開幕 〜追憶4〜黒衣の戦士
ゾリュドウスとの再会後、アストラルとレインは荒廃した道を歩いていた。遠くでは人が悲鳴を上げ魔獣が逃げ、あるところでは、「たす...けて...」と死にかけの言葉や、殺してくれ。許さない...。などの罵詈雑言が飛び交っていた。
「....。最悪な世界だな。」
「そうですね。アスト……黒衣の戦士様。」
現在のアストラルは、ゾリュドウスから借り受けた「黒衣」という黒装束をきている。レインも白が基調のメイド服をゾリュドウスに頼み、黒にしてもらった。
「まずは、どちらに。」
「そうだな。レヴィを探す。あとは、この先にあるはずの、轟剣国ガルガンドに向かう。」
轟剣国ガルガンド。剣士系統の冒険者が沢山住んでいる国であり、剣の実力は世界に名を轟かせるほどの国。
「ガルガンドは...恐らく...」
「分かっている。どうせ、滅んでる。」
その言葉を口にした瞬間、レインを腕に抱え、空を飛んだ。
「ふぇ?」
気の抜けた声を出した瞬間、周りにある雲も遥下にある木々や、地面を切り裂き破壊する風圧で加速した。
「いぃぃぃぃやぁあああああああああああああああ!!!!」
「こうすればすぐ着く。」
「しぬぅ!死にますぅ!しんじゃいますぅうううう!!」
「変速...チャージ……」
「アス……アス……アストラルしゃまぁ!?一体なにを!?」
怪しげな笑みでレインを見た。その表情を見たレインは心の中で「このお方に着いてきたの間違いかも...」と思ってしまった。
「チャージ……MAX....100!!!」
「きゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」
気がついた時には轟剣国ガルガンドの正門...だった場所に着いた。レインは四つん這えになり、「死ぬ..死ぬ死ぬ死ぬ……生きてる...!」とメイド口調を忘れるほど心から恐怖したのだった。
「やっぱ...か。」
「はぁはぁ...ガルガンドは冷妷獄炎により支配されてます。」
「だろうな。この感じ。」
正門には大きな剣を両手で地面に突き刺しそびえ立っていた二つ像が右は半壊し、左は跡形もなく無くなり、栄えていた街も滅んでいた。人の気配も、、生命力も感じないほどに。だが、アストラルは気づいていた。何かがいると。
「いくぞ。」
「え、あはい!」
スカートに着いた土を両手でパッパっと払い小走りでアストラルに着いていく。
「昔の面影なし。だな。」
辺りには骨、死体などの鼻を突き刺す程の異臭。そして、人ならざる者の匂い。建物は壊れ、人の姿は確認出来なかった。
「あらあらぁ。珍いしこともあるものですねぇ。」
「……」
「誰ですか!あなた!」
レインは焦りの表情と恐怖の表情が混ざりあっていた。
「私は、冷妷獄炎筆頭!!イニシャルズ24が一人っ!!α。どうぞ、よしなに。」
「さっきの気配はお前だったのか。」
燃えるような長い紅い髪の毛。見た者の瞳を焼き尽くしてしまいそうな瞳。服は体のスタイルが分かるタイトなスーツを来た女性。名はαと名乗った。レインは自分の体型とαを見比べ自分の胸元が虚しくなった。
「魔人ってあたりか。」
「ん〜♡正解っ!すぐ見破るなんてなんて素晴らしい人なんでしょうか。隣にいる女は、私の身体を見て何かに悔しがってる見たいね。」
指摘されたレインは「そ、そんなことありません!」と発言したが、声が裏返っていた。
『胸.....か。男には分からん気持ちだな。』
心の中で封じ込めた。アストラルは代わりに「どんまい。」と声をかけた。「なにがですか!!」と顔を赤らめながらアストラルを睨みつけ怒っていた。
「そんなことより、αって言ったか?この国のやつらやったのはお前か?」
「と、言ったらどうするんです?」
さぁな。と言わんばかりの表情で、両肩を少しだけあげた。その仕草を見たαはニヤけた。が、すぐに真顔に戻った。
「そうですか。私、決めている事があるんですよ。」
そう言いながら、αは真田紐で固定した後ろの腰からダガーを二本両手に構えた。
「会った方は....ズタズタに切り裂いて殺すって♡」
「そうか。」
αの怪しげでどこか興奮している反面、アストラルは、興味が無さそうに頭をかいていた。
「うっふふふ♡ その表情が崩れる様見せてね♡」
「レイン。ここから北東方面に、生存者が四から五人いる。そこに行け。」
アストラルからの指示に終始困惑した。「ですがっ……」と反抗した時、「早くしろ。怪我するぞ。」とアストラルから言われ、指示通り走り出した。レインが数メートル走り出したあと、背後から爆風が吹き荒れる。
「アスト……!黒衣様っ!!!」
バランスを崩しながらも、レインは北東方面に走り出した。
数十秒前……。
「レイン。ここから北東方面に、生存者が四から五人いる。そこに行け。」
「ですがっ……」
「早くしろ。怪我するぞ。」
レインは心配そうな顔で、指示された北東方面に走り出した。その瞬間、αは地面を蹴り、アストラルの目の前に来た。右手に持っていたダガーを振りかざした。首元目掛け、何と衝突したのか分からないが、周りを巻き込む爆風が砂塵を撒き散らし、瓦礫を、辺りにある死体や骨を撒き散らした。
「おや……。停められてしまいました........」
「……」
αの振りかざしたダガーをアストラルは鞘から剣を抜かず、鍔で抑えていた。
「これは.......驚きました。」
少し驚いた表情で、アストラルから距離を取った。自分の右手が痺れているのを感じたが、魔人の再生力なのか痺れはすぐに取れた。
「さすが、魔人だな。」
「ふむ。久しぶりに楽しめそうなお♡も♡ちゃ♡って感じですわね。」
そう言葉をこぼしたαトントンっと地面を二回飛んだ。
「!!」
アストラルは驚いた(フリ)をした。音もなく消えたαは彼の背後を取り不意打ちを狙ったのだ。だが……
「がっっっ!!!」
ノールックで、αの腹を柄で突いた。地面に転がりはしなかったものの、地面を抉るように両足と、両手に持っていたダガーで、耐えた。
『私の...あの攻撃を....。違うっ!そこじゃないっ!ノールックで的確に腹を...しかもみぞおちをなんなのこいつ!』
「なんだ?もう来ないのか?」
明らかだった。αは人の声色から相手が自分にどんな感情を抱いているのかわかる特殊能力のようなものを持っていた。アストラルから感じられたのは『無』だった。それが何を意味するのか...。
「私を....見下してるの?いや、何も感じてないのね.....。」
「感じる?何をだ。」
「恐れ!畏怖!とかの感情よっ!!」
長い紅い髪の毛が覇気によるものなのか、風によってなのかは分からないが、αの感情に呼応するかのようになびいていた。
『たった....一言....たった!一言……!!』
アストラルが放った「なんだ?もう来ないのか?」その一言だけだった。その一言で、彼女は自分が敵ですらないと言われていると理解したのだ。
「ころすっ!!!!!!!!!」
「そうか。」
一方その頃……レインは……
「はぁはぁ!!」
時折休みながらも北東方面に走り続けていた。そして...蹲る男の子を見つけ、歩み寄った。
「大丈夫ですか?」
「ママが……ママが……」
「えっ?…………!!!」
レインが見たのは下半身がない男の子の母親の死体だった。子供の手を握り、「一緒に行きましょう」と言い歩き出した。
「ねぇ。他に生きてる人達いる?」
と優しい声で聞くと、男の子は黙って指をさした。先には、喫茶店だったお店の中に生存者、男の子を含めて六人が怯えながら店内にいた。
「……。ねぇ。お姉ちゃん。あの人達に一緒に会いに行ってもいい?」
男の子と視線を合わせるために、しゃがみ。優しい目で見つめながら聞いた。男の子はコクンと縦にフリ、レインは男の子と一緒に向かった。数メートル歩き、恐る恐る扉を開けた。
「サーシャっ!またあんた外に出たのかい!!」
「ごめん……なさい……」
サーシャと呼ばれた男の子は老婆に抱きしめられていた。老婆はレインに気がついたのか。「助けてくださりありがとうございます」と礼を言った。
「あ、いえ。とんでもないです。」
「婆さん。その嬢ちゃん。見ない顔だろ。ちったぁ警戒しろ。」
「何言ってんだい。サーシャを助けてくれたんだよ?その態度はなんだい!」
乱暴に立ち上がり、老婆を見下したのは身長は百八十はあるであろう高身長かつ、ガタイのいい若者だった。
「おい。嬢ちゃん。てめぇは人間か?」
レインを見下すその視線は、明らかな警戒だった。「はぁ。」とため息をついたレインは、瞳を閉じ深呼吸をしてから言葉を発した。
「仮に、、私が人間ではないなら、既に皆様に対して牙を向いているかと思いますが?」
「あぁ???」
若者は怒号が混じる声を上げながら、背中に携えている大剣に手をかけた。それでも、レインの表情は変わらず、ただ真剣な眼差しで若者を見つめた。痺れを切らしたのか、若者は振り向き席に座った。
「そんな目は...魔獣、魔人には出来ねぇよ……。悪かった。俺の名前は、ザックだ。嬢ちゃんは」
「レイン・ノスタルジアと申します。主人である、黒衣の戦士様のメイドでございます。」
膝を折り曲げ、両手でスカートの端を掴み礼儀正しく一礼をした。その場にいた誰もが、『黒衣の戦士』という聞きなれない名前に疑問を浮かべた。
「悪いな。レインちゃんよ。その、黒衣の……なんだ?聞き覚えのねぇ名前...そいつに、仕えてるってのか?」
「はい。黒衣の戦士様は現在、αという名前の魔人と、戦っています。」
その言葉に誰もが戦慄した。ザックは無意識だったが、レインの胸ぐらを掴み「すぐにやめさせろ!」と声をあげた。周りにいたものも「無駄死にだ……」「なんてことを……」とボソボソと声をこぼしていた。だが、レインは……
「黒衣の戦士様は、強いですから。」
強い。その一言はこの場にいたザック達には今は、通用しない言葉だった。
「ふざけるな!あいつに...あいつに勝てるわけねぇだろうっ!!!やつはぁ!魔人だぞ?本気で言ってんのか!!」
「はい。」
「!!」
ザック達は、レインの眼差しを見て彼女が本気なのだと思った。だが、ザック達は恐れていた。レインは周りを見渡した。震えているもの、頭を抱え涙を流すもの。そして、レインの言っていることが、「嘘だ。」「そんなわけない……」などと言っている者達ばかりだった。ザックが椅子に腰をかけ、絶望した顔で話し出した。
「レインちゃんよ。この世界は十五年前に終わったんだよ。英雄達が死んだ。必ず勝つとか言ってたのに、この有様だ。ふざけんてだろ。だがな、俺は英雄達を責めてるわけじゃない。まぁ、俺みたいな奴らばっかじゃねぇけどな。」
コーヒーを飲みながら話した。レインは一歩歩み寄り……。
「存じております。ですが、私は信じております。英雄達が帰ってくることを……」
「はっ……。夢物語だな。まぁ、諦めろ。やつには、勝てな……」
その瞬間、外から轟音が響き渡った。喫茶店から皆が何事かと思い外にでた。目の前に広がっていたのは……。
「がはっ……!!」
αが地面に倒れ、その上に黒装束を纏った男だった。
「黒衣の戦士様っ!!」
「あれが……黒衣の戦士……?強さが……わかんねぇ……」
誰もが驚いた。αが地面に叩きつけられているだけではなく、魔人の再生力を凌駕するほどの傷だからけの身体。その反面、アストラルには傷一つ付いてなかった。
「どうした。抗って見せろ。」
「だぁああああまぁあああれぇえええ!!!! ぐあああああああああああ!!!!」
能力『創造』で『ストック』と『重力操作』を創造し、αを強力な重力で押し潰し始めた。辺りはゴゴゴっ!と悲鳴をあげ、地面が徐々に陥没さていく。さらには、崩壊しきっている建物にすらも、重力操作の影響でヒビが入っていた。
「なぁ……これほんとに...人間の力かよ……」
言葉を失った。いや、言葉に表すことが出来なかった。ザック達の目の前で起きていることは現実なのかと息を飲んだ。禁忌魔獣ほどでは無いが、SSランク以上の強さと実力がある魔人 αを圧倒していた。
「ぐっ!!っざけやがってぇええ!!!」
「…………。」
アストラルは見下していた。その目は敵になんの感情も、言葉もかける意味はないと言わんばかりの瞳だった。
「はぁ……。」
重力操作を解除し、地面に倒れるαの横を何も言わず通り過ぎる。ダメージが蓄積している体をゆっくりと、何度も地面に倒れながら立ち上がった。口元からは白い泡と、緑色の血がポタポタと垂れていた。
「はぁはぁはぁ……!待てっ!!まだ終わってないっ!!」
「飽きたんだよ。」
αは血管が浮き出るほどに血相を変え、アストラルに殴りかかった。「はぁ。」とため息をこぼしたアストラルは、腰を落とし抜刀の構えを取った。そして……
「抜刀術……。壱ノ大刀・波紋突き!!!」
αの溝を落ち目掛け、綺麗な半円を描きながら攻撃をした。しかも、鞘からは剣をださずそのまま。
「かはっ!!!!」
建物、死体、骨などの周りにあるものを吹き飛ばす爆風。レインと、ザック達が気がついた時には彼の目の前にαはいなかった。
「えっ.......どこに.....」
そう言葉をこぼした瞬間、約二十キロ先の山から轟音がした。何を意味するのか、ザックの冒険家だったものの知識として理解した。αという魔人があの二十キロも離れた山にたった...。そう、たった一突きで吹き飛ばされたのだ。人間がしていい御業ではなかった。
「おい、おい...まじかよ...。強すぎだろ。黒衣の戦士……」
「私の想像を遥かに超える強さすぎます...」
αを撃破したアストラルは無言でレイン達のいる所にゆっくりと歩き出した。ザック達は本能的に後ずさりをした。その行動とは逆に、レインはアストラルに歩み寄って行った。
「お疲れ様でございます。黒衣の戦士様。」
「あぁ。」
この戦いは始まりに過ぎなかったのです。αとの戦いが、冷妷獄炎と七英雄だったナーガ・アストラルとの再戦を意味する事になるのです。
来週最新話投稿します!ぜったい




