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ヤンデレに飼われた僕は、キミに溺れ堕ちる。  作者: 肩メロン社長


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十九 私の!

 煮ていた鍋を元栓から閉めて火を消すように、私は泡沫のような思考を打ち切った。



「どうしてそんなことを……? き、急にそんな、え……なん、で……?」


「ごめんなさい。元からあなたのこと好きではなかったし、父が勝手に決めたことだから大変不本意だったというか……。まぁ元凶の父も承諾してくれたので、きょうはそれを伝えに。

 ああ、当然のことながらあなたのお父様も了承してくれているわ。……せざるを得ない、のだけれど」



 マグカップを手にとる。


 タイミングよく映し出されていたニュースに速報が割り込み、三大財閥として名を馳せている〝壮玲グループ〟の現社長と会長が、売春防止法で逮捕されたとの旨が放送されていた。


 ニュースに気がついた目の前の彼は、口をだらしなく開けて食い入るように目を見張った。



「へぇ……児童買春に強制性交、脅迫監禁詐欺横領エトセトラエトセトラ。あら、とんでもない悪人だったのねこの人……どうしたの、顔色悪いわよ?」


「ち、ちょっと……あはは、——か、確認してくる」



 蒼白を浮かべて席を立った許嫁に微笑をおくりながら、私も席を立つ。


 これで要件は終えた。


 長居するつもりはないし、他人に成り下がった彼と話すネタなんてない。


 あるとしたら、溢れてやまない想い人の色恋沙汰だけだ。


 コートを羽織って喫茶店を出ると、深刻そうな表情でスマートフォンを耳に当てて叫ぶ男性がいた。


 特に気にかける必要もないと判断した私は、男性の背後を通って帰路につく。


 灰色の空から舞い降りた白雪が頰に雫を残す。


 雪化粧を纏った住宅街はどこか懐かしく息を吹き返し、不意にノスタルジックな気持ちを植え付けられた。


 季節は冬。一月の下旬。


 玖楽蓮に恋をしてから、早いことに三ヶ月が経っていた。



「丹代さんには、悪いことしちゃったかしら。まあ、無事だったからいいのだけれど。……本当に、岡部は使えないわね」



 たった一人の少女を捕まえることすらできず返り討ちに遭うなんて。


 おかげで岡部は全治一ヶ月。しばらくは使えない。



「はあ……寒いなあ。玖楽くんの股に顔を埋めて暖を取りたい」



 丹代なあさは、玖楽蓮という少年の本質を絵で描いていた。


 それは間違いではなかった。


 彼は、文字通り生まれてくる性別を間違えていた。


 けれど、しかしながら〝れいか〟が〝れん〟で良かったと心底思う。


 初めて神様に感謝した。


 そして、産んでくださったれんのお母様にも、当然感謝の念を送った。


 少額ではあるがお金も添えて。


 この感覚の正体に気がついてから、私の行動は早かった。


 私にまとわりつくしがらみを排除するために、大金をはたいて情報を買い漁った。そしてデタラメな噂を流し情報を撹乱。時にはれいかを使って、時には徹夜で証拠を手に入れた。あとは的確な人選を配備してうまくそそのかして終わり。


 案外簡単に事が運び、今の私は有頂天だ。


 掃除も片付いて、風呂上がりのようなサッパリとした気持ちでこの日を迎えることができた。



「早く会いたいなぁ。会って、抱きしめたい」



 キスして舐めて触れて、深く身体を抉りたい。なんでもいいから私が好きだという証拠をれんに刻みたい。


 でも、まだ行動してはいけない。私が動くのは、春先。



「さて、丹代なあさは今どこら辺なのかしら」



 待ち合わせ場所にて、スマートフォンの着信履歴から丹代なあさを選び、通話ボタンを押した。


 丹代なあさとは定期的に会うようにしていた。


 頼んでもいないのにれんの情報を流してくれるからだ。


 この前も、クリスマスに告白したが、れんはローストターキーに夢中で聴いていなかったそうだ。


 さらにはジュースを装ってスパークリングワインを飲ませて酔わせようと画策したようだが、一向に酔わず逆に酔って眠ってしまったというしょうもないオチを六時間に渡って事細かに聴かされた。


 しかし、自称『玖楽くんの彼女』を宣っているくせに〝れいか〟のことは知らないようで、おもわず声をあげて笑った。


 彼が陰で何をしているのかも知らないでひとり惚けている姿があまりにも滑稽で、昼ドラの主役でも狙えるんじゃないかとエントリーシートを勝手に出しておいた。


 ひとつわかっているのは、丹代なあさよりも私のほうが上手であること。


 スマホの壁紙に設定してあるれいかの写真を指で撫でながら、目尻をあげた。


 彼女には悪いけれど。


 悪いけれどもう、どうしようもないほど好きだから。


 だから、彼を頂くことにする。


 彼の心を奪い、養って、相互に愛しあえる環境作りをしなければならない。


 その為の資金ならある。お父さんの保険金がある。株で形成していた資産もある。そこらへんの教育に関しては、お父さんに感謝している。


 だから今必要なのは、時間と協力者。



「春まで……春までには、 きっと……」



 決意して、来たる日、最高のエンディングを想像して自然と口が綻んだ。



「あっ、丹代さん? 今着いたけれど、もう到着する?」



 郵便ポストに手紙を投函する。れん宛に書いた手紙だ。


 内容は英語で『あなたの心を奪います』。



「ええ、わかった。待ってるわ」



 通話が切れる。


 そして春——私(れん)はあなた(わたし)のモノになった。




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