意見書 5
一方職員室を出て、一息ついた香月達は状況をまとめていく。決して香月達、生徒には有利とは言えないことを把握する彼女達。だからこそ夏樹が意気込む。
「『同意してる先生も多い』って、それっていわゆる『多数派』って奴ね」
意外と落ち着いて、物事を整理している夏樹を見て、美穂は少し安心げだ。彼女は彼女なりに「これから」を予想する。
「そうね。高橋先生一人の助けではどうにもならないかも」
朱美も美穂と同意見のようだ。二人はやたらとウマが合う。美穂は陸上、朱美は絵とそれぞれ一人熱中するものを持っているゆえか。朱美は美穂の言葉を引き継ぐ。
「『数』の力っていうのもあるしね」
「数の力」。その厳然とした言葉のパワーを前にして、夏樹はますます奮い立つ。
「『数』の力で勝負って言うんなら、こっちも負けてないわよ。生徒達の力を思い知らされてやるんだから」
香月は日本晴れの朗らかさゆえか、「数の力」という言葉には特段敏感に反応することもなく、夏樹の意向を訊く。
「どうするの? 夏樹」
香月の天晴れな気質を前に、夏樹は若干怯むも力強く答える。
「決まってるじゃない。私達の『意見書』に賛成してくれる署名を集めるのよ」
署名という言葉を聞いて、たまらずに朱美が話に割って入る。
「そんな大げさなことしていいの?」
夏樹は大きく、オーバーアクトに手を広げてみせる。
「だってそうでもしなきゃ分かってくれないかもよ」
美穂が、元々はこの計画に余り乗り気ではなかった美穂が、その勝負魂に火がついたのか、夏樹の提案に乗る。
「そうね。ちょっと度胸いるけど、それくらいしないと先生達動いてくれないかも」
夏樹は、意外な助け舟でとても嬉しそうに、美穂に目配せする。
「ねっ。そうでしょ。美穂」
美穂は冷静に応じる。
「うん」
いつもは「暴走」と「制止」の間柄にある、夏樹と美穂が手を結んだのを見て、朱美は香月と桜にもその想いを訊く。
「香月と桜はどうするの? 私はちょっと悩んでる」
香月は、初日の出が、背中越しに見える後光のように射し、窓の外の青空を見据える。
「うん。私も協力する。どうなるかわからないけど」
桜も香月の気持ちを聞いて安心したようだ。
「私もやります。何事もやってみないと」
香月と桜の意見を耳にした朱美も、ようやく自分の方針を決めたらしい。
「よし、仕方ない。私も協力しますか」
夏樹はある種、宿敵でもある朱美の同意が得られたことを手放しで喜ぶ。
「やったね」
こうして夏樹の、その掛け声を契機にすると、香月達の署名活動が始まったのだった。




