意見書 4
それから数日間、夏樹達は「意見書合宿」と称して、夏樹の家に集まり、意見書の推敲、添削を続けた。香月達が、完成した意見書を職員室で高橋に手渡したのは意見書を書き始めて五日後のことだ。
白い封書に入れられた意見書を、封から取り出し、高橋は一瞥する。
「『意見書』」
夏樹が勢いに任せて、想いの丈をぶちまける。
「はい。加賀先生の『規制』とか『管理』は余りにも厳しすぎます。あれじゃ生徒の自主性が育たないと思います」
香月は、夏樹の言う文言の狙いの七十パーセントは分からなかったが、夏樹の勢いに後押しされて自分の趣味嗜好も口にする。
「そうです。先生。あれじゃあ自由も何もないです。舞妓さんにも会えないし」
「舞妓」というキーワードをせっかちに口に出してしまった香月を、少し軌道修正しようと、美穂が笑って落ち着かせる。
「香月」
夏樹は、香月と美穂のやり取りには興味がない。彼女の頭にあるのは、ひたすら「打倒・加賀」だった。夏樹は高橋に念を押す。
「とにかく、私達は今の修学旅行要項には従えません。『ボイコット』も検討しています」
高橋は、ボイコットという大げさな言葉が出てきたのを耳にして、やや困ったように頭を掻く。
「『ボイコット』ねぇ」
高橋はボイコットというアイデア自体には、賛成し兼ねているようだったが、香月達の意向、想いを最大限汲み取ろうという意思に溢れている。
「で、どうしたいんだ。みんなは。自主性とか自由を求めるのはいいが、好き放題何でもやっていいってわけじゃないぞ」
いつも香月達の全面的な理解者である高橋から、少し窘められて、夏樹は言葉にややつっかえる。だが力を込めて握り拳を作る。
「それは。意見書の中身を見てもらえれば分かると思います」
香月は、緊迫したやり取りが行われていることに、元旦のめでたさゆえか気づかずに、無邪気に口にする
「そうです。作るのにみんなで4日もかけたんですから」
夏樹は自信を持って両手を広げてみせる。
「そうですよ! 先生!」
高橋は熱気に満ちた香月達とは裏腹に、少し冷静で淡々とした様子で、意見書の中身にさらりと目を通す。その様子からして、どうやら高橋は香月達に手を貸すつもりのようだ。
「うん。たしかによく出来てる。分かった。みんなを助けるよ。ただ」
『ただ?』
香月達が声を揃えると、高橋は答える。
「俺一人の力ではどうにもならないかもしれないぞ。あの要項に同意してる先生方は多いんだ」
夏樹は「うっ」と一瞬勢いを削がれて、香月達自体も沈黙した。高橋は「それでも!」と引く気配のない香月達を見て、話を纏める。
「とにかく、校長先生には俺が請け合ってみよう。校長先生も理解のない方ではないから」
一筋の光明を見出した香月達は頭を下げる。元旦にはやはり日本晴れがよく似合う。
『ありがとうございます!』
香月達はひとしきり、高橋に礼をしたあと、職員室を出ていく。一人職員室に残った高橋は、意見書の中身を改めて読み返す。
そこには「行動・言動の自由」「修学旅行の意味」などと名付けられた項目が十数個に渡って書かれている。
高橋は関心して目を細める。
「良く出来てるなぁ。頑張ったんだな。あの子達」
香月達の頑張りに心動かされたのか、それとも元々高橋も、加賀いうところの「規制」と「管理」には反対だったのか、高橋は早速、彼女達の意見書に添える「同意書」を書き連ねていった。




