~ファイル73 デスアダーをぶっ倒せ!!~
「「「「「 ウオオオオオオオオッ! 」」」」」
「どけぇーっ! 邪魔なんだよ! てえぇああぁーーーーーーっ!」
ビュンッ ドガガッ バキャアッ! バシイッ ドキャアッ!
ブウンッ ガシッ ベキャアッ! ドゴオッ バカアッ!
「な、なんだこの女! つ、つえぇ!!」
「邪魔だよ! あたしの前に立つな! このろくでなし共がぁーっ! こんのやろぉーっ!」
「く、くそがーっ! くらえ! メ、メガトンパンチ!」
「うるさーいっ! このやろぉ! どいてろーっ!」
バシイッ! ドゴシャアァッ!
小紅は、次々と現れる雑兵と地の利を活かして戦い、駆け抜けながらバタバタと薙ぎ倒してゆく。
毒島のいるところまではまだまだ距離がある。だが、ここまでで既に二十人近く倒し、五十メートルほど進んでいた。
「「「「「 オラアアァーーーッ! 」」」」」
「・・・・・・ったく! ・・・・・・いったい、何人集まってんのよ! 邪魔だってのーっ!」
バシイッ ドガアッ バチイッ ベキィッ
ドガガガガガッ バチィ ドガアッ
「・・・・・・ブ、ブスジマさんっ!」
「おやおや・・・・・・。何やら、遠くが騒がしいですねェ? お客さんですかァ!?」
「お、女が一人・・・・・・。つ、つえぇっす! ・・・・・・あれは、普通じゃねえっす!」
黒いマスクをした雑兵が、毒島の前に汗を垂らして走ってきた。
「ほっほっほ・・・・・・。来ましたか・・・・・・。さァて・・・・・・ここまで辿り着けますかねェ?」
「ブスジマさん。何とかしてくださいよ! もう、どんどん仲間が倒されてますし、これではオレたちも・・・・・・。はやく助けて下さい!」
「アナタ、このボクに指図できる立場ですかァ? そんな臆病者は廃棄処分です。消えなさい」
・・・・・・ビシュイッ ドンッ! どさり
毒島は、雑兵に向かって親指で小石を弾いた。それはまるで、ピストルの弾丸のよう。
その小石で眉間を打ち抜かれ、雑兵は血を吹いてその場に倒れる。
「逃げ帰ってくるような者や、怯えて言い訳をするような者は、戦力として必要ありません」
「(こ、小石一つで、あんなに大きな身体の人を! ・・・・・・お、恐ろしい人だ!)」
優太は、毒島の足下で横たわりながら、震え上がっている。
小紅はその間にも雑兵たちとの大乱闘を続け、薙ぎ倒しながら、どんどん近づいていた。
* * * * *
「ねぇ、安藤ちゃん! なんで進まないのーっ! すすめー! いけーっ!」
みかんの車は、謎の渋滞によって、交差点のかなり手前で足止めされている。
「わからない。・・・・・・くっ、工事か事故か、何だ? 急いでるのにっ」
その時、後部座席で華蓮は、外を見て何かを発見したように目を見開いた。
「みかんチャン! 見て、あれ! この車なら、きっと通れる!」
華蓮が指差した先には、舗装されていない里道が田んぼを横切って、歩道からまっすぐ延びている。
その遙か先には、交差点を左折して延びている、大矢地区へ繋がる道路が伸びているのが見える。
「行きたい方向は、確かにあっちだ! だが、田んぼを突っ切るようだ」
「だいじだよ! 行けるって! てか、行ってー!!」
苺はみかんに発破をかけるように、じたばたしながら叫ぶ。
「わかった! ・・・・・・よ、よし。行くぞ! 田んぼに落ちたらゴメンな!」
「「 ぜったい落とさないでね! いけーっ! 」」
みかんは急ハンドルを切り、その里道へ一気に突っ込んでいった。
華蓮と苺は、揺れる車内でもしっかりと自身のバランスを保って乗っている。
霜柱が溶けた後でぬかるみ、石や木片も落ちている里道を走り、みかんの車はドロドロに汚れていく。
「やった! 行ける行ける!」
「すごいわ。わたくしの車じゃ、こんな運転できないわ!」
苺が華蓮と喜ぶ。しかし、みかんは必死な顔で汗を額から流しつつ、車幅ギリギリの道を突き進む。
「・・・・・・洗車したばかりなのに。洗い直しだな! まってろ早乙女! 常盤くん!」
ボロロロロロロロォー ガコンガコン ボルンボルルンー
泥の固まりを飛ばしながら、渋滞を回避して、みかんの車は大矢地区へ向け走っていった。
* * * * *
「なっ・・・・・・なんということじゃ! こ、これは・・・・・・」
源五郎は、小紅の自転車が置いてある横に軽トラを止め、近隣の惨状を目の当たりにした。
「・・・・・・むごい。いま、救急車と警察を呼んでやるべな!」
近くにあった電話ボックスで、源五郎は救急車を呼び、一一〇番をして警察にも通報した。
・・・・・・ォォォォッ ・・・・・・ぇぇぇーっ ・・・・・・ぉぉぉーっ
「ん! ・・・・・・声が! 歳取ると、耳が弱くてだめだんべ・・・・・・」
遠くから風に乗って聞こえてくる、音か声かもわからぬものに耳を澄ます源五郎。
「む! あ、あっちか! ・・・・・・むぅ。・・・・・・こ、これまた、むごいことを!」
土産物屋や寺に倒れている人を、源五郎は介抱するように一人ずつ確認していった。
しかし、そのほとんどがもう息をしていなかった。住民以外に、デスアダーの雑兵も多数、瀕死の状態で倒れている。
「小紅のばかたれめ! ひとりでこんなところに乗り込むなど、無謀じゃ!」
源五郎は、雪駄の鼻緒をぐっと足の指で握り込み、駆け出そうとした。
「い・・・・・・いたーっ! 先生ーっ! 待って! はー・・・・・・疲れたーっ」
「早乙女師範ーっ! はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
すると、源五郎の後方から、汗をかいて息を切らせた水穂と澪が追いかけてきた。
「ぬっ!? なっ、なんじゃお前たち! まさか、あのあと追ってきたのか!?」
「だってぇ・・・・・・小紅センパイや先生だけじゃ、無理だよぉー!!」
「ここは宇河宮市なので柏沼署は管轄外だと思いますが、わたし、一応柏沼署に通報を入れておきました! ・・・・・・しかし・・・・・・とんでもないことになってますね!」
澪は周囲を見回し、眉をひそめて手で口元を押さえた。
「ひ、ひぃーっ! 血を流して、し、死んじゃってる? うひぃぃーーーっ!」
水穂は両手で頬を押し、まるで有名な西洋絵画のような顔で、この世の終わりのような声で叫んでいる。
「きっと、デスアダーの連中に、店や寺は襲われたのじゃろう。無念だったろうにのぅ・・・・・・」
「せ、先生? この、泡吹いて倒れてる連中は? これも死んでるー!?」
「そこかしこに倒れてるのは、おそらく小紅が倒したと思われる男たちだわい。死んじゃおらんが、瀕死じゃの」
「こ、小紅サンが。ここまでやるなんて。・・・・・・ん!」
澪は、片方の耳に手を当て、そっと目を瞑った。
「はっ! 早乙女師範! 小紅サンです。向こうから、小紅サンの声が!」
「むぅ、やはり! ・・・・・・水穂! 澪! ・・・・・・わしは、こんな危険なことに、お前たち弟子を巻き込みたくはない。よいか? お前たちはここで、帰るんじゃ! 危険だべ!」
源五郎は、水穂と澪に、厳しい口調で帰るように促した。
しかし、源五郎はすぐに、目の前にいる弟子の目を見てはっとした。二人の目には、既に「帰らない」という強い意志が燃え上がっていたのだ。
「イヤです。・・・・・・早乙女先生、私たちさ、武道をやってるのに暴力に対して退くの!? ここでの敵前逃亡は私、イヤですっ!」
「わたしもです。覚悟は出来てます! だって、師範が仕込んでくれた護身の空手がわたしたちにはありますから! 小紅サンと優太サンを、連れて帰りましょう!」
二人は拳をぐっと握り、源五郎へ差し向けた。
「まったく・・・・・・わしの側には、おてんば娘しかおらんのか。・・・・・・いいかっ? まず、自分の命が最優先じゃ! 何があっても、生きて帰る。身を守るんじゃぞ!」
「「 はいっ! 」」
源五郎を真ん中に、右に水穂、左に澪が挟むように陣取り、一気に採石場跡へ向かって三人は走っていった。
* * * * *
《 県警本部より各局! 現在、宇河宮西署管内および柏沼警察署管内に於いて、強盗及び凶器準備集合、複数発生。近くに死傷者がいる模様。場所は、柏沼市の大矢街道から、宇河宮市の大矢観音公園。被疑者は、百名を超えるとの情報あり。以上、県警本部 》
柏沼署の刑事課のスピーカーが鳴ると、がたりと音を立てて刑事たちが一斉に動き出した。
「に、二斗刑事!」
「やはり、集団で一斉に動きおったか! 百名以上を束ねて動かすには、誰か力のある者がいるはずだ! 確実に毒島仁英の可能性が高い! 宇河宮西署と合同で確保に向かうぞ!」
「宇河宮西署からも応援要請の連絡が入りました。機動隊も出動したそうです!」
「我々もすぐ出動だ! いくぞっ!」
「「「「「 はっ! 」」」」」
二斗刑事は、部下の若手刑事を引き連れて、パトカー数台で現場に急行。
「二斗刑事。毒島の拠点と思われる宇河宮の店の件ですが、本部からの情報によると、その地下の古井戸から、多数の他殺体が発見されたそうです」
「なんだと! 古井戸から!?」
「身元はまだわかっておりませんが、デスアダーの傘下にいた者である可能性が高いと。県警の科捜研でいま、殺害の痕跡や毒物等の検証を行っているとのことです」
「そうか。なんということだ。それがもし、デスアダーの者だったとしたら、恐ろしいことを平気でするやつだ、毒島は!」
拳をぎゅっと握って怒りを見せた二斗刑事を乗せ、パトカーは現場へと向かっていった。
* * * * *
ザザザリザザッ! ギュギュンッ キイッ
「大矢観音公園はこの先だ! 採石場跡もその隣・・・・・・んっ!?」
「軽トラに、自転車が三台・・・・・・」
「行ってみよう!」
みかんの車が、源五郎の軽トラの近くに停まった。
三人は急いで車から降り、停まっている自転車を確認。
「あ! これ、小紅のママチャリ! やっぱり、この先にいるんだ!」
「こっちは、稲葉水穂に篠原澪? 誰かしら? この名前、聞いたことあるような・・・・・・」
「その二人は、柏沼高校空手道部の二年。早乙女の後輩だよ! その二人もいるのか!」
「あ! 小紅チャンと五行節の一人を倒したっていう、後輩の子ね! ・・・・・・ってことは、もう、あっちにみんな行ってるんだ! 急ぎましょう!」
華蓮、苺、みかんは、全力で走っていく。
その途中に転がって倒れている男たちを見ながら、三人は自然と戦闘モードの顔つきになっていった。
「ひ、ひどい! 完全に、集団で一気に襲撃された感じだ! なんだ、これは・・・・・・」
「お寺の人も、お店の人も・・・・・・。これが、あいつらのやり口。何年経っても、まったく変わっていない! ウチのおじいちゃんもお父さんも、こんな風にやられたんだ・・・・・・」
「わたくしの母も、ね! ・・・・・・ひどすぎる! 罪も無い人を、集団で襲って殺して!」
みかんは、その周囲の惨状に、ひどく顔をしかめている。
「(と、とんでもないな、これは! これが、実戦の惨さ・・・・・・なのか!?)」
「急ぎましょう! これは、この先でもっと危険なことになっているかも!」
「そーだね! これは大変だよ!!」
たたたたたっ・・・・・・ すたたたたたっ・・・・・・ だだだだだだっ・・・・・・
苺と華蓮は、眉間にぎゅっと力を込め、夜叉のような目で走ってゆく。
みかんは、不安を抱えつつも、二人の後を追って走っていった。
* * * * *
「オラァ! 待ってたぜ、一億五千万! 死ねぇーっ・・・・・・」
ヒュランッ ドグシャアアッ! ドンガラガッシャアンッ!
「ひぶぅっ? ・・・・・・ぐわぁーっ・・・・・・」
「邪魔すんなっつってんの! ・・・・・・あんたら、そこをどきなよ! あたしを通せーっ!」
源五郎たち三人の百メートル先、苺たち三人の二百メートル先まで、小紅は進んでいた。
そこには、ドラム缶や木樽を積み上げ、まるで関所のようなバリケードを組んだ男女が七人、金属バットを装備し、品のない笑い声をあげて待ち構えている。
「ヒャーハハハ! 来た来た! 金だ、金だ!! 一億五千万だ!!!」
「ペッ! あんな女一人、倒せねぇわけねーだろ!?」
その中の、ヘルメットを被った作業着姿の男が、小紅に向かってツバを吐いた。小紅は横にぱっと跳び、それを避ける。
「・・・・・・汚い野郎だなっ! そこをどけ! それともこのまま、あたしにブチのめされて警察に突き出されたい!?」
「ヒャハハ! ・・・・・・ったくよぉ。ムショから出たばっかなのに、まーた捕まってたまっかよバーカ! てめーも、デスアダー式ノック練習、やってみっかぁ? ヒャハハハ!」
「なに・・・・・・! デスアダー式ノック練習だって!? あたしの親を殺したのは、お前かぁーっ!?」
「はあぁ? なーに言ってんだてめー。知るかよ、そんな・・・・・・」
小紅は、二つの結い髪をぶわっと振り、相手に向かって一気に猛突進。
そのままドラム缶と樽に前蹴りを放ち、バリケードを崩す。その上に乗っていた男女の雑兵を全て転げ落とした。
「ぐぉ・・・・・・。んだよ、クソ女がー・・・・・・」
ヘルメットの男が気づくと、その目の前では既に五人が倒され、沈黙して小紅の前へ転がっていた。
「お前のやり口・・・・・・。お前だったのか・・・・・・。三年前、あたしの両親をーっ!」
「あ? 知らねーって言ってんだろ。いつ誰をぶん殴ったかも、ぶっ殺したかも、大して覚えちゃ・・・・・・」
ドガアァッ! ビキイッ! ベキャッ! ドガァッ! ベキイッ!
小紅は、その男に、嵐のような蹴りを浴びせかけた。
涙を流しながら、二十発ほど蹴り込み、完全に男は沈黙。
死んではいないようだが、意識は確実になくなっているようだ。
「はぁー・・・・・・ふうぅーっ・・・・・・ふうぅーっ!」
「(い、今だ! こいつ、バカじゃね? ・・・・・・後ろからなら!)」
・・・・・・シュバアッ ドッゴォォアアァッ! ドガッシャァンッ!
後ろでバットを振りかぶる女を、小紅は猛烈な後ろ蹴りでドラム缶の山へ吹っ飛ばした。
「・・・・・・全ては毒島仁英の仕業! 元凶は、毒島仁英だ! 絶対に許せるもんかーっ! 優太、いま助けに行くよ!!」
小紅は紅色の髪留めを輝かせ、上着の袖をまくり上げて、再び駆けてゆく。
その上着のポケットからは、折りたたまれた薄緑色のハンカチが少し、顔を出していた。




