婚約指輪
このままではイクス様は――いえ、そんな事はない。他でもない、わたしが信じなければ。祈るように戦況を見守っていると、イクス様は笑った。
余裕があるかのように動きを加速させていく。そうだ、やっぱり彼は強い。帝国が認めるパラディンなのだ。
「……おのれ、イクス! 本気ではなかったのか!」
「あたりまえだ。相手の技量を測るのは基本中の基本。だが、今はそれよりも怒りが勝っている。よくもリリーを殺したな!」
イクス様は激しく剣を打ちつけ、ついにはアレックスの剣を弾き飛ばすのではなく、破壊した。相手の折れた刃が宙を舞い、地面に突き刺さる。それを見たアレックスは、愕然とし恐怖に慄く。
「これがパラディンの力だというのか……」
「もうこれ以上、お前の好き勝手にはさせないぞ、アレックス」
「形勢逆転とでも言いたそうだな」
「これで最後だ。お前を殺した後、組織も全て潰す」
「そうだな、そうなるといいな……だが、レッドスネークはそれでも生き続ける!!」
絶叫するアレックスだったけれど、イクス様は容赦なく彼の首を刎ねた。これでもうヒッグスもアレックスも倒れた。
けれど、アレックスが言っていたように、組織はまだ壊滅していない。これからは、わたしが黒薔薇の騎士として活動し、残党を狩っていく。
◆
お屋敷は全焼し、跡形もなくなった。幸い、別荘があってそちらに移住した。兄妹達は各々の部屋へ。リリーを失った悲しみに包まれていた。
わたしとイクス様は同じ部屋で今日あった出来事を振り返っていた。
「リリーは悪い子ではなかった」
「ええ、重々承知しております。最後には、わたしを姉と呼んでくれました」
「……そうだったか。これからだったというのにな、残念だ」
こんな時だからこそ、わたしは背後から抱きしめた。手をぎゅっと握ってくれるイクス様は涙を零していた。……そうよね、妹を亡くしたのだから悲しいのは当然だ。わたしにもその気持ちがよく分かる。
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――数日後、リリーの葬式を終えて部屋に戻ると、イクス様は優しい顔を向けてくれた。わたしの体を手繰り寄せ、見つめ合う。
「ローズ、僕は決めたよ。この帝国を変えてみせる」
「同意見です。わたしも『黒薔薇の騎士』としての責務がありますから」
「気持ちは同じというわけだ」
「はい」
「なら、こっちの気持ちも……同じだといいんだが」
ごそごそと懐から小さな箱を取り出すイクス様は、それをパカッと開けた。中には綺麗な指輪があった。
もしかして……婚約指輪?
嬉しい。とても嬉しい。この時をどれだけ待ちわびたか。絶望と戦いしかなかった、わたしにはイクス様が唯一の存在だった。彼となら上手くやっていける。だから、わたしは婚約を承諾した。
「ありがとう、イクス様。お受けします」
「おぉ、こちらこそありがとう、ローズ」
指輪を嵌めて貰って、指を確かめる。キラキラと光ってまぶしい。……わたしは、拾われたあの時からイクス様を愛している。彼が好き、ずっと好き。




