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公爵令嬢は全てを失い黒薔薇の騎士として生きる  作者: 桜井正宗


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新たなる決意

 目の前が真っ暗なのに、相手の動きが見えていた。これは何? どうしてリリーの姿がぼんやりと映し出されているの。


 しかも、動きも鈍くて余裕で防御できる時間があった。わたしは、ハルバードの(つか)でリリーのレイピアを防御(ガード)した。



 ギンッと鈍い金属音が耳元で響き、鼓膜を刺激する。



「――なッ! 見えていないはずなのに!」



 自分でも驚いた。

 こんな動きが出来るだなんて。

 ハルバードを扱う才能があったなんて……思わなかった。わたしは、もう弱いわたしではないんだ。目の前にいる強敵を倒し、突き進んでいく。



「てやッ!!」



 柄を振って、レイピアを弾く。

 突き飛ばされるリリーは、遠くに跳ねてよろけた。わたしはこの勢に身を任せ――遠心力を使ってハルバード大きく振るう。


 風のように雷のように、斧を地面に落とす。



「い、いやあぁぁっ!!」



 ズドンと重量感ある斧がリリーの左頬ギリギリを掠めた。



「そこまで! ローズの勝ちだ」



 勝負あった。

 わたしは視界を失った状態でリリーを地面に倒し、ハルバードで仕留めた。勝負に勝った事も嬉しいけれど、それよりも自分にこんな才能があった事実に気持ちが高揚した。


 これって……

 心が躍っているような。


 多分きっとそう。



「……く、悔しいっ! わたくし、上級騎士なのに!」



 唇を噛み、震えるリリーは叫ぶ。その隣に腰を下ろすイクス様は妹の手を握り、心配していた。



「残念だったな、リリー。ケガはないか?」

「大丈夫です。でも……兄さんのせいですよ」



 リリーは、ぼろぼろ泣いていた。

 しばらくしてリリーはお屋敷の中へ戻って行った。……ちょっとやりすぎたかな。



「改めて君の勝利だ、ローズ」

「いえ、イクス様のご指導が良かったのですよ」


「いや、僕は基本を教えただけ。これから腕を磨けば、君はもっと強くなれるよ」

「そうでしょうか……」


「分かった、この僕が直々にローズを『黒薔薇の騎士』にするよ」



 わたしは初めて聞く言葉に首を捻った。



「なんですか、それ」

「クレマチス帝国で一人かしかなれないという、女性騎士に贈られる最上級の名誉(クラス)さ」

「そ、そんな凄い存在になれるのですか? わたしが?」


「大丈夫。この僕がついている。この右手を握ってくれたら契約は完了だ。嫌なら普通の暮らしを最低限保証しよう」



 ――普通の暮らしなど、わたしにはもう出来ない。振り返っても闇しかない。散っていった家族の為にも前を向き、光へ突き進む。それが生き残ったわたしの責務なのだから。


 きっと、ヒッグスをこの手で倒して見せる。どうか、天国で見守っていて下さい、お父さま、お母さま。

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