた。高橋だ。彼は墓石の前に立つと、今はいない父に優しく語りかける。今日は高橋の父の命日だった。
高橋は供え物をすると、墓石に水をやり、手を合わせる。彼の瞳は郷愁で満ちている。
「親父、あんたはいい教師ではなかったね」
涼しげな風が吹き抜け、決して良好だったとはいえない高橋とその父との距離を埋めるように、高橋の肌を撫でていく。高橋は心地よさそうに自分の右腕に触れると、もう一度墓石に水をやった。
所変わって美寿々堂。お好み焼き食べ放題を注文した香月達は、いよいよ勝負に取り掛かっていた。
お店の主人も強力な敵が現れたと踏んだのか、お好み焼きを作る手を武者震いさせている。一枚また一枚とお好み焼きが焼き上がると、いよいよ香月達は獲物に食らいついた。
勢いづいて食べ始める香月と夏樹、そして俊哉。美穂と朱美、桜は特段、勝負の行方には興味がないのか、マイペースで箸を進めている。
夏樹は、夏樹に向こうを張った香月を挑発するように吠えてみせる。
「香月、『ブラックホール』と呼ばれる私の胃袋に挑もうなんていい度胸ね」
「何の! 私の胃袋だって『天の川』なのだ」
さすが元旦。勝負事も一先ず休憩してしまう祝祭の日。挑発されても、売り言葉に買い言葉が、程よく思い浮かばないらしい。香月のよく分からない例えを聞
いて美穂達三人は思わず吹き出していた。
一方男性陣唯一の参加者の俊哉も負けてはいない。吠えるように怪気炎を上げる。
「俺が寄った食堂にはもやし一本残らないと言われているんだ」
もやし一本残らない。何の自慢か分からぬが、その意気込みだけは凄まじい。俊哉に触発されて、夏樹も勢いづく。
「上等! 勝負!」
夏樹はそう応じると、彼女の魅力の一つ、長い髪を結って、俊哉と香月の挑戦を受けて立つ。
勝負魂全開の白鉢巻きをした美穂ではあったが、あくまでお好み焼きを一口一口味わって食べる所存のようだ。ゆったりとしたペースで箸を動かし、彼女は呟く。
「誰が勝つのやら」
桜は桜で微笑を浮かべて、完全マイペースのスロースターターでお好み焼きを味わっていた。




