十四 アゲハ?
「あの、それリズリサの新作ですよね。とっても似合ってます、私もリズリサ好きなんですよ」
「高校生? どこの高校なの? とってもかわいいね?」
「独特なファッションセンスだね、ご主人様はどこなのかな?」
「犬耳かわいい! ねえこのあとひま?」
「え、あ……っといや、あ、ご主人様が……」
脈拍が急上昇した。
俗にいう逆ナンしに来た女子高生たちが身につけているのは、星鳴高校の制服だった。
ネクタイの色は赤色。つまり、一個上の先輩方だ。
アゲハやゆき先輩と同学年。
「え、かわいい~! ひとりでプリクラ撮ったの? ってことはやっぱり一人?」
「連れいないの? ならちょっと付き合ってよ」
「一緒にごはんたべよ? ね?」
「うぅーん? やっぱりきみ、どっかで見たことあるような……?」
どうしよう。危険だ。
僕ももちろん、先輩たちの身も。
そんな僕の心配をよそに、彼女はにじり寄ってきた。
「いい度胸ね、私のペットに色目使うなんて。身の程をわきまえなさいよ……ルナ、イチカ、ナナカ、カレン」
「……え? なんで、わたしたちの名前を……」
「こっち向いて、れいか。あなたのご主人様が誰なのかをしっかり見せつけてあげましょう?」
無理やり顎を掴まれた僕は、先輩たちの前で唇を奪われた。
舌を何度も絡ませ唾液の交換をしながら、ドヤ顔で三人を見遣るアゲハの胸を結構強めに叩く。
けど、離してはくれない。
ヒートアップしたアゲハが、僕のスカートの中に手を突っ込んだ。
「や……やばくない? こいつら……」
当たり前の反応を浮かべて逃げていく先輩方を、涙目で追う。
本当にヤバいと思ってるなら警察を呼んでくださいお願いします。
「んふふ、ふふふふ。ラノベの主人公はこんな快感を感じていたのね」
きっと彼女は、不良に絡まれた美少女を助けた程度の認知なのだろう。
暴力で追い払うよりかは安全で好意を持てるけれど、ディープキスで追い払う主人公なんて、僕のデータにはない。
「れいか、次は二人でプリクラ撮ろ?」
そして案の定、俗にいうチュープリを撮った僕達はゲーセンを後にして、クレープを買った。
二人でクレープに噛みつきながらぶらぶら歩きまわって、ベンチで休憩をとりながら、アゲハが最近読んだ小説の話を聞く。
退廃的でいて耽美な世界観が好きらしい。
美しい少女が苦難に晒されながら、諦め絶望して儚く散っていく様に胸がときめくという。
誰かに助けてもらわないと何もできないようなか弱い少女が、遍く総てから見捨てられ孤独に沈んでいく——深く、深く水面に。
灰色と黒と赤で彩られた世界。
なんて、美しい——
「——私、許嫁がいるの」
「え……?」
ぼそりと呟いたその言葉に耳を疑う。
突然のカミングアウト。
なんでこのタイミングで?
やっぱり頭、大丈夫だろうか。
いや——それよりも。
「今の時代で許嫁って笑えるよね。五歳年上で、誰だって一度は聞いたことあるような財閥の御曹司。別にそれでもよかった。早くこの家から出られるのなら、なんだってよかった。許嫁が居るから目立たないように生活しろって言われて、髪もボサボサになるように手入れした。厚い牛乳瓶みたいなメガネも着けて、部活も廃部寸前の美術部に入った。うちの学校、絶対どこかの部活に入らなくちゃいけないでしょ? れいかは、文芸部だっけ」
ボサボサの髪の毛。厚い牛乳瓶のようなメガネ。そして美術部。
今のアゲハからは全く想像できない姿に若干驚いて、けれど同時に納得もいった。
「……アゲハが、美術部の部長だったんだね」
「うん。驚いた? キミに恋をしてから、本気出したんだよ」
そう——キミに恋をした、あの日から。
私は、全てが変わったの。




