Act 4-8:ハレルヤ
「名前は、ハレルヤ」
馬車に乗りこんできたQが、横で資料を読み上げた。
「いま、首都の居住地区にある家は見てきたが、もぬけのカラだった」
「次の行動を起こしているのかも」
最悪の事態を想定する。
「だとしたら、急いで彼を止めないと」
「どこへ行くっていうんだ?」
「首都にある家は、ただの居住空間です。彼の心があるのは、そこではない」
ぼくは考えをめぐらせた。
「殺害地点の隠れ家は、べつにあるはずです。さすがに、生きたまま連れ去った被害者を一度首都に運び入れて、また遺棄のタイミングで運び出す、というのは、あまりに危険度が高すぎます。彼、別荘のようなものは持っていませんか?」
「資料には見あたらないな」
「シヅヤの家もちがったのだ。ほかにどこかあるかな?」
向かいに座ったピュグマが、腕を組んだ。
「どこか空き家を見つけて、そこを使ってるとか?」
「しっくりきませんね……。もっと個人的に安心できる場所だと、ぼくは思います。彼にとっての殺人は、ある種の儀式に似た領域に入っています」
「儀式……」
ぼくは、まだ未解決の事柄について、思いをめぐらせた。
たとえば、死後につけられたと思われる、被害者の顔面への、大量の刺し傷。
たとえば、彼を事件の再現へと駆りたてる、強迫観念めいたなにか。
それらを考察しながら、同時に、ハレルヤの居場所の可能性も検討していく。
「彼の生まれ育った実家はどうです?」
「調べたんだが」
Qは資料に目を落とした。
「もうないよ。全焼したんだ。彼の両親もろとも。そのとき、彼は学園のキャンプに出かけていて、家を留守にしていた。まわりの人によると、親の死に目にあえなかったと、嘆いていたそうだよ。遺体を見ることすら、彼はできなかったんだ」
「親の死に目……」
ふと、ぼくは手にのせていたアゴをはなし、顔を上げた。
「その首都の家は、ハレルヤ自身が借りていた家ですか? つまり……奥さんは結婚して、ハレルヤの家にやってきた?」
「ああ、そうだ」
Qはうなずき。
「──そうか、ちょっと待て」
猛スピードで、資料を読みかえしはじめた。
「あったぞ!」
Qは声を上げた。
彼女は速読の技術をもつのだ。
「ハレルヤの妻、リリイの実家だ。場所は──やっぱりな、遺体が埋められていたすぐ近くだ。彼女の両親は、父親が他界し、母親は首都の養護施設にあずけられている」
「ということは、いまはだれも、その家に住んでいない?」
「そういうことだ」
Qは立ち上がり、御者に行先を告げた。




