フォートレス家
目を覚ますと知らない部屋にいた。
どこかの家のベッド。
ここはどこなの?
「……えっと」
周囲を見渡すと綺麗で豪華な部屋だった。貴族の部屋……みたい。薔薇の香りもした。あれは……『黒薔薇』ね。
「やあ、起きたんだね。ローズ」
「イクス様……」
「様はいいよ。僕はただのイクスだからね」
「命の恩人ですから」
そう、わたしは彼に助けられた。瀕死の重傷だったのに――腹部からはおびただしい血が流れていたというのに助かった。
多分、わたしは一度は死んだ。
「……ローズ、君に何があったんだい?」
わたしはあのパーティの事を詳細に話した。
「……というわけなのです。わたしは両親も親戚も、何もかもを失いました。ひとりなんです」
「それは辛かっただろう。ローズ、僕でよければ助けになろう」
「イクス様……」
彼の優しい言葉にわたしは泣いた。わんわん泣いた。涙が枯れるほど泣いて……喉が潰れるくらい泣きわめいた。
感情を抑えきれなくて、辛くて――半時。わたしはやっと泣き止んだ。
「ローズ、君はこれからどうしたい」
「……わたしには復讐する力もありません。ただの女です……だから、もう諦めるしか」
「いや、諦めるにはまだ早い」
「え……」
「理由は言えないけど、君の気持ちはよく分かるんだ。だから力を貸そう」
「力を?」
「ああ、僕はパラディンだ。騎士だ。だから、剣を教えよう」
イクス様はそう提案したけど、わたし剣だなんて……。しかもそんな強くなれる気もしなかった。わたしは昔から病弱で何をやっても不器用だったから……今回だって無理。そう思っていたけど。
でも……。
今のわたしは気を紛らわす為にも……何かやってみようと思った。
「お願いします、イクス様」
「良い目だ。君はきっと良い騎士になれる。ようこそ、フォートレス家へ」