二十 私の!!
「れんぅ……私、絶対負けないから。絶対、お父さんになんか負けないから……」
背中にれんの腕がまわる。優しく包み込むように私を抱きしめて、彼は徐々に眠りに落ちていく。
「やった……れんから初めて抱きしめてくれた……キスしちゃおっと」
このまま窒息死させたいなぁ。なんてお茶目な考えが過ぎる程れんの寝顔は可愛くて、額とおでこを合わせてぐりぐり押し付けてみたりキスしたり鼻を噛んでみたりキスしたりほっぺを吸ってみたりキスしたりキスしたり。
「愛おしすぎて手首切りそう。なんちゃって。はは」
それにしても、作戦はうまく極まったようで何よりだ。
れんの優しさにつけ込んだみたいで少々心苦しいけれど、しかしながらこれもクライマックスに向けて仕掛けられた舞台装置なのだ。
なら許される。オーケー、ベリーグッド。
「はぁぁぁ、れんの匂いを香水にして振りかけたい……いやもういっそ香りの類にしたい。酸素、ダイジ……あへへ」
おっと、眠ってしまわぬ前に隠滅しておかなければ。
愛の巣を出てリビングへ。
セットしておいた音響機器を物置に使っている部屋にしまい、念のためお父さんの罵声を詰め込んだボイスレコーダーを窓から投げ捨てた。
流石に六十階の高さから落とせば粉々に砕け散るだろう。
「……あ、あ、あああ!? 間違った! 間違ってれんボイスのほう投げちゃった! ああああああああ!!?」
慌てて窓から体を捩って外を覗くが、時すでに遅し。もはや姿形すら視認できなかった。
「あ、あ、あ……そんな…………」
お父さん罵声ボイスの詰め合わせレコーダーを床に置き、近くに立てかけておいた金属バットを振りかぶった。
「くそっ! しねっ! くたばれクソ親父っ!! 死んじまえ——ってもう死んでた」
スッキリした私はシャワーを浴びるために脱衣所に向かい、気がついた。
れんの眠っている部屋の鍵を閉めていないことに。
万が一もないと思うけれど、れんが逃げ出すなんて。
うん、そうだ。れんが逃げるワケない。逃げる理由がないもんね。でも。
「信じてるからね、れん……ふふ、ふふふ」
きょうは長風呂にしよう。少し前に頂いた入浴剤でも使って。
罠を仕掛け終えた私は下着をカゴのなかに放り投げて、浴室に足を入れた。
「ちょっと期待してたり……ふふ、どっかで聴いたような科白ね」
お仕置きはどうしようかしら。
私が入った後の湯船でウォーターボーディングとかとても愉しそう。
手錠もつけて、れんのれんれんを後ろから手で虐めながら。
窒息しながら迎える絶頂ってどんな感覚なのだろう。ぜひ感想を訊きたい。
それからしばらく経って、浴室の外から奇声にも似た悲鳴があがった。
「あらあら、まあまあ」
お仕置きタイムのはじまりだ。




