意見書 3
加賀が教室からいなくなったのを見計らうと、一斉にクラスメート達は騒ぎ出した。ほとんどの生徒が加賀の考え、プランに反発しているようだ。
彼らにとって修学旅行は「教育」だと分かっていても、規制や管理されるものではないという印象があったからだ。
その想いは俊哉や健も同じ。加賀の紋切型の指示に不服げで、訝しげな健が俊哉に問い掛ける。
「どうする?」
俊哉はこれは仕方ないと考えているようだ。軽くスルーすることを頭に置いている様子。
「適当に受け流すさ。やかましく言い過ぎはしないだろ」
一方香月と夏樹はより極端に拒絶反応を示していた。香月は服の襟元を噛んで「んぬぬ!」と残念がる。夏樹は案の定、強い反発心を抱いている。
香月はプリントを広げて、規制された項目を逐一チェックする。
「あー。こうも規制がかかってちゃ、舞妓さんにも会えない!」
美穂がやや同情的に香月へ言葉を添える。
「香月のプランも台無しね」
朱美も、ある程度の枠内に修学旅行が入れられるのを覚悟していたようだが、規制の項目を目にして、若干疑問を感じているようだ。
「甘味処にも遊びに行っちゃいけないってどんな規制かしら」
桜は舌をちょっぴり出して、鉛筆の後ろで頭を掻く。
「ちょっとこれじゃ、やれないことが多すぎますね」
各人が想い、疑問を口にする中、夏樹は何も言わずにノートに何やらペンを走らせ始める。その異様に殺気だった雰囲気を察して、香月が夏樹に訊く。
「何書いてるの? 夏樹」
夏樹は口を尖らせて即答だ。
「決まってるじゃない。『意見書』よ。修学旅行についての」
香月には何かを学校に抗議したり、強烈に反発したりというアイデア、着想がないらしい。香月は夏樹に再度尋ねる。
「『意見書』?」
その問い掛けにも構わずに、夏樹はプリントを見ながら走り書きを重ねる。
「これじゃ生徒の自由もあったもんじゃないわ。『この規制が撤回されない限り、修学旅行のボイコットもあり得る』って提出するの」
「ボイコット」という言葉を聞いて、さすがに不穏なものを感じたのか、美穂が夏樹を宥める。
「『ボイコット』。それは行き過ぎじゃない? 夏樹」
美穂の言葉に夏樹は打って返す。
「だってこうでもしなきゃ、先生達動いてくれないわよ」
朱美は自分の態度を決め兼ねているようだ。しばらく考え込んだあと、香月の意向を尋ねる。
「どうする? 香月」
初日の出は昇るのか。というより元旦の雲行きが怪しくなれば、元旦自ら動くのか、夏樹達四人が香月を注視する中、香月は口を開く。
「うん。私もやってみようと思う。私も意見書、書くのを手伝うわ。夏樹」
香月のモチベーション、ベクトルを確かめた朱美も態度を決める。朱美は賛成だ。
「じゃ私も」
三人の様子、意気軒昂な様を見て、桜が恐る恐る口にする。
「私も手伝います」
4人の意見を聴いた美穂は余り乗り気ではなかったものの、仕方がないといった様子で渋々承諾する。
「仕様がないわね。私も手伝うわ。但しあんまり暴走しないでね。プール開きの騒動で私達こっぴどく怒られたんだから」
香月はそれは致し方なしといった調子で、恥ずかしそうに頭を掻くと頷く。
「うん。わかった」
四人が同調し、五人の足並みが揃ったところで、夏樹は勢いよくガッツボースを作る。
「よっしゃあ! これで5人は意見書に賛成ね。みんなでもっと練っていきましょうよ。先生達がちゃんと見てくれるように」
香月は、その夏樹の鼓舞に力強く首を縦に振る。五人は夏樹の机を中心に集まり、意見書に盛り込むアイデアを口にしていく。その様子はある種の闘士のようでもあった。
曇りの日の元旦は果たして晴れるのか。こうして香月達の修学旅行ボイコット騒動が始まったのだった。
香月達が決起する様を見て、健が俊哉に訊く。
「『ボイコット』だってよ。どうする? 俊哉」
健の問い掛けを耳にして、俊哉は楽しげに口元に触れる。
「面白そうだ。様子見ながら乗るかどうか決めようぜ」




